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童話「盲聾の星」第九話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

彗星は、どこへ行ったのでしょう。
ラムダの両親がいる北へ向かったのです。そして、2つの大きな星と美しい星に逢いました。

「お宅の坊ちゃんは立派にやっているよ。ただ、あのお嬢ちゃんの命はそろそろだろうな。どうしたものか」

父さんと母さんは息子の無事を喜びましたが、お姫様のためにあるものを届けてやってほしいと彗星に頼みました。

「そうだな、それがいい。わしが責任を持って届けよう」

彗星は、快く引き受けました。さあ、南に出発です。


しかし、その贈りものがラムダの両親から彗星の手に渡った瞬間のことです。セリーヌ王女の生涯が、静かに終わりました。この時代、空を仰ぐ人間がどんどん減ってゆく中で、空を、星を、深く頼っていた稀な存在でした。まことに麦穂のような世界一美しかった金髪が、みるみるうちに艶も色も失っていくのを、ラムダは黙って空からぢっと感じておりました。かけがえのない人間の肉体が朽ちていくときを迎えて、ラムダははじめて時間というものを知りました。涙をこらえているうちに呼吸が苦しくなってきて、お姫様の苦しみがようやくわかりました。セリーヌ王女も、たとえ咳きこみながらでも、自分たちと同じように何万光年だって生きるだろうと思い込んでいた己の甘さを、突きつけられたのです。

悲しみが王国すべての空を覆い、何か月も雨が止みませんでした。

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