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いよいよJR山手線沿線の駅そば店へ。導入が進む「そばロボット」 #ロボット紹介

■コロナウイルス感染拡大と飲食店のロボット導入
 ここ数年、外食産業は新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、大きな影響を受けています。2020年2月までは飲食店の売上高は前年比プラスで推移していたものの、3月からの外出自粛要請、そして2度にわたる緊急事態宣言の発出でオフィスや繁華街からは客足が遠のいてしまいました。各飲食店の店舗ではテイクアウト・デリバリーを開始したり、検温や店内のレイアウト変更、殺菌消毒の徹底など、取り扱う料理やその提供の仕方を工夫されている一方で、従業員の人件費が重くのしかかって経営を逼迫する店舗も少なくないと思います。
 私たちコネクテッドロボティクスでは、まさに感染拡大の兆しがみられるようになった2020年3月、JR東日本の東小金井駅の構内にある駅そば店「そばいち」にそばを茹であげるロボットを導入し、実証実験を開始しました。

★外観①

当時はコロナウイルスの影響がここまで長期間にわたって外食の姿、食のシーンを変えていくことになるとは予想もできない状態でスタートを切ることになったロボットですが、本実証実験の結果、さらに便利なロボットシステムを目指して開発と導入を進めていくことになりました。
今回はこの「そばロボット」について、ご紹介したいと思います。

■そばロボットの開発の経緯
このロボットは、JR東日本スタートアップ株式会社が主催する「JR東日本スタートアッププログラム2019」に採択されたことがきっかけで開発が進んでいきました。私たちは「食産業をロボティクスで革新する」をビジョンに取り組んでいることもあり、私たちが強みとする、食に特化したAIやロボットのコントロール技術を活用して、調理プロセスをロボットテクノロジーで、駅ナカの飲食店の価値向上に貢献できないかと、ビジネス提案をさせていただきました。
当時の外食業界ではどこも人手不足が深刻化しており、少ないスタッフで運営をしている駅ナカの店舗でも従業員の確保が課題となっていました。しかも駅そば店にいらっしゃるお客様は、移動中や忙しい予定のスキマ時間に食事を取られる方が多いものです。

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ピーク時には次々と注文が入るため、熱湯が沸き続けるシンクの前に張り付いて、そばを茹で水で締める作業にかかりきりになる場合もあり、なかなか新しい従業員の確保が難しく、そこで働く方々の高齢化も進みつつあるという課題もありました。
駅ナカのそば店で、そばを茹で、ぬめりをとって冷水で締める。この一連の作業から従業員を解放できないだろうか。
そんな課題に挑戦するためにそばロボットを開発することになりました。

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■そばロボットの概要
現在、弊社では2種類のそばロボットの導入実績があります。
2020年3月から「そばいちnonowa東小金井店」に導入している単腕型のロボットと、2021年3月に「そばいち海浜幕張店」、2022年4月に「いろり庵きらくそば王子店」に導入された双腕型のロボットです。

当初は世界初のそばロボットということもあって、何かあったときにすぐにメンテナンスができるようにとご考慮いただいて、弊社がオフィスを置いている東京農工大学の最寄り駅でもある東小金井駅で、単腕型そばロボットの実証実験を行うことになりました。

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この単腕モデルは茹でる・洗う・締めるという調理プロセスを自動化したものです。従業員がテボと呼ばれる茹でざるに生そばを投入。あらかじめ決められた時間で茹でが終わると、ロボットアームが湯からざるを持ち上げて、ぬめりをとるための洗いシンクの中に浸します。
さらに蕎麦を美味しくするために、冷水のシンクでしっかり締めて水を切って人が盛りつけやすいようテボをおきます。動作が始まると、一緒に働く従業員の方にも、茹で上がるまでの残り時間がわかりやすいよう、残り時間や作業内容を表示。指示を受けたロボットは時間通り1時間あたり40食を作ることが可能になりました。

 東小金井店での実証実験を経て、そばを安定して茹でられるようになったことから、そばをテボに投入するプロセスもロボットに任せようと、2本のロボットアームからなる双腕システムを開発することになりました。

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この双腕型のロボットは番重と呼ばれるパレットに並べられた生そば取り上げ、テボへ投入し、茹でる・洗う・締めるという一連のそば調理プロセスを自動化したものです。2本のロボットアームそれぞれに設定された動きを連動させて調理を完成させていきます。

まず1本目のロボットが番重に詰められた生そばをつかみ、3つあるテボにきちんと納まるようくるりと回転させながら入れていきます。次に2本目のアームロボットが動き出して、そばを決められた時間で茹でて、ぬめりをとり、冷水で締めるまでの作業を行います。

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1本目のロボットは空になった番重を交換したり、乾燥防止のために番重の上にかけられたフィルムを取り除くという動作も行い、次の注文に備える作業もしていきます。
このように2本のロボットを活用することで1時間あたり最大150食のそばを調理することができるようになりました。

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そばロボットの導入メリット
 そばロボットは、飲食店経営の上で実用的なメリットがあるため、導入が続々と続いています。ロボットでそばを作るとなると時間短縮というメリットがあるのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。
そばは茹で時間で味や食感に変化が出やすいものです。私たちが大切にしたのは、人間が作るのと遜色なく美味しいそばを作ることでした。そのため、システムの開発のために茹であげの工程を観察して、ロボットで人間の動作の再現ができるよう注力しました。
例えば「そばいち」では、そばの美味しさが際立つ生麺を扱っているため、茹で時間やぬめりをとって冷水で締めるという工程が決められています。
そういった美味しいそばを作るのに最適な茹で方を忠実に再現することを重視したため、むしろ茹でる時間は変わらないという現状があります。時間短縮以外に考えられる導入のメリットには次のようなものが考えられます。
 
1、従業員をそば茹で作業から解放(労働環境改善)
 このロボットを導入すれば、煮えたった湯の前に立ち続けて、ひたすらそばを茹でたり、冷水でそばをしめる、といった作業から従業員が解放されます。作業の軽減、省力化という観点だけでなく、熱湯に触れて火傷をしてしまうリスクや、冷水によって手荒れがひどくなるといったこともなくなり、労働環境の改善にもつながりますし、従業員の皆さんには、接客やコロナ感染予防対応で求められる店内清掃などに時間を割いていただけるようになります。

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2、提供商品の品質の安定
同時に様々な作業が求められる忙しい店内で、全てのそばを指定された時間と茹で方で調理できるかというと、訓練された方でもなかなか難しいものです。茹ですぎてしまったり、硬いままだったり、冷水での締めの具合が足りないなど品質にムラがでてしまう可能性があります。
ロボットであれば確実に決められた時間で動作を行うので、提供する商品の品質が安定します。また、茹でシンクの下からバブルが湧き出る厨房設備を開発するなど、より美味しく高い品質で、安定した商品を提供できるようになったことも大きなメリットだと思います。

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3、経費の削減(省力化・エコの実現)
このロボットではそばを茹でるだけではなく、厨房機器のオプションとして水道光熱費の削減につながる機能も装備しています。駅そば店は開店時間が長い上に、お客様がいらした際にはたっぷりとお湯を沸かしておく必要があるのですが、「ゆで麺機省エネシステム」を使えば、稼働率やお客様の注文状況を判断して自動的に加熱したり、待機モードに切り替えて電力を調整することができます。また水量についてもそばを茹でるのに十分の湯量を保てるように自動で調整することが可能になり、水を溢れさせ続けるといった心配もありません。
これによって電気代と水道代の経費削減が実現できます。ロボットであればトレーニングの必要もありませんし、開店から閉店まで終日稼働できます。双腕ロボットなら従業員1人分の作業を任せられるので人件費の削減に貢献できると考えています。

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4, 接触頻度を減らす(衛生管理)
新型コロナウイルス感染防止のため、飲食店店舗では店内清掃や消毒など従業員の手間が増えているのも事実です。双腕ロボットであれば、必要な数のそばの番重を積み上げておけば、番重の交換からフィルム外し、そばを茹で上げるところまでを任せることができるので、狭い厨房での密を避け、接触頻度も減らすことができます。

いろり庵

人と協働するそばロボットの技術
そばロボットの開発は、単に動作を制御するシステムを構築するという単純なものではありませんでした。飲食店で稼働し続けるロボットサービスは、産業用ロボットが通常働いている工場内のような広さや温度と湿度といった条件が全く異なります。

例えば、このような制限条件が挙げられます。
・調理スペースが狭く、ロボットの設置場所が限られていること
・湯や水を扱うので湯気や水分に触れる可能性が高いこと
・熱い場所であっても、動き続ける必要があること
・形状も状態も固定ではない食品を扱う必要があること
・店舗従業員がロボットを扱い慣れているとは限らないこと

 そばロボットの開発で最も難しかったのは、狭い厨房の調理スペースで、人間とロボットが協働しながらもそれぞれの力を最大限発揮させるということでした。人の導線を邪魔することなく動かすためにはどうしたらいいのか、従業員の皆さんにも安心して同じ厨房内で働いていただくためにはどうすればいいのかを考えて機能やサポート体制も考えています。

例えば、足元にセンサーを設置して、人間が近づいたらそれを察知してスピードダウンさせる機能も備えています。また、お客様からの注文に答えながら、最大限の効率で2台のロボットを動かすために、細かい動きの他に各ロボットのさまざまな動作ワークフローのスケジューリングを含む高度なアルゴリズムを組んでいます。それによってピーク時にも対応できるよう、最大150食/時間を実現するようにプログラムされています。

また、現場で何かトラブルが発生したときにすぐに対応できるよう、遠隔カメラでのサポート体制が求められたり、さらなる手間の軽減や効率化のために、券売機と連動させてお客様の注文が入り次第、自動でロボットが動き出すようにできないかなど、継続的に改善をし続けている最中です。

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このそばロボットの導入には、多くの厨房設備メーカー、製作会社の皆様のご協力なくしては実現できなかったと思います。人とロボットが快適に協働する場を実現するためには、ロボットが活躍できる厨房設備の開発、そばを詰めて運ぶ番重の設計開発も必要になりました。

いろり庵きらくそば・そばゆで店員

この度、2022年6月24日にJR山手線五反田駅の構内にある「いろり庵きらくそば五反田店」に4台目のそばロボットが導入されました。
多くのお客様が利用される山手線内の構内ということで、皆様にも身近に感じていただける場所に導入できたことが私たちとしてもとても嬉しいです。お近くに立ち寄られた際には、ロボットが調理する姿をぜひご覧ください。

JR東日本クロスステーションでは、今後約30店舗に、このロボットを駅そば店に導入していくことが決まっています。今後も人とロボットが協働しやすい環境を作り出していくために、調理現場の声を伺いながら改善し続け、そばを食べるお客様、店員さん、経営者といったステーホルダーのみなさまに満足して頂ける製品にしてまいります。