クラファンで史上最高クラスを達成したデザインの舞台裏
こんにちは。公庄(ぐじょう)です。本日はCRAFT BANKのブランディングについて、デザイン面からお話させていただこうと思います。
この投稿から見始めた方のために、CRAFT BANK(クラフトバンク)の簡単な説明をしておきますと、
元銀行だった建物をリノベーションしてつくる、クラフトビールの醸造場(&クリエイター向けコワーキングスペース)
というものです。
この投稿のタイトルにある通り、クラウドファンディングMakuakeのビールカテゴリーでは、過去最高クラスの金額をご支援いただいています(ありがとうございます!)
場所は、京都の福知山市。
少し寂しくなってしまった商店街の中の↓
このビルをまさに現在もリノベーション中です↓
ビールのパッケージ↓
本日はプロジェクトの中でも、このパッケージデザインを中心に、CRAFT BANKのデザインがどのようにして生まれたのか、実際に提案したラフ案などもお見せしながら、お話ししたいと思います。
一つのシンボルがプロジェクトを動かし、
ブランドをつくる。
前回、プロジェクトを動かすには言葉が必要だと書きましたが、ビジュアル面では、シンボルがとても重要になると思います。
なぜ、シンボルというものが大切なのか? 正直なところ、僕にはよくわかりません。ただ、国旗を持たない国がないように、十字架のない教会が考えられないように、人類にとってそれは、普遍的な性質とさえ言えるのではないでしょうか。
難しいことはさておいても、その具体的な利点については、日々の仕事ではっきりと感じていました。たとえばあるお店のシンボルが「赤い三角形」だとすれば、じゃあ制服にも赤い三角をあしらおうとか、店内も赤が映えるよう白い壁にしようとか、様々なとっかかり、拠り所になるものです。
そしてブランディングにおいて、代表的なシンボルとは、ロゴだと思います。ブランドの語源は「焼印」だそうですが、それを考えれば、ブランドとロゴは、ブランドという概念が誕生した瞬間から、切っても切り離せない関係にあるのかもしれません(ちなみにロゴの他に、ルブタンの靴底の赤といったカラーや、マルジェラのステッチなどもシンボルと言えそうです)。
CRAFT BANKの仕事では、まだどんなブランドになっていくのか、誰もわからない段階から関わるプロジェクトでしたので、
緻密なデザインもシンプルなアイデアも得意なサン・アドの中山君に、アートディレクションをお願いしました。
中山智裕(なかやまともひろ)
サン・アド/アートディレクター・グラフィックデザイナー
1987年佐賀県生まれ。名古屋造形大学グラフィックデザイン科卒業。
2011年サン・アド入社。JAGDA会員。展覧会、舞台、イベントなどのフライヤー、ロゴデザイン、ブランディングなどのグラフィックデザインの仕事を中心に活動。*ADC賞ノミネート、TDC賞ノミネート、電通賞など
第一回目のプレゼン
CRAFT BANKとは、ビールの銘柄であると同時に、醸造所や、併設したバーの店名でもあり、またビル全体の名称でもあります。
CRAFT BANK
屋上……ビアガーデンなど
3F…… イベントホールなど
2F…… コワーキングスペース
1F…… クラフトビール醸造場&ブリューパブ
ですので、制作物もパッケージデザインはもとより、コースター、グラス、名刺、ショップカード、建物内のサインなどなど多岐に渡るため、前述の通り、まずはブランドの中心となるロゴを作るところからアプローチして行きました。
もちろん、プロのデザイナーならご存知の通り、デザインの仕事は、デザインをする前から始まります。このプロジェクトでも当然ながら具体的につくりだす前に、現地に足を運び、クライアントと対話をし、街の風土のようなものも肌で感じ、他のクラフトビールも研究(痛飲)するなど、幸福なインプットをたくさん重ねていきました。
そして第一回目のプレゼンで、まずロゴを提案。
以下が、初回に提案した案の抜粋です。
身内を褒めることになってしまいますが、さすがは中山くんで、どれも不採用にするのがもったいないほど、魅力的だなと思っていました(笑)。
スケジュール感は、キックオフからは2ヶ月、現地視察から1ヶ月くらいで、プレーンな書体からイラスト的なものまで幅広く作成し、初回は15案ほどお見せしました(ディテールを詰めずに、方向性を議論するためのプレゼンだったので、普段の仕事より提案数は多い方だと思います)。
また、いま便宜的に「プレゼン」と書きましたが、そこは「ビール片手に、なんかやろう。」というスローガンを掲げるプロジェクトですから、実際は、「こんな感じでいま考えてるんですけど……」「わ、いいですねー」といったほがらかなものでした。
クライアントのお二人は、いつも喜んでくれて、プレゼンするこちら側もとても楽しくなります。この関係性こそが良いプロジェクトにつながっていることは、何度でも強調しておきたいと思います。
↑クライアントの庄田さん(左)と羽星さん(右)
ところで、ご覧いただいたように、ロゴには、ロゴタイプ(文字)とロゴマーク(図柄)と呼ばれる2種があります。少し本題とずれますが、こういった簡単なカタカナ語ほど注意が必要で、発注者はロゴ(マーク)を欲しがっているのに、制作者はロゴ(タイプ)ばかりつくってしまい、無駄な作業が増えたとか、ミッションやビジョンという言葉の定義を曖昧にしたまま、社長が「我が社のミッション・ビジョン」を掲げてしまい、「あれ、ミッションとビジョンって何が違うんだっけ?」と、いまいち社員に浸透しないということは、よくあるのではないでしょうか。
良いデザインは、世の中に溢れている。
特徴をどうやって出すか?
閑話休題。
一点、クライアントのお二人含めて議論になったのは、元銀行のビルをリノベーションするということで、銀行感をどのくらい出すべきか? ということでした。
というのも、地方のクラフトビールという案件は、キャッチーな組み合わせですが、全国的に見れば珍しくありません。そして魅力的なデザインになりやすいがゆえに、パソコンのモニターで見ると素敵でも、俯瞰して見てみると、いまどきな洒落たデザイン(それだって十分立派ですが)にとどまってしまう。そんな懸念がありました。
一方で元銀行という特徴は、他社にはあまりないものですが、安易な銀行感はチープなものになってしまう(たとえば試作の段階では、お札のパロディのような案も考えていました)。
さらに言えば、クラフト感なども出したいし、「なんかやろう」をスローガンに掲げるこの醸造所のポップなトンマナも感じさせたい。そしてもちろん飲料として美味しそうに見えなくてはならない。そのあたりに、頭を悩ませました。
アートディレクター中山くんの良い所の一つは、自分の表現にきちんと悩み、迷うところです。とても良いセンスを持っているので、彼と仕事をする際、僕は基本的にただ「いいね!」を言う担当みたいになってしまうのですが、その代わり彼が「本当にこれでいいのかな……」と悩んで考えつづけてくれます。
優秀なデザイナーはおそらく皆そうだと推察しますが、自分がひねり出して良いと思った案、愛着さえ生まれてきた案を、もう一人の自分が冷静にジャッジして否定する感じ、とでもいうのでしょうか。そういった感覚をもっている。だからこそ、初回にプレゼンした案はクライアントにも好評だったにも関わらず全てボツにして、また、一からロゴを考え直し始めました。
ロゴの誕生。
アイデアが一気に動き出した。
そうして大いに悩み考え抜いた末に、彼が持ってきた案がこちらです。
社内の打ち合わせで見せてもらった瞬間、これだ!と思いました。シンプルな長方形と円形でできた図形が、CRAFT BANKの頭文字、「C」と「B」になっている。長方形はお札、円形はコインから着想したものなので、実は長方形は一万円札と同じ比率になっています。
また、四角と丸の組み合わせは、どことなく積み木のようで、クラフト感やものづくり感もある。
そしてこれ↓
A〜Zのアルファベットと、0~9の数字になっているのが見えますか? これがパッケージデザインのベースになっています。もう一度パッケージデザインをご覧ください。
たとえば「YUZU PALE ALE(ユズ ペール エール)」という商品なら、「Y」と「P」と「A」の頭文字がCRAFT BANKフォントでデザインされています。
元銀行ということで紙幣とコインから着想し、図形を組み合わせて文字にするデザインの仕組み自体にクラフト感があり、「ビール片手に、なんかやろう。」というこのブルワリーのスローガンに合うポップな感じもある……。一つのロゴから、一気にデザイン展開やプロジェクト全体まで動き出す感じがしました。
そしてお気づきになったかもしれませんが、パッケージにはオリジナルフォントが、もう一つあります。
そう、通帳の印字をモチーフにしたオリジナルフォントです。よく見ると、横の棒線「ー」が太くなっている所などに、デザイナーの芸の細かさを感じます。商品のスペックや名刺など、文字が多いものはこの書体でデザインされています。
↑ビールのスペックや味わいを通帳フォントで。
↑名刺も紙幣と同じ比率。裏面は庄田さんの「S」と羽星さんの「H」
これらのアイデアには確かな手応えがあったため、代案の様なものは一切つくらず、初回のプレゼンから2ヶ月後、1案のみをクライアントにプレゼン(ト)しました。案の定また「めちゃいいっすね!!」と喜んでくれて
ワイワイと盛り上がったのでした。
デザイナーとクライアントの
幸福な関係から生まれたアイデア。
ところで、このnoteをご覧の方の中には、
「提案をなんでも受け入れてくれるクライアントだから、デザイナーの個性が発揮できて
良いデザインができるのだな」と思う方もいるかもしれませんが、それは少し違います。
確かにCRAFT BANKのお二人は、
センスと理解のあるクライアントなのですが、
僕たちはただの受発注の関係ではなく、同じ仲間というか共創というか、前回も書いた通り、幸福な共犯関係と呼ぶべきものがあり、
クライアントとのふとした会話から打ち合わせがスイングし、アイデアのきっかけになることがたくさんありました。
たとえば、パッケージにあしらった醸造家の手書きサインもその一つです。
↑醸造家の手書きサインが入ったラベル
プレゼンしたパッケージデザインのラフは、ほぼ完成形に近いものでしたが、醸造家の手書きサインという要素だけありませんでした。
↑提案時のラフ。
きっかけは、クライアントである羽星さんのおっしゃった「シンプルでおしゃれなパッケージって、素敵だとは思うんですが、買って飲む気にはならないんですよね……」というつぶやきでした。
たしか、市販のビールを何十本と並べて、打ち合わせとも雑談ともなく話していた時だったと思います。確かにシンプルおしゃれなパッケージは素敵だし目立つ。でも、数百円を払って買うかというと、また別の問題だよなーと話しました。
CRAFT BANKのパッケージデザインは色や要素も多く、無機質にはならないと思っていましたし、そもそも羽星さんも、僕らの案に対して修正指示をしたわけではありません。
けれど、クリエイターとクライアントが同じチームだからこそ、この羽星さんの何気ない言葉をきっかけに、もう少し人間味のようなものを付加できないか、と考えることになったのです。
そうして雑談混じりの打ち合わせを重ね(ムダな作業は少ないのに、ムダ話は実に多いプロジェクトでした)、「あるファッションブランドのタグに
は、パタンナーのサインがクレジットされていて良かった」とか、「生産者が表記してある野菜って、確かに安心だよね」とか、「手書き文字って、小切手にサインするみたいで銀行感があるかも」とか、またワイワイ盛り上がり、ありそうでなかった、醸造家のサインが入ったパッケージは誕生したのでした。
手書きのサインが入ることで、名前ある人間が醸造している感じや、それによる品質保証感も加わり、かつデザインのあしらいとしても良いものになったと思います。
そして、クライアントと作り手の良い関係が、より良いクリエイティブを生んだ、という例が他にもあります。CRAFT BANKのもう一つのシンボルである、銀行強盗のキャラクターがそれです。
元銀行なのに銀行強盗がキャラクターになった背景については、また次回(更新する時間があれば……)詳しくお話ししていきたいと思います。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
サン・アド/公庄仁
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