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人間が人間に立ち返る場をデザインする -保けん野菜事業を事例に-




1.「保けん野菜」が大切にする“ちゃんと伝える“ということ


クレイジータンクは、ミチクサ合同会社が運営する「保けん野菜」事業の事業アドバイザーとして立ち上げ当初から関わっています。


「保けん野菜」は、ミチクサ合同会社の秋山代表が、現在さまざまな課題を抱えている国内での農業や農業従事者のリアルを、自身が会社員から農家へ転職し働きながら目の当たりにし、意思を持って立ち上げたサービスです。

「次世代に向けて残ってほしい・継続していってほしい」と心から思い信頼できる農家さんが、今後も継続してこだわりある野菜づくりに取り組める環境をつくる一助となるよう、保けん野菜サービスでは提携農家さんのお野菜を加入者のみなさんにお届けする(野菜を売る)だけではない「あたらしい伝え方」を構築しています。

サービスのコンセプトは、“ちゃんと“伝える。

現在進行形で成長を続ける保けん野菜サービスでは、この “ちゃんと“ 伝えるために様々な手法をとっています。

テクノロジーやSNSの発展により、昨今、情報とはシンプル・端的・かいつまんで取得するものになっています。しかし、伝え方や伝わり方というのは本来とても多様で、その人その人によっても異なり、時間をかけるからこそ伝わっていくものも沢山存在しています。合理化されていないからこそはじめて伝わることも沢山あります。

提携農家「のらくら農場」の萩原代表と保けん野菜加入者の方々との会話の場。のらくら農場での野菜づくりのこだわりや農業の現状など「生きた」情報を直接お聞きする。
提携農家「ないとう農園」さんでの里芋を掘りながら、里芋の「なり方」について内藤さんから学ぶ様子。初めて里芋がどのように育つのかを知る体験者も。


野菜や農家さんについて伝える情報といえば、野菜のおいしさの理由、栽培の方法、産地の情報、農家さんの情報、野菜のおいしい食べ方…etc…などが思い浮かぶかと思います。そういった情報なら丁寧に情報発信しているスーパーやサイトなどでも見たことがあるよ!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

では、こちらの情報についてはいかがでしょう?

「その日、その瞬間、その場所でしか食べられない」に出逢うため、5時間超、自分の身体を使い動かして、やっとの思いで辿り着くことができる野菜料理

こういった情報に、かつて出逢った方はいらっしゃるでしょうか?この場にいて目撃したことあるよ!という方はいらっしゃるでしょうか?

「“ちゃんと“伝える」情報の中には、こうした、非合理的で、インターネットの中を探し回っても見当たらないような、体験してもなんだかうまく言語化できないような…といった情報も存在しています。

このあとの章で、詳しくお伝えしていきたいと思います。

収穫を終え次のシーズンに向けて片付けを待つ「のらくら農場」さんのケール畑。初めて拝見したとき衝撃を受けました。


2.「移動できる陶芸窯」が、現代を生きる私たちに教えてくれること


保けん野菜サービスでは2023年末より「移動できる陶芸窯」を使ったツアリズム体験や企業向け研修機会の開発をスタートしております。

「移動できる陶芸窯」とは……?

クレイジータンク代表の竹鼻が、日本六古窯の一つである滋賀県の信楽(しがらき)で仕事をしていた頃、昔から信楽地方に存在した窯の価値を見出し、信楽焼・文五郎窯さんとともに進化させ開発したのがこの「移動できる陶芸窯」です。

この窯は、2017年に世界的コンペティション「LEXUS DESIGN AWARD」にてパネル受賞し高いデザイン的評価を受けた窯でもあります。



作品名は「Mass Production to Unique Items(=大量生産される商品を一点物を超えた唯一無二の作品へ)」

木材や炭などを高温で焼くことで自然の釉薬を生み出す技法で、破棄されたり使わなくなった陶器を一点物を超えた唯一無二の作品に変える、これまでにない技術を生み出したことが高く評価されました。

捨てられる陶器を焼き直し、自然の力だけで新しいデザインを付加した作品



この窯を使った体験や研修機会を保けん野菜サービスで開発中…と先述しましたが、窯と野菜?陶芸と農業?と不思議に感じる方もいるかもしれません。それこそが今、保けん野菜サービスで取り組む「“ちゃんと”伝える」ことに繋がると私たちは考えています。

野菜を、農業を、ありのそのまま伝える手法ももちろんありますが、さまざまな他分野と融合させながら伝え方をリデザインする、工夫する…それこそが「“ちゃんと”伝える」手法でもあるはずです。


私たちはこの移動できる陶芸窯を持ち運び、雪が散らつく長野県八ヶ岳の麓の施設をお借りして窯焼きを行ったり、

気温が氷点下前後のため、窯の温度が上がってこなかった。(標高1000m地点の窯焼きは初めての取り組み)

山梨県の南アルプスや富士に囲まれた地域で窯焼きを行ったり、

柿畑をお借りして窯焼き。秋に収穫が終わった柿の木の枝を剪定しながら窯焼きの燃料へと循環させる。


保けん野菜の協力農家さんである埼玉県伊那市のないとう農園さんの一部敷地をお借りして窯焼きを行ったりなど、現在、様々な可能性を実験しています。

ないとう農園さんの玉ねぎ畑の横で窯焼きを行う


それぞれの地域で標高差や気温差があることから窯焼きは「やってみないとわからない」「やりながら調整していく」その日その場その時ならではの体験になります。窯の状態を見ながら人間の手で燃料を送り込み続けます。まさに、そこで初めて出逢う生き物と会話をするように、窯と向き合う時間が数時間続いていきます。

最高温度は1350度に達し、すぐ目前で燃えたぎる火を見つめながら、窯から漏れ出る高温の熱気を全身で浴びているうちに畏怖の念さえ覚えます。普段生活している中では、決して味わうことができない感覚です。



昨今は生成AIが爆発的に進化を遂げています。その進化速度は、利便性や効率性という域を必要以上に超えていき「人間らしさ」すら脅かされるのではないかというほどです。

そんな時代を生きる私たちが、燃えたぎる窯の熱を全身で味わい「人間だからこそ感じる火に対する恐怖観念、畏怖の念」を抱くとき、生成AIとは全く異なる【人間】という生物が持つ湿度ある価値に気づくことができるのではないかと考えています。

さらにそこで起こる体験は二度として同じ状況になることはない唯一無二の体験。これもまたAIには創り出せない機会価値であることを実感する場となるでしょう。

生成AI時代を生きていくこれからの時代は、人間が人間として生きる意味や価値に立ち返ることができる場が必ず必要になります。

この窯は、一連の体験を通して私たち人間に「それはここにあるよ」と教えてくれるはずです。


3.その瞬間にしか味わえない「しゅん懐石」という価値


窯焼きの体験が終わると、体験者には、その場限りの2つの産物を目撃いただくことになります。

1つは、陶芸家でも出来上がりを予想することが全くできないという、窯の中で焼かれて出来た陶芸作品。もう1つは、超高温で窯の中に残った炭などの燃料です。

焼き上がったばかりの器。外気に触れ急激に冷やされる過程で、器に付着したガラス釉がチリンチリンと美しい音を立てる。
窯から取り出した燃料。どのような野菜にも火を通せるほどの高温が持続する。


この燃料を再利用して、その場限りの懐石料理、「しゅん懐石」をつくります(※瞬間の「しゅん」と野菜の旬(しゅん)を掛け合わせた懐石)。

しゅん懐石のお品書き。


窯焼きは準備を含めると約2〜3時間ほどかかります。全身で熱を浴びながら、注意深く経過を見て随時対応をしていくため、脳も身体もほとほと疲れ果てています。

その身体に取り込まれる食事は、高級レストランでも作り出すことが出来ない「おいしさ」を感じることができるのではないかと自負しています。

なぜなら身体全体のコンディション、そこに至るまでの様々な時間、内容、動き、それらを全て体験した「自分自身の状態」あっての食だからです。


先日埼玉県伊那市にある「ないとう農園」さんで窯焼きをおこなった際には、農園のすぐそばで窯焼きをするメンバーと、途中から農園に出向いて「今がまさに最高においしい」と内藤さんがおすすめする野菜を収穫するメンバーとに分かれて動きました。


「茎レタス」という中華等に使われる珍しいお野菜。内藤さんは知り得た野菜は作ってみたくなる性分とのこと。茎レタスは旬からすこし外れていましたが、お目にかかることが少ない野菜とのことでわざわざ見せてくださいました。
まさに土から掘り起こしたばかりの大根2種。右は「黒大根」。黒い表面なのに切ると中は真っ白という意外性ある大根です。


収穫してきた野菜は実に12種類。収穫からたった数分〜数十分の採れたてです。その瞬間のみずみずしさ・生命力が私たちの五感をくすぐります。

しゅん懐石は、この「今が最高においしい」と太鼓判を押されたお野菜を収穫し、そこからインスピレーションを得て、体験者で話し合いながら、その瞬間に創り上げていく懐石料理。つまりメニューのラインナップは、その日、その瞬間にならないとわからない、作れないのです。

体験者で話し合いながらその場で懐石コースメニューを決めていく。
窯の中の燃料を七輪に移し、窯に残る熱も利用する。即席で作られる畑の台所。窯の中は高温のため根菜を入れておくと火が通ります。
収穫してきたばかりの野菜をすぐに調理。味見しながら適切な調理法や味付けを決める。


時期ごとに旬野菜があるのだから、同じ時期ならば料理もパターン化するのでは?と思う方もいるかもしれません。

でも人生には同じ日が二度とないように、その日の野菜たちの状態や、体験者たちとの会話や、体験者1人ひとりの感性が絡み合い、複雑に、いくつもの価値が編み込まれていくようにつくられるからこそ、またと同じ「しゅん懐石」はつくることができません。

何度体験にきても、どこに体験にきても、常に違って、あたらしい。

だからAIには創り出せない。パターン化、フォーマット化、効率化はできない。

そのような「しゅん懐石」、人生の体験として味わってみたい、と思っていただけたら幸いです。


そして「しゅん懐石」をより引き立てるのが、人の手で何時間も燃料を入れ続け、超高温状態が保たれた窯の中で焼きあがった器たち。

割れてしまった器を窯焼きし「自然焼き継ぎ」に成功。


農場の周辺にあった石を、器の支えとして窯の中へ入れたところ、器の下部に石が接着された。その土地ごとの石を窯焼きで接着できれば、体験者は器に付属した「土地の記憶」をも持ち帰ることができる。

この器たちも、またと同じ仕上がりになることは
ない、唯一無二の器です。その出来上がりまでの一部始終すべての工程が「この場でしか」「この瞬間にしか」目撃することができないもの。

体験者の皆さまにとって、この一連の工程の積み重ねの末に味わっていただく「しゅん懐石」は体験のファイナルステージ。この器で食す体験を通じて、その日一日の出来事を心の中で反芻していただける時間になるのではないかと考えています。



4.「おいしく大切に食べる」からこそ伝わる人生の豊かさ


保けん野菜の「“ちゃんと”伝える」を実現するためには、さまざまな「伝える」アプローチの設計が必要だと考え日々サービスを企画運営していますが、このnoteでは、その伝えかたの中から「移動できる陶芸窯」や「しゅん懐石」に焦点をあててご紹介してきました。

「おいしい」ものや「こだわって作られている」もの、「ここでしか食べられない」ものは、ありがたいことに世の中にはたくさん溢れています。

しかしたとえば、

「人生を終えるときにもう一度あれを食べたい」
「今まで生きてきた中で、一番美味しかった」
「思い出に残る、あの食事」

と言われて思い浮かぶものは、意外と、誰もが唸るような煌びやかなメニューではなかったりします。

その人にとっての「特別」が生まれる瞬間は、一つの情報や要素ではなく、さまざまな状況や感情や状態が複雑に絡み合って、創り上げられているのだと私たちは考えています。だからこそその食事は、その人にとって「おいしく、大切に、感じる」食事なのでしょう。

窯の温度が高温のため餅がすぐに色づく。トングと軍手を使用し、釜からすこし離れた位置で持っても熱気が伝わってくる。
ご近所に住む方から収穫したばかりのネギの差入が。土を落としそのまま焼く。ネギの内側に甘さがぐっと閉じ込められ、中はトロトロに柔らかくなる。


これからの時代では、AIが、

「今のあなたにはこの栄養素がとれるこのメニューをおすすめします」

とあなただけのメニューを毎日適切に伝えてきてくれ、深く思考をせずとも食事メニューが与えられるようになるでしょう。

しかし、身体にいい、おいしい、必要な栄養素が揃ってる……そんな説得力ある理由を超えて本当に「おいしく大切に食べる」体験ができたとき、人は、生きることの豊かさの意味を捉えるのではないかと考えています。

私たちはこれからも、何重にも複雑に唯一無二の要素を組み上げて設計することで、AIには到達できない「おいしく大切に食べる」機会を創り出していく予定です。

体験者の皆さんが「おいしく大切に食べる」その瞬間には、保けん野菜で伝えたいと考えている農家さんやお野菜の価値もその方々の中に自然と伝わっていくでしょう。

そして“ちゃんと”伝わっていく過程で体験者の皆さまが人間として生きることの豊かさを実感し、これから訪れるであろうAI台頭時代を生きていくための道標のようなものを見つけていただけるのではないか、と考えています。


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◆保けん野菜サービスは随時加入を受け付けております◆

ホームページの「保けん野菜を知る」→「サービスの概要を知る」ページ下部に〈お申し込み〉や〈体験会のご案内〉のお問い合わせ先を記載しておりますので、お気軽にお問い合わせください。


◆保けん野菜が大切にする「“ちゃんと“伝える」ために、様々なアプローチをおこなっております◆

加入者さまには、本noteでご紹介したような「窯焼きを体験できるイベント」をはじめ、定時カブ主総会、コーン期臨時総会、ノウ地巡礼、野菜茶会など、他に類を見ない、少しクスッとしてしまうような独自のイベントに随時ご招待しております。

第一回定時カブ主総会
採れたてのカブを畑その場で食べる。まるでフルーツのような味わいに衝撃を受ける。
コーン期臨時総会
作る工程の大変さから、現在は流通で市場に出されていないという「のらくら農場」さんのとうもろこし。保けん野菜では特別に収穫させていただくところから体験。
夕焼けに包まれながらないとう農園さんの農地を巡る。
灯りをともして、内藤さんの「脳内」を巡る。農地と脳内の二つの「ノウ」を巡る体験者たち。


のらくら農場さんの山芋を使った「山芋あん」、ないとう農園さんの紅はるかさつまいもを使った「さつまいもあん」、ケールパウダーを使ったわらび餅など。子どもたちにも人気だった野菜の茶菓子。
ゆるやかなハレの場「野菜茶会」。加入者の方々とのんびり語らいます。




また、加入者のお子さん方へは、「野菜」を通じてこれから未来を生きていく力を学んでいく「子ども野菜研究会」にもご参加いただける特典がございます。

本研究会はスタートしてすでに1年超になりますが、未就学児から小学生の子どもたちが各々野菜の学びを深めています。

民間の習い事のように決まったカリキュラムで固めるのではなく、子どもたちから生まれる疑問をもとに、豊かな脱線もしながら、これは理科の授業?いや、国語?算数も出てきたぞ…いやこれは経済や流通の勉強では⁉︎…とも思える、複合的な学びの場を子どもたちと一緒にオーダーメイドで作っています。

子どもたちが、自ら育てたほうれん草を普段野菜を送ってくださる農家さんへ贈る。農家さんからはビデオレターやメッセージの返信をいただくなど、生産者と消費者という立ち場を超えた関係性へ。


さらに、野菜を自分で育ててみたいという子どもたちと「かてい農園」プロジェクトもスタート。プランターを活用し野菜を育てる方法を伝授・伴走しながら、随時起こるさまざまなトラブル(「苗がカビてしまった!」「虫がついてどうしたらいい?」等…)にも保けん野菜から対応法をレクチャーしています。専用アプリ開発も行い、育てる過程を楽しく記録していける仕組みづくりにも力を入れています。


保けん野菜を通じて送られた農家さんの野菜からとれた「種」を加入者の皆さんで分け合う「種の譲渡会」も実施しています。

野菜を育てて食べるということだけでなく「誰かから種を引き継ぐ」という体験を通じ、私たちの社会や環境の中に存在している“循環“の一部に自分自身も存在しているのだ、ということを体感していただけるのではないかと考えています。

種の譲渡会。この日は「バナナ瓜」という珍しいお野菜の種。加入者が昨年ないとう農園さんから送られてきたバナナ瓜から大切に取り出し、1年かけて保存してきたもの。


楽しいイベント等だけではなく、今現在の農業事業や農家さんが抱えるさまざまな課題やリアルについてもしっかり触れ、週に一度、加入者の皆さまへブログを配信しています。(加入者以外の方はそれぞれのブログを有料で購読いただけます)

※こちらから過去の記事もお読みいただけます。


今後も、保けん野菜サービスの「“ちゃんと”伝える」を進化させ続けていくことで、加入者の皆さまや農家で働く皆さま両者にとって「人間として生きる豊かさ」を感じていただけるようなサービスへと成長させていきたいと考えています。

ご興味ある方や活動に共感いただける方はいつでもお気軽にお問い合わせください。



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