見出し画像

私のキャリア実験ノート(7) 起業2年間で大事にして来たこと。そして「コロナ」と向き合う。

 2019年の春。長年勤めた会社を定年退職し起業、同時に美大の大学院に入るという暴挙に出た。それからの1年間の記憶はほとんど無い、と言っても良いぐらい夢中で駆け抜けた。朝から夕方にかけては仕事をして、夜6時過ぎから9時半まで大学院。週末は、仕事の企画を考えたり、大学院のレポートや造形を行ったりに費やした。そんな生活が何とか成立したのは、何と言ってもクライアントやパートナーの皆さんの理解があってのもの、と感謝してもしきれないし、今後は大学院で得たものを還元しなければいけない。

 私の仕事は、様々な「パーツ」から構成されている。大学の教員として教鞭をとったり、大学の社会人キャンパスの講座のデザインを行なったり、あるいは企業のキャリア開発のコンサルティングをしたりブランディングを行なったり研修会社と共に講座の開発をしたり・・・と一言では括れない。ある方からは「要するに何をやっているのかわからない」という言葉を頂戴した。それは、ある意味、誉め言葉だと思っているし会社に在籍していた頃から言われていたことだった。

 企業の社員であると共にNPOの活動をしたり、大学の非常勤講師をやったり。ただ、共通していたことは「自分の意志で選んだり、立ち上げたりした」プロジェクトということだった。キャリアで悩んでいたころの最大の原因は、自分ではどうしようもない相対的な状況に振り回されていた。その経験から、大きなプロジェクトのパーツになるより、小さくても自分が主体的に動かせるプロジェクトに携わる方が心身の健全性を保てるのだということを学んだ。その状況は起業した今、より鮮明になった。そこで大切にしているいくつかの言葉がある。

 まず、「自由と責任」。これは、前の会社でキャリア開発を行っていた時に社員の皆さんに対するメッセージとしていた言葉だ。当時の社長がスローガンとして掲げ、それを引用させて頂いた。自分で会社を立ち上げたいま、この言葉の持つ意味の重さを改めて感じているし、社員だった頃は、その本当の意味をわかっていなかったのかもしれないとさえ思っている。時間やお金といったリソースは自分の判断で使うことができる。だが、そこからどのような価値を生み出すか。それも100%自分の責任に帰する。そこに逃げ道はない。

 そして、「理念と信頼」。まだたった2年の短い経営者経験だが、この言葉の大切さを噛みしめている。会社の設立を考えていた時、同じように起業された方からお聞かせ頂いたのは「自分や自社と価値観や理念の合う人や会社と仕事をすることが大切です。たとえ大きな金額が入って来るとしても、そこにズレがあると、のちのち後悔することになります」という初動の目利きの大切さだった。

 私はすべての人に自分のキャリアや人生を創造する可能性を信じ、それを理念として会社を立ち上げた。そこで大事にしていることは、人に対する「リスペクト(尊敬の念)」だ。これを私は、多様な国や文化を背景とした仲間たちと一緒に働いたアジアでの駐在経験から学んだ。例えば、当たり前のように多くの人が口にする「ハイ・パフォーマー、ロー・パフォーマー」という言葉。そこに人へのリスペクトは無い。もともと会社に一緒に入社して来た人たちが、なぜ時間の経過とともにその能力を発揮できたりできなかったりするのか。思考停止することなく、その理由を考えることこそが、より良いキャリアや組織づくりをする上で大事なことなのではないだろうか。

 幸い、いまお付き合いをさせて頂いているクライアントやパートナーの皆さんとは、この価値観や理念を共有していると思う。だからこそお互いの信頼関係が生まれ、その信頼関係を裏切らないという心がけと行動から、新たな仕事が生まれて来る。実は、そこを読み間違えて痛い目に遭った経験もあったが・・。だからこそ、この考えは貫いて行きたい。

 さて、起業2年目に差し掛かろうとした時、「新型コロナ」という未曽有の事態がやって来た。危機はチャンスにも転じる。それを経験から感じていた。シンガポールに駐在していた時、リーマンショックが起こった。売り手市場だったアジアの経済も急速に逆回転を始める。その時、私の所属していたアジア統括オフィスで顧客データベースを構築した。売り手市場から買い手市場に反転するとしたら、「お客様の事を知る」ことが何より必要になると考え先手を打ったのだ。その数年前に設立していた企業内大学で学んだアジア各国のナショナルスタッフが各国の知見を踏まえて分析を行い、クライアントへのサービスを提供し、クライアントのマーケティング活動や商品開発などに結実した。大きな変化の時に何が起こっているのかをいち早く捉え、知見を貯めることが今後のアクションになる。私はこの1年間、クライアントやパートナーの方々と共に、コロナというインパクトによって起こる変化を捉えるいくつかのリサーチの実施や、研究所の立ち上げに取り組んで来た。


 そこで私が感じていることは、コロナによって起こった変化は「想定外」だったのだろうか?ということだ。実は潜在的に起こっていたり放置していたりして来た様々な状況が、コロナによって露わになり、変化が加速して行くのではないか。パンドラの箱が空いたのだとすれば、そこから何が起こるのか。それを探求すると共に、未来を創ることにつなげて行きたい。それが、これからやるべきことだと考えている(つづく)。



#キャリア #働き方 #起業 #デザイン #アート #スタートアップ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?