夢と現実

「今までありがとう、幸せだったよ」
そう言って彼女は僕の胸からそっと離れた。
あー、これで本当に終わりなんだ。そんなことを思いながらもまだ実感というのはしていない。
明日になればいつもの日常が訪れるだろう。そんな甘い考えが宙を舞っている。
彼女の温もりがまだ僕の胸に残っているまま、扉が閉まった。

行ってしまった。
昨日まで、当たり前のように隣で笑っていたあの彼女が。
何度も好きだと、愛していると、確かめ合うように何度も唇を重ねていたあの彼女が。
今はもう背中すらも見えない。
追いかけようとした僕の足が沼に沈む。
今更なんだ。手遅れなんだ。やっと現実が襲いかかる。

夢を見ていたんだ。もう目を覚ましたんだ。そんな言い訳も、
あんなことしなきゃよかった。そんな反省だってもう彼女には届かない。
"ご褒美"なんてものは化けの皮を纏った爆弾だった。
わかっていたはずだ。わかっていたんだ。なのに。

少しくらい。そんな闇が僕を包んで、本当に大切なこと、大切にすべきものが見えなくなっていた。
あー、つらい。しんどい。苦しい。

彼女はこのつらさよりも、しんどさよりも、苦しさよりも、何倍も何十倍も何百倍もつらくしんどく苦しいんだ…。
「ごめん」
いなくなった彼女の背中に。
それすらも届かないまま。

#小説 #短編 #恋愛 #恋 #別れ #後悔 #彼氏目線 #物語

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?