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お米がランドセルや食器に変身!お米から生まれた次世代プラスチック「ライスレジン®」の可能性

お米で作られたバイオマスプラスチック『ライスレジン®』を知っていますか?

食用に適さない古米や、米菓メーカーなどで発生する破砕米など、本来は廃棄されてしまうようなお米を石油系プラスチックに混ぜ、バイオマスプラスチックにアップサイクル(廃棄予定のものに手を加えて、価値を付け、新しい製品へと生まれ変わらせる手法)する新しい技術なんです。

今回はそんなライスレジンを開発した会社・バイオマスレジンホールディングスの取締役CMOである山田眞さんに、ライスレジンの可能性や、事業を通じて実現したいことについてお聞きします。

山田さんが語ってくれたのは、「人間は絶滅危惧種である」という、私たちが直面している現実でした。

山田眞(やまだ・まこと)
バイオマスレジンホールディングス 取締役CMO。1961年生まれ。1984年(株)博報堂入社。2012年~2018年(株)新潟博報堂代表取締役社長。新潟博報堂では新潟三越伊勢丹様の「越品」をプロデュース。その後、新潟の価値をより高める活動を行うため、新潟三越伊勢丹様と業務提携し「NIIGATA みらいプロジェクト」を始動。2018年博報堂本社に戻り、全国各地の地域会社を統括・共創を行う部門の部門長を経て、2021年9月退職。2021年10月より株式会社バイオマスレジンマーケティング・代表取締役社長に就任し、現在に至る。

日本の抱える課題を一挙に解決! お米でできたプラスチック『ライスレジン®』とは

ーーまず、ライスレジンについて教えてください!

山田さん:
ライスレジンは、お米から作られた国産のバイオマスプラスチックです。食用には適さないような古米や、米菓メーカーなどで発生する破砕米など、活用されず廃棄されてしまうお米を使用するのが特徴です。

石油系プラスチックにお米を最大70%混ぜて作っており、石油系プラスチックの含有率を大幅に下げることで、環境負荷を減らせるんですよ!

さらに、ライスレジンは焼却するときに発生するCO2量を、原料となるお米を栽培するときに吸収できるCO2量で相殺して、実質ゼロにできます。この性質を「カーボン・ニュートラル」というんです。

ーー廃棄されるお米を使って資源を有効活用し、CO2の排出をゼロにできるなんて、すごいですね…!

山田さん:
その他にも、ライスレジンのメリットはたくさんあります。

たとえば、ライスレジンの原料は国産のため、安心して使えるだけでなく、石油市場の動向や国際情勢に左右されずに安定して供給ができます。

また、農家の高齢化によって、現在増えつづけている耕作放棄地(使われていない農地)の活用にも繋がるんですよ!

ーー使われていない農地を活用できる…? どういうことですか?

山田さん:
ライスレジンに使用するお米は、食味を追求しなくてもよいため、農作物の栽培が難しくなった場所でも、効率に特化してお米を生産できる利点があるんですよ。

耕作放棄地は、食料自給率の低下や雑草や害虫の発生など、さまざまなトラブルの根源になるため、日本が抱える深刻な課題になっています。

田んぼは1度耕作が行われなくなると、新たに作付けができる状態に戻すのに4~5年の歳月がかかります。もし、国内で食料が足りなくなったとき、耕作放棄地ばかりだったら、すぐにお米が栽培できず困りますよね。

ーー4~5年も…!それは困りますね。

山田さん:
そんな耕作放棄地で、ライスレジンの原料となるお米を作れば、国内の農地を有効活用でき、農地の保全にも繋がるというわけです。

実際に、地震や津波の被害を受けたことで、風評被害によって農作物の栽培が難しくなった福島県や、お米の栽培が盛んな新潟県では、ライスレジン製造工場を建設し、ライスレジン用のお米を作る農地を開拓しました。

ライスレジン用のお米を育てる農地

石油系プラスチックだけを悪者にできない。大事なのは、「もったいない」精神を思い出すこと

写っている製品は、すべてライスレジンで作られている。

ーーライスレジンは普通の石油系プラスチックと比べると、使用感や耐久性に違いはあるのでしょうか?

山田さん:
お米の含有率にもよりますが、含有率が高いものほど、お米ならではの黄色みがかった色合いが出たり、炊いたお米のような柔らかい香りがするのが大きな違いです。強度等は通常の石油系プラスチックとほとんど違いがありません。

ーー実際に嗅いでみると、本当にお米の香りがしますね! 面白い!

山田さん:
お米ならではの優しい触り心地や、自然な素材感を活かして、すでにさまざまな製品にライスレジンが使われているんですよ!

ライスレジンを使った食器「ほわり」とmomoシリーズ。(スプーンは除く)

山田さん:
食器やカトラリー、文房具やカバンなどの日用品はもちろんのこと、子ども用のおもちゃやランドセルなどの製品も開発しています。

左:ダイヤブロック「OKOMEIRO(オコメイロ) L」、右:試作段階のライスレジン製ランドセル

山田さん:
特にごみ袋などの薄いビニール状の製品は、ライスレジンを使うことで、お米の性質によって裂けにくくなるんです。

新潟市でモニター用に配られたライスレジン製のごみ袋。来年4月から新潟市の指定ごみ袋として販売予定。

ーー石油系プラスチックが使われるような製品であれば、ほぼなんでも作れるんですね!これなら、石油系プラスチックも減らせそうです。

山田さん:
たしかに、ライスレジンによって、石油系プラスチックの使用量を減らすことは環境課題の解決に繋がります。

ただ、石油系プラスチックも一概に悪者にはできないと思うんですよ。なぜなら、少なからず人類は石油系プラスチックのおかげで発展してきたから。

軽くて、簡単に運べて、安価に作れる石油系プラスチックは人類にとって偉大な発明ですよね。

ーーたしかに…。

山田さん:
すべての製品を自然素材で作ることができたら、1番いいのかもしれませんが、現実的に考えると難しい。

だからこそ、ライスレジンのように環境への負荷を減らすことと、従来の技術の利便性を両立する道を探すことが重要だと考えています。

また、ただ地球に優しい製品を世の中に増やしていくだけでなく、プラスチックを使う消費者側も、ものの買い方や使い方、捨て方について考え直さなければいけません。

日本人の心のふるさとであるお米で作ったライスレジンを使うことを通じて、日本人ならではの「もったいない」精神を思い出してほしい。

新しいものを買いすぎない、買ったものを使い切る、など思いやりを持った行動を増やしていただきたいと考えています。

私たちが「絶滅危惧種」であることに気がついてほしい

ーーライスレジンのように環境に優しい製品がある一方で、「大量生産・大量消費」の現代で、ビジネスとして環境課題に取り組むのは難しそうな印象があります。事業を通じて、環境を変えたいと思う理由はなんですか?

山田さん:
たしかに、資本主義を基盤としたビジネスと、環境課題は相性が良くないです。でも、みなさん気づいていないかもしれませんが、私たちは「絶滅危惧種」なんですよ。

ーー「絶滅危惧種」…!?

山田さん:
地球環境がどんどん悪くなれば、私たちは生きていけないのにも関わらず、人類は自らの手で環境を破壊しつづけていますよね。これは、ある意味自分たちで絶滅の道を歩んでいると言える。

また、最近よく聞く「SDGs(持続可能な開発目標)」には、その構造モデルとして「SDGsウェディングケーキ」というものがあります。

SDGsの構造モデル「SDGsウェディングケーキ」

山田さん:
簡単に説明すると、SDGsの掲げる開発目標の関係性を表したモデルで、その土台には、「環境課題」や「気候変動」があるんです。

つまり、自然環境が保たれていて初めて、我々が抱える問題は解決に向かえるということ。しかし、そんなウェディングケーキを支える土台を我々はどんどん犠牲にして、快適さや利便性を追求してきていますよね。

ーーついつい便利なほうに流されてしまうので、耳が痛いです…。

山田さん:
せっかく土台が崩されていることに気がついたのなら、課題解決を少しでも進めていくために、自分たちのできる範囲で環境負荷を減らす事業を行っていきたい。

人類が抱えている環境課題とビジネスを両立していくことで、成熟した経済活動が生まれるのではないかという信念のもと、事業を続けてきました。

社会は確実に変わっている。だからこそ、重要なのは適切な「情報共有」

ーー長いあいだ、環境課題に取り組まれているバイオマスレジンホールディングスさんですが、社会の環境意識の変化は感じますか?

山田さん:
我々がライスレジンの取り組みを始めたのは、まだSDGsといった言葉すらない時代でした。当時は、いかに安い素材で製品を作るかが最優先で、環境は後回しにされていました。

でも、最近になって我々の製品を使いたいと言ってくださる企業や自治体が増えているんですよ。

ライスレジンはお米が作れる環境が整っていれば、輸入に頼らず、日本中どこででも作れて、ライスレジン自体も地産地消できるので、地方企業の方には特に注目してもらっているんです。

実際に、Jリーグのクラブである「湘南ベルマーレ」では、スタジアムやイベントでライスレジンを使ったカトラリーが使用されていたり、モスバーガーでは全店舗でお持ち帰り用としてライスレジン製のフォークとスプーンが提供されています。

▼湘南ベルマーレのエコな取り組みについての記事はこちら

山田さん:
現在は試作品を含めて約800種類のアイテムにライスレジンが使われていますが、その幅がさらに増え、バイオマスプラスチックが使われるのが当たり前の世の中になれば、我々の目指す経済活動と課題解決の両立が実現できるはずです。

ーー社会は着実に変化しているんですね!

山田さん:
だからこそ、我々はライスレジンの活用を強要するのではなく、環境課題に対して志が高い人とスクラムを組み、市場を広げていきたいと思っています。

また、そんな志が高い人々を育てるには、若い世代への教育も重要です。これからの時代を生きる世代に、健全な自然環境を残すためには、上の世代からの適切な情報共有をしていかなければなりません。

なぜ環境が破壊されているのか、そして環境が破壊されるとどうなってしまうのかを伝えていくこと。これは、環境課題だけでなく、労働やジェンダーなど世界の抱えるさまざまな課題においても言えることでしょう。

実際に、我々は環境課題への意識変革を起こすため、学校や会社向けに出前授業やワークショップを行ってきました。

バイオマスレジンホールディングスでは、そんな人々の意識変革や市場への働きかけと、製品の品質の向上、そして課題解決に向けた新たな製品の開発を行いながら、持続可能な社会を目指していきたいと思います。

(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr))

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