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童話『盲聾の星』第一話
――「ぼくはおっかさんがほんとうに幸になるなら、どんなことでもする。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。」
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より――
1.
信じられますか。その時代は、まだ世界に月はなく、いくつかの星だけが夜空を照らしていたのです。大きな父さん星と美しい母さん星がいて、息子の星は、名をラムダ[i]といいました。
地上の南の小島には、病に臥せっている人間のお姫様・セリーヌ王女がおりましたから、気のいい一家は特にその少女が気がかりでした。一家は、雲のような白いお城に住む彼女を赤ん坊の頃から知っておりましたし、彼女の方も同じく夕べに自室のバルコニーへ出てきては星たちに話しかけるのでした。
けれど、風の強いある秋の夜です。父さんがラムダに言いました。
「いいかい、これは天の神さまの思し召しだ。我々はしばらく北の大陸を照らすことになった」
なんでも、北の地では社会の発達に伴って人口が増え、今や夜も眠らず働く人が多いそう。
「もちろんお前も連れて行こうと思うが、いいか。少し考えてみなさい、あと7日したら出発だから」
と父さんは続けました。ラムダは、自分にも考える時間をくれる両親を持ったことを幸運に思いました。そして、あの女の子を置いて行くのは厭でしたから、よく考えてみることにしました。
[i] ラムダ・アクァーリィ、別名みずがめ座λ星。しばしば月による星食や他惑星との接近が起こる。地球から肉眼で観測可能であり、星言葉は「崇高な精神と自己犠牲」。
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