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童話「盲聾の星」第八話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

5.
さて、冬も終わろうかというころ、セリーヌ王女の病状がひどく辛いことが続きました。がらんと静まりかえった田舎にかすれた咳の音だけが響くようになって、もう幾日が経ったでしょう。お姫様はもうバルコニーには出て来られず、ベッドの上で侍女に身を起こしてもらうのがやっとでした。

ラムダもみんなも耳をすまして、はらはらしておりました。そんな星の群れを裂くように、突然びゅんと割り込んできたのは彗星です。

「おや、おや。きみらは明るくてなんぼのお星様だろう。どうしてそんな暗い顔をするのかな」

老いた彗星が言い終えないうちに、星たちはみんなして訴えました。

「彗星さん、彗星さん。どうか助けてください」

「ぼくらのお姫様が、病気で死んでしまいそうなんです」

彗星は少し間を置いて、「すまないね、急いでいるんだ」と断りました。本当にすまないと思いましたが、もっと正しくは彼らを哀れに思うのでした。星というものは、膨大な過去の記憶を持っておりますから、少し先の未来なら見通せるのです。星が予感したことは実現します。したがって、お姫様の行く末も明らかなのでした。この子たちは、それをわかっているのか否か……彗星は少し考えましたが、やがて、どちらでもよいわと顔を上げました。このお人好しな老彗星は、食い下がる若いラムダたちを見捨てることはできませんでした。ですから、

「では今度、あの女の子の救いになるような、何かいいものを持って来てあげよう」

と約束しました。心当たりが一つあるのです。

「きっとですよ」

「よろしくお願いします」

どうなるのやらわからないまま、星たちは頭を下げて彗星を見送りました。
彗星は、どこへ行くのでしょうか。

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