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これからは「卒エコ」の時代? 温暖化博士・江守正多が説く“ガマンしない”温暖化対策

「大変な問題」だということはわかる。だけど、科学的によくわかってないと「正しいこと」を発言できない。

そう感じたことから、大学生のときに気候変動に興味を持ったという江守正多さん。気候変動問題について研究しながら、社会システムの大転換の必要性を説く気候変動の専門家です。

しかし、江守さんを始め、多数の専門家たちが日々警鐘を鳴らしているにも関わらず、どうも自分ごと化できない私たち。自分のことながら不思議でたまりません。

正直、暑いなかでエアコンを我慢するのも、暗がりのなかで過ごすのもあまり進んではやりたくないこと…。そんな私たちに示してくれた江守さんの提案は、“我慢”を強いない本質的なものでした。

江守正多(えもり・せいた)
東京大学 未来ビジョン研究センター教授 / 国立環境研究所 上級主席研究員

1970年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長などを経て、2021年に地球システム領域副領域長。連携推進部社会対話・協働推進室長を兼務。東京大学総合文化研究科客員教授。2022年より現職。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書の主執筆者。著書に「地球温暖化の予測は『正しい』か?」「異常気象と人類の選択」など。

「日本人、あんまり世界のことに興味ない」説

ーー「地球温暖化」ってわたしたちが小学生のころから認知しているようなテーマじゃないですか。それなのに、未だに他人事に捉えてしまうのは何でなんですかね。

江守さん:
気候変動がゆ〜っくり進むものだからですね。

10年単位で平均値を見ると、確実に暑くなっているんだけど、必ずしも来年の夏が今年より暑くなるわけじゃないし、けっこう寒い冬だって来る。長期的な目線で見ないとわかりにくいんですよ。

それに、「記録的な猛暑」と言われても、エアコンが効いている部屋にずっといれば、わからないでしょ?

たしかに…

江守さん:
記録的な豪雨だって、遠い地域で起きていて、自分に直撃しなければ「大変そうだなぁ」で終わってしまう。ニュースの映像を観ているだけでは、どうしても自分ごとにはならないですよね。

そもそもね、日本人って大雑把に言うと、あんまり世界のことに興味ないと思うんですよ。

ーーえっ、何でですか!?

江守さん:
諸説ありますが、たとえばヨーロッパだと、すぐ南側はアフリカになります。仮にアフリカで大干ばつが起きて、難民が押し寄せてくるような事態になれば、他人ごとじゃいられないよね。

日本の場合、隣国で記録的な台風が起こったとしても、すぐに難民が押し寄せてくるわけじゃないでしょ。そういう、日本が「島国」であるところは大きいと思います。

あと、日本人は「自然には逆らえぬ…」と思っている節があって。

それはちょっとわかる…

江守さん:
だから、今まで見たことがないような大雨の被害に遭っても「自然だから仕方がない」という考え方になってしまう。地球温暖化に対しても、「自然の摂理」と思っているかもしれないですね。

ほかにも、日本は失われた30年による低成長コンプレックスがありますよね。若い人の貧困も増えていて、地球のことまで考える余裕がない、というような説もあります。

「CO2を出したくても出ない!」そんな社会に作り変えよう

ーー気候変動が自分ごと化しづらい問題なのは理解できました。

そこで、自分ごと化するために、私たちが生活をするなかで、CO2の排出量が大きいものを知りたいのですが…。

江守さん:
いや、実は本当に意識するべきはそっちじゃないんですよ。

江守さん:
皆さんが生活のなかで節電をしたり、環境配慮をしたりするのは大事なことです。ただ、それだけじゃ抜本的な解決にはならないんですよ。

たとえば2020年のコロナ禍では、世界中がロックダウンをしてステイホームを強いられたわけだけど、CO2の排出量は前年比7%減だったんですよね。

あれだけ何もしなかったのに!

厳しい現実

江守さん:
なぜなら、今わたしたちが生きている社会が動いていくためには、相当なエネルギーが使われているから。ということは、やるべきは、社会の仕組み自体をCO2が出ないような形に変えること。

CO2の出ない再生可能エネルギーや電気自動車などにシフトして、ちゃんと社会が回るようにすれば、どんなにボーッとしててもCO2は出ない。

そういう「出したくても出ない」状態に早くするべきなんですよ!

ーーそれは理想的ですね…。とはいえ、社会の仕組みってどう変えれば…?

江守さん:
たとえば、2022年に「改正建築物省エネ法」という法律ができたんですね。これは、新築住宅を建てるときに、断熱の基準を義務化するものです。

ずっと必要だと言われてきたんですけど、日本では後回しになっていて、国会でも審議をしない方向で動いていたんです。ところが、それに対して声を挙げる人たちが出てきた。

江守さん:
それがはじめは省エネ建築の専門家などだったんですが、次第に関心を持った市民たちが署名活動や議論に参加するようになり、結果的に短い期間のあいだに成立したんですよ。

つまり、今後は家を建てようと思ったら、省エネ住宅で建てないといけなくなった。冷暖房需要が少なくなって、CO2排出の削減に自動的に繋がる仕組みができたんです。

ーー何も考えなくても自動的に脱炭素化するルールが…!

江守さん:
そうして私たち市民が後押ししてルールが変わると、達成感が半端ないわけですよ!

だから、わたしたちにできることは、ルールを作るところに関心を持って、自分にできる範囲で声を挙げること。

最近ではオンラインで署名もできるし、クラウドファンディングに乗っかることができるから、自分が共感したものに賛同するだけでも、最後の後押しに繋がると思うんです。

江守さん:
もちろん、エアコンの設定温度を調整するのもできることのひとつではある。

ただ、やっぱりルールメイキングのほうに声を挙げたほうが、きっと抜本的な解決にはなると思うんです。

ーーたしかに、エコ=我慢をするというイメージは強いですね。

江守さん:
ところが外国では、エコ=生活の質を上げること、と捉えられているんですよね。だって、再生可能エネルギーにシフトすれば、すべて国産の電源になるし、非常時の電源としても使えるし、メリットがいっぱいあるじゃないですか。

先ほどの「断熱住宅を増やす」という話でも、エアコンを少ししかつけなくても快適な温度で暮らせるし、ヒートショックでお年寄りが亡くなるのを防げるし、前向きに考えられるでしょ。

そういう考え方を浸透させていかないと。

ーー太陽光発電も、「金儲けに使われるもの」「土砂災害を引き起こすもの」というイメージが先行しているのはすごく残念なことですよね。

江守さん:
そう。だから、いかにエネルギーシフトがポジティブであるかを伝えていくことが大事。
エコになりましょう」「節電しましょう」っていう我慢はもう卒業して、次の考え方に変えなくちゃいけないんじゃないかな。

友だちや家族と「環境について話す」だけでもいい。

ーー最後に、わたしたちが“我慢せずにできる”環境対策を教えてください!

江守さん:
僕がオススメしているのがニュースをフォローしてアンテナを張ること! やっぱり情報が入ってこないと、なかなか興味を持つのは難しいと思うんですよね。

そのなかで、「応援したいな」と思えるような「推し企業」を見つけるのもいいと思う。

ただ、今は多くの企業が「脱炭素してます!」とアピールしないと投資家やサプライチェーンからの目が厳しくなる時代なので、どんな姿勢なのかは見極めたほうがいいですね。

ーー「なんちゃってSDGs企業」に注意ということですね。

江守さん:
企業サイドからも取り組みについてもっと発信してもらえたらいいよね。トップがどんなマインドでやっているかとか知りたいじゃない。

そうやってアンテナを張っていると、「自分たちが声を挙げたら変わるんじゃないか?」という問題を見つけるはず。

それが見えたら、署名に参加してみるだけでも世界は少しずつ変わると思うんですよね。署名なら無料でできちゃうし。究極的には、誰かと環境について話すだけでもいいんですよ。

ーー話すだけでいいんですか?

江守さん:
うん。ボランティアとか募金とかは、時間やお金に余裕がある人がやればいいと思う。

そこまで余裕がないという人は、ニュースをフォローして、興味を持って調べて理解して、友だちと話したり、SNSで呟いてみたりするだけでいい。

それだけで十分本質的だと思います。

江守さん:
あとはね、少しずつ浸透していることでもあるけど、「多様性を認める」というのもできることのひとつだと思います。

脱炭素って、ひとりだけじゃなくて、みんなで協力していかないと絶対にできないこと。そのためには、やっぱりお互いを認め合ったり尊重したりすることが大事なんです。

無理したり我慢したりすることってやっぱり本質的じゃない。まずは生活のなかに「情報を入れる」ことから始めてみるといいんじゃないかな。

(取材・執筆=いしかわゆき(@milkprincess17)/撮影=ふかやん(@nrmshr))

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