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自粛期間中、窓の恋

窓から見える、道路挟んで向かい側のアパートの一室の住人に恋をした。


コロナが流行し自粛せざるをえない日々、窓からの景色が本当の世界を伝えてくれる唯一の存在だった。私が世界で一人だけ取り残されているわけではないという唯一の証明だった。

ある春の夜、所属している学生団体でのZOOM会議に参加していた。仕事も講義も飲み会も全部オンライン上で行えるなら、都市の存在意義はどうなるのだろう。もはやSNSも一種の都市と呼べるのではないか。しかし、オンラインには偶然の出会いが存在しにくい。そんなことを数名で議論していた。

たしかに、本来のように対面で会議をしていたら、偶然なちょっとしたロマンスにでも出会えていたかもしれない。大学の講義での出会いからデートに発展することや、適当に入ったバーで友人ができることを知っていると、一人で過ごす単調な毎日に嫌気がさしていた。


会議が終わった後、いつものようにtwitterを開き「ロマンスが足りない」とツイートをした。すると素性が不明なお姉さんと通話することになった。やはりSNSも見方によっては都市と呼べるのかもしれない。とても楽しい話をしたのだけれど、通話の最後に「あなたは、宇宙人かゲイと結婚するのが良いよ。それが幸せなのかは別問題だけれど」と言われたことが延々と心にこだました。

深夜三時をまわり、そろそろ眠ろうと窓を閉めに行くと夜は更けきり、目に見えるすべての部屋の電気は消えていた。どこからかラジオの音が聞こえる。誰かの眠れぬ孤独の支えか、消し忘れのむなしき響きか。ほんの少し朝の匂いが風に含まれていた。


いや、よく見ると一部屋だけ電気がついている。

道路を挟んで向かい側のアパートの二階の角部屋。カーテンがないのか、それともかなり薄いのか、窓辺に机が置いてあり、橙色のデスクライトのみが点灯しているのが見えてしまった。ぼんやりとした人影が熱心に机に向かっている。ただそれだけだ。しかし、何故か惹かれるものがあった。性別すらもわからない。けれど、男であろうが女であろうがトランスジェンダーであろうが無性別であろうが今の私には関係がない。初対面の相手から宇宙人との婚姻を勧められたばかりだし。淡い恋心を抱いた。


その日から、何となくその部屋が気になるようになった。どこかに行こうとするとどうしてもそのアパートの前を通るので、カップ麺を買いに行くだけでも少しおしゃれをして家を出るようになった。偶然に出会えたりしないかなあなんて浮ついていた。日々が孤独ではなくなった。

私生活が充実すると、仕事も回るようになるもので、学生団体内でオンラインマンションというプロジェクトを始めていくことになった。実際にみんなに会えない今、オンライン上にマンションを建設してつながろう!という取り組みだ。全人類が住民になることができる。住民になるためには、マンションの部屋に見立てたスペースに「外」の写真と「内」の写真を投稿する。つまり、写真が「窓」の役割を果たし、その人の見ている景色を共有し、その人の内面を垣間見ることができる。面白そうでしょう。説明が悪くてピンとこないかもだけれど、一目見たらわかると思う。https://104scape.wixsite.com/yokohama-univer-city/maisonyuc 


本題に戻そう。

そんなこんなで私生活も仕事もうきうきで過ごすことができていた。ロマンスはすごい。

ある日、買い物を終わらせ家に帰る途中、例の部屋の住民が、ついに姿を現した。ベランダで一眼レフを構え外の景色を撮影していた。(はっっっっっっっっっっっ⁉粋すぎやしませんか)超ドキドキしちゃったよ。顔の造形まではわからないけれど男性に見受けられた。私はヘテロセクシャルなのでビンゴである。宇宙人じゃなかった!いやもう歓喜。やば。ぜぜってー趣味合う。昼下がりにベランダで一眼レフ構えてる人間とこんな長文日記書いてる人間、ぜってーロマンチックレベル合う。

またまたある日、植物が生活に必要な気がしてお花を買いに行ったわけです。帰りに例の部屋見たらベランダになんか緑が茂ってる~~~~~。植物~~~~~。なんかもう些細なことでも嬉しくなっちゃうよね。そういうもんだよね。

 そんな日々が続き、罪悪感が芽生えてきた。向こうは私のことを一切知らないのに勝手に恋慕している状況や、窓を閉める際や外出する際にちらと見ていることに対して、気色が悪いと自身に感じた。のぞき見をしようとしているわけでも監視しようとしているわけでもないけれど、悪意のありなしで事情が変わるわけではない。

そして、なんだかんだあって、いつしか例の部屋の住民に対しての恋心は忘れていった。けれど心のどこかで会ってみたいと思っていた。ただの願望だが、会えてしまうような気がした。


 深夜三時、ごみを捨てに外に出たら雨がザーザーと降っていた。私は雨が好きだ。「雨に唄えば」を口ずさんで軽くスキップをしながら、ミュージカルが今ここで始まったら楽しいのに!なんて思った。そういう時に脳裏に浮かぶのは例の部屋の住民だった。久しぶりに例の部屋に目をやると、橙色のぼんやりとした電気がついている。というかベランダに人がいて洗濯物を取り込んでいる!?はじまるか!?ミュージカル!?と思ったが、始まるわけがなかった。急に恥ずかしくなっていそいそと自室に入り、おとなしく寝た。


 夏休みに入り、学校からの許可が下り、万全なコロナ対策をした上で、学生団体で仕事をしに大学に入ることができた日があった。

その帰りに、メンバーと歩いていると例のアパートの前で足が止まった。「おれ、家ここです」といいながら。「ここの2階の端の部屋です」こんなことあります~~~~~~~~~~~?性別も名も知らないで恋してた相手に恋する前に知り合っていて、会いたいないつか会えるかなあって思ってた相手と毎週ZOOM会議で顔合わせていたなんて受け入れられます~~~~~~~~~?私の恋していた例の部屋の住民像はぶっ壊れたけれど、あんまタイプじゃなくて失恋したけれど、めちゃくちゃ嬉しい。伝わってるかな。文打ってたら2500字まで来てるよ今。noteの一記事の分量じゃないよ。やばいよ。それでも書きたりないぐらいだよ。やばいよ。出会えてたあ。やば、超話してみたい、超話してたわすでに。やば。現実やば。小説よりも奇。やばすぎる。

 ベランダで撮っていた写真は、オンラインマンションに投稿するための写真だったようです。HPで改めて見ると、確かにそこから撮ったら見えるであろう風景が映っていた。ベランダの茂っている緑はオクラだそうです。突然、日常生活でミュージカルが始まればいいのにという思想を持っている、映画のお好きな方です。ミュージカル両想い。あの日すでにミュージカルは始まっていた。伏線回収完璧すぎない!?事実しか書いてないよ!?脚色してないよ!?やばない!?

架空の例の部屋の住民に失恋したわけですが、現実の例の部屋の住民と、もしかするとさらにめちゃ仲良くなれるのではないかと毎日が楽しみで仕方がない!(9月現在 次の投稿へ続く)

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