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「赤ちゃんと百年の詩人」B-side:本の制作ノート

私はいま神戸で1歳の娘を育てています。同じ神戸で、百年前に、子育てしながら詩を作っていた詩人 八木重吉の魅力を伝える、子育てオムニバス集「赤ちゃんと百年の詩人ー八木重吉の詩 神戸・育児篇-」は、育児中のうちに作ってみたいと考えていました。

本の制作ノートをまとめます。

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表紙と、裏表紙

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昨秋には「六甲のふもと 百年の詩人:八木重吉の詩 神戸篇」を作りました。それがきっかけで全国の重吉の愛好家の方とのつながりが生まれ、そのうれしさにも背中を押されて作った、2作目です。

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1 まずは計画を立てる

重吉のことを知らない人にも、長年の愛好家にも、楽しんでほしいとの思いから、今回は新しく「詩のひとつずつに解説を入れる」「オリジナルページを充実させる」というチャレンジを決めました。

2 詩を選び、掲載順を決める

「八木重吉全集第一巻」(筑摩書房)には神戸在住期につくられた詩が、また「八木重吉全集第三巻」には日記や手紙、古い初稿が収載されています。これらを底本として、22の詩を選びました。

詩が作られた順に並べ、子どもの成長がわかるようにしました。重吉は詩を書き直すことがあるので、詩が最初に書かれた「初稿」に遡りました。

八木重吉の詩は死後50年以上がすぎ著作権が消滅したパブリックドメインです。

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今回の参考図書。気になるページに付箋をつけていくとすごい数に。

3 解説を書く(詩)

「重吉をよく知らないので、解説があるほうが面白い」との夫の意見を受け、今回はすべての詩に解説を入れてみることにしました。詩に解説をつけるなんて野暮なこととも思いつつ、詩のじゃまにならないよう、すみに小さく載せています。

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4 解説を書く(オリジナルページ)

神戸での重吉の足跡はほとんど調べられていません。書き残された詩やエピソードをもとに、「神戸に住んでいるからこそ調べられる重吉の足跡」を探してみることにしました。たとえば、こんなこと。

Q:重吉が子育てした家はどこにあった?今はどうなっている?

重吉が住んでいたと伝えられている「御影町柳851」という住所は、調べると、今の住所では御影中町1丁目にありました。現在の「御影柳公園」の西隣です。そこに行ってみると現在は駐車場になっていました。

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住居跡周辺を子どもと散歩

Q:重吉が勤めていた御影師範学校の教員情報は残っている?

重吉が英語教師として勤めていた御影師範学校は、神戸大学の前身にあたります。当時の教員情報が残っていないか「神戸大学大学文書史料室」に問い合わせると、御影師範学校の教員関係の公文書は現存していないが、重吉が在職していた当時(大正12年)の「卒業記念アルバム」が1冊あるとのこと!さっそく見せてもらいに行くと、載っていました、重吉先生の写真。

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大正12年卒業アルバムの表紙

Q:市場はどこにあった?

コロッケが好きだったという重吉家族が利用した市場はどこか。現在の御影市場に、前身の「廉売市場」のことを尋ねたり、大正時代の地図で場所を調べたり。実際にそこを歩いてみたりしました(今は住宅地になっていた)。

魚崎町・住吉村・御影町全圖

当時の地図(前田慶三 著.魚崎町・住吉村・御影町全圖:紳士富豪の御別邸付記.1921.)

Q:詩に描かれている「祭り」は何?

「柳もかるく」という、祭りを描いた詩があります。現在も続いている御影のだんじり祭りの風景でしょう。弓弦羽神社に問い合わせると、戦前は、現在の日程とは違って毎年4月14・15日に祭りがあったとのことで、作詩の日付とピッタリ合いました。重吉宅の近くもだんじりが通っていたようです。

Q:家族写真はどこの写真屋で撮った?

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娘1歳の誕生日に、家の近くで撮ったという家族写真。大正時代に、御影周辺にあった写真屋を探しました。

Q:1924年に重吉が神戸で聴いたインド詩人タゴールの講演会。作詩にどんな影響があった?

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タゴールの神戸講演について調べたり、重吉も読んだという当時のタゴール詩集も読んでみました。

などなど・・・。

これらをもとに、4ページのオリジナルページを作りました(写真は一部)。

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解説(詩・オリジナルページ)を書くために、資料を探したり、問い合わせたり。とても時間がかかりました。

今回調べてみると、今の神戸・御影の街は戦災・震災を経て、百年前の面影を追うことはとても難しいこともわかりました。本を調べ、人に尋ね、ひとつずつ確認していくなかで、まるで重吉のいた大正時代に生きているような面白い感覚にもなっています。調べるほど謎にぶつかるばかり。引き続き調べていきたいです。

5 タイトルを決める

前作にそろえて、「赤ちゃんと 百年の詩人 ー八木重吉の詩 神戸・育児篇ー」に決めました。

6 組版する

組版ソフトを持っていないので、組版はPowerPointです。前作では、PowerPointの縦書きが字崩れしやすく面倒だったので、今回は横書きにしました。

7 表紙・挿絵をつくる

表紙を水彩木版画で作成しました。神戸らしく、前回が「山」だったので今回は「海」。重吉が訪れた御影浜をイメージしています。遠く海に浮かぶのは大阪や和歌山。私も大好きな神戸の海の風景です。

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誌面にも赤ちゃんの挿絵を入れることにし、これも水彩木版画。

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8 校正・チェック

八木重吉への尊敬の念を込めて、校正とチェックはぬかりなく。詩の表記のチェック、年表や場所などの事実確認、体裁上のチェック(フォントの文字化け、ノンブルの位置、レイアウトなど)です。

9 印刷と製本

印刷製本は、ネット印刷サービスの「冊子印刷工房」を利用しました。PDF入稿です。丁寧で、価格帯も良心的。

・A5正方形 148mm×148mm(かわいく手にとりやすい形に)
・本文26ページ
・無線綴じ(本ぽくしたいので)
・左綴じ(詩が横書きなので)
・紙は上質紙(本文90g、表紙は180g)。PPなし(ナチュラル質感を重視)
・遊び紙あり 水色(詩のイメージにあわせて)
・表1・2は4色印刷、ほかモノクロ印刷(経費削減)

そして、完成!

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おわりに

育児を「詩の言葉」で表現することや、百年前の神戸の暮らしに思いを馳せること。そんな新鮮な発見が、私自身の育児の楽しみをふくらませてくれました。

作業は、育休中の、娘が寝ている深夜や早朝に少しずつすすめました。添い寝を離れると起きて泣きだす娘の敏感センサーで、作業は遅々としてなかなか進みませんでした。

興味をもってくれる方に、届きますように。
私も、娘が大きくなったとき、「赤ちゃんのときこんなだったよ」と、思い出話とともに詩を一緒に読める日を楽しみにしています。


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・本の紹介記事も書きました。


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