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その論点整理は問いに答えているか

この数年、コンサルティングファームはどこも拡大路線を突き進んでおり、学生の人気就活先にも名を連ねている。ただ学生の方などは、コンサルというと、フレームワークを使いこなして論点整理や戦略立案をする、頭のよさそうな仕事、という漠然としたイメージを持たれているかもしれない。

しかし(特にtop tierの)コンサルタントの提供価値は、突き詰めると意思決定を促すことだ。(つまり、マネジメントレベル・現場レベルを問わず、クライアントに具体的なアクションを取らせること。ビジネス上の意思決定とは、必ずアクションに紐づいている。)

意思決定を促すうえでは、ぼやっとした課題感を、より小粒な個別の論点に整理するスキルが求められる。この論点整理の際に、新卒コンサルタントと採用面接を通らない人はそれぞれ別の落とし穴にはまっていることに気付いた。

新卒コンサルタントは、論点を整理するとき自分一人で考えすぎる傾向がある。その結果、15秒説明を聞いただけでは理解できず、3分間くらい説明してもらってやっと理解できる類の論点整理をしてしまう。これだと聞き手がぱっと理解できず、うまく合意形成やアクションに繋がらない。なのでそのような時は「よく知られている既存のフレームワークを活用したり、真のMECEじゃなくていいからMECEっぽい別のわかりやすい切り口で整理しよう」とフィードバックすることがある。

一方、採用面接でよく見かけるのは、論点をよく知られたフレームワークで整理してくれるが、問いには全く答えてない、というパターン。確かにとっつきやすい整理だが、そのフレームワークではこの設問で問うている課題に白黒つけられないでしょう、という事例だ。

一例を挙げてみる(もちろん実際の採用面接の設問ではない)。面接で「あるメーカーがコスト削減のために調達先Aを採用すべきか悩んでいる。この時に検討が必要な要素は?」という質問をされたらあなたはどう整理するだろうか?

この時に、「エンドプロダクトの市場サイズ、成長性、シェア、競合の強み・弱み、消費者の嗜好変化の視点から検討します、具体的には…」と答えてくれるような方が結構いる。確かに答えは構造化されている。場合によっては5 Forces、PESTや3Cを絡めてきて、よくそのフレームワークを覚えているなあ、という整理を見せてくれる。

しかし、これは市場調査レポートを作る時にはいい整理かもしれないが、この軸に沿って検討をいくら進めても、調達先を増やすべきかどうか、という問いには答えられない。

この場合検討したいのは、調達先を増やすことでコストがどう変わるか、オペレーション (搬入や生産工程、在庫の持ち方)がどう変わるか、エンドプロダクトの品質に対する影響があるか、などなど。最近だとSDGs的論点、つまり取引先の人権問題への関与、カーボンニュートラルについての全社方針との適合性も検討すべきかもしれない。これらの検討項目に、要求基準が満たされているかどうか〇×をつけていくと、調達先Aを採用すべきかどうかの意思決定につながる。

そう考えると、コンサルティング会社の面接はよくできたもので、ビジネスフレームワークをよく知っている方(しばしばみられるフレームワーク蒐集家)と、目の前の課題を解くために考える方の違いを見極めて、後者のみが入社しているということになる。入社した方は、その整理が他人から見てわかりやすいかは別として、少なくとも課題を解くために考えることができている。

結局、意思決定を促すというコンサルタントの提供価値に立ち返ると、必要なのは「世に存在する情報をきれいに整理すること」ではなく、「意思決定のために必要な情報を整理し仮説を提示すること」であり、その意識の有無は論点の切り方ひとつにも表れるものだ。

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