見出し画像

OEDO[2-5] 人命救助のコスト

将来の南海トラフ大地震による死者数は20〜30万人にのぼると予想されています。一方で、この一年間のウクライナ侵攻における犠牲者は民間8,000人、軍人1万人強(詳細非公表)と報道されました。これだけ大きな戦争でも、死者数は南海トラフの数十分の一にとどまっています。

しかし問題は数だけでなく確率です。どちらの可能性が高いかです。戦争と地震と。これからの30年間で死者20〜30万人規模の戦争が日本に起こる確率と、南海トラフの 70%〜80%と言われる発生率。この規模の震災となると、消防隊や救助隊が機能しないことも政府によって公表されています。

地震は天災ですから避けることは不可能です。戦争は例の「外交的努力」やら「平和的対話」やらでその確率を幾分か下げることも可能でしょう。「地球防衛隊」なら劇的に下げられます。戦争は人災ですから、ゼロ近くにまで下げられるかもしれません。戦争の危険性を下げ、災害時の人命を救うのです。

「国民の命と財産を守る」と言うのなら、可能性の低い戦争からではなく、必ず来ると言われる震災、さらには毎年のように起こる水害から守って欲しいものです。温暖化のせいか、河川の氾濫、土砂災害、集中豪雨、大型台風などによる被害者数と経済的損失は年を追うごとに激化しています。

地球規模で言えばトルコ・シリアだけではありません。昨年は、トンガの海底火山噴火から始まり、バングラデッシュの水害とフロリダのハリケーンまで、異様とも言える災害のラッシュに見舞われました。そしてこの先数十年に渡って、怒涛のような災害が押し寄せる可能性も指摘されています。

グローバルサウスはその責任を先進国に追及するでしょう。これまで先進国が排出してきたCO2により、途上国が被害を受けているのだと。日本は今や先進国から脱落したから安心──という訳には行きません。これから貧困化の道を辿る我々日本に、高額な賠償が突きつけられるのです。

既に‘90年代PKOの時代から、日本は「金だけ出して人は出さない」と非難されてきました。それが自衛隊を派遣する言い分に利用されもしました。僕の外務省に勤める友人も同様の見解を示しています。以下、「地球防衛隊」のアイディアに返された見解を彼の引用文とともに転載しましょう。

自衛隊の海外派遣に積極的となるきっかけとして外務省である程度共有されたナラティブは、湾岸戦争の際に巨額の資金援助を実施したにも関わらず国際社会から無視されたといういわゆる「湾岸のトラウマ」を受けたものだ(五百旗頭他『外交激変 元外務事務次官柳生俊二(90年代の証言)』朝日出版)

──というものですから、つまりは機雷海掃に始まり国際の平和及び安全に対する日本の貢献を世界に対してアピールするための自衛隊の海外派遣だ、そういう思いは外務省でも広く共有されています。地球防衛隊の構想もそうした点からして親和性が高いのではないかと思われます。(引用ここまで)

東日本を思い出してみてください。どこの国が一番多くの援助金を寄付して下さったか憶えていますか。僕は覚えていません。金額は忘れてしまうものです。皆さんの記憶にあるのも米軍の「トモダチ作戦」の方でしょう。2万4000人の救助活動──自衛隊の活動と併せて惜しみない賞賛を浴びました。

時代は変わりつつあります。内閣府が3年毎に行う「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」では、自衛隊に期待する役割について、’94年では「防衛」が48.9%で1位だったのに対し、’18年では「災害派遣」が79.2%のトップに躍り出ています。「地球防衛隊」法案も国民からの絶大な支持を集めるはずです。

25万人の自衛官なら、素晴らしい人的貢献の要員に昇華可能です。通常訓練を行うにも、有事の待機人員を確保するにも、余裕のある体制を整えられます。隊員の勤務体制を改善しつつ、いつどこで災害が発生しても、数万人単位での出動が可能です。国内であっても、地球の裏側であっても。

しかも既に年間5兆円の予算も確保されています。災害救助としては破格に高額です。現在の軍事費を転用するのですから、それだけ防衛には金がかかってきたということです。一度も戦争は起こらなかったというのに、戦争への不安を煽りながら、この70年間ひたすらに膨らみ続けてきたのです。

話を元に戻して、これから起こる南海トラフ大地震の確率と戦争の確率、過去70年間に起こった震災の数々と戦争の数(0回)──もう比べるまでもありません。どれだけ多くの国民の命を守れるか、そして守れたはずか。海外まで視野に入れれば、「湾岸のトラウマ」など背負う必要もなかったのです。
 
戦争への不安が際限なく軍事費を膨張させるのと同様に、人の命にも価格は付けられません。年間5兆円の予算が高いのか、低いのか、誰にも判断できません。「命は平等に軽い」と言ったパワーちゃんでさえ、愛する者のために自分の命を賭すくらいです。ちなみに南海トラフの長期損失は1410兆円です。


※最後までお読み頂きありがとうございます。この「地球防衛隊」全体の構想は最初の投稿「OEDO[0-0]地球防衛隊法案──概論」にまとめています。それ以降の章は、この章も含めて、その詳細を小分けして説明する内容になっております。

第一部[1-1]〜[1-9]では「戦争観のアップデート」について。第二部[2-1]〜[2-9]では「地球防衛隊の活動と効用」について。第三部[3-1]〜[3-9]では「予想される反論への返答」について。第四部[4-1]〜[4-9]では「地球防衛隊に至る思想的背景」についてを綴って行く予定です。

敢えて辛辣に、挑発的に書いている箇所もありますが、真剣に日本の未来を危惧し、明るいものに変えて行きたいとの願いで執筆に励んでいます。「スキ♡」「フォロー」や拡散のほど、お願いいたします。

この記事が参加している募集

防災いまできること

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?