SS『迷惑行為は御遠慮ください』

同じ形の同じ色の一軒家が並ぶ場所。彼らのアイデンティティはどこにあるのだろう。いつも気になるのは、自分の家を説明する時どうやって表現するのだろうということ。
同じ家がいっぱいあるところの3つ目？
今家主が全員出てきたら、同じ顔してたりしないかな。そうすれば怪談になるのに。
電車から見る世界は楽しい。
まるでジオラマみたいに作り物で、確かすぎて不確かになる空間が永遠と続くよう。あちらとこちらでは温度が違う。ふと、ここから落ちたら？と考える。ふわっと浮いて飛んでいけそうな気がする。
みんな手の中のスマホにしか興味が無い時間を求めている。私はそれを眺めている。
今日みたいな雨の日は、人はよりストレスがかかり注意が散漫になる。ぼーっと何も見ることが出来ない状態に至る。そういう時は狙い目だ。隣に立ったサラリーマンのポケットを見る。もっと警戒すればいいものを。
やっぱり自分の方が強いと思ってるからかな。身の危険がこんな衆人環視の中で自分に訪れるだなんて思ってないんだろうなぁ。
やたらと股を開いて座る男。
ずかずかと歩いてきては、女性と女性の間に座る。そして、2人分を使ってるのでは？と思えるぐらい脚を開いて、寝る。不愉快だ。毎日これを繰り返す彼は、何のためにこの場で寝ているのだろう。口を大きく開けて、隣の女性にもたれ掛かるように寝る。
電車がグラッと揺れた。
この線路の連結部分なのか、カーブなのか分からないけどいつもここでは揺れる。大きく揺れるから、覚悟していてもみんなガクッと揺さぶられて倒れそうになる。
私も案の定、窓に向かって倒れるしかなくて、その上後ろに立っていたサラリーマンが私の方に倒れてきたから窓に手をついて体重を支えなきゃダメだった。
こんな人の迷惑を考えない野郎に少しでも近づかないといけないなんて反吐が出る。
アホヅラを人に晒して、平気な神経が分からない。神経質そうなメガネをつけてるくせに、何も考えてないんだろうな。
電車の中で口を開けて寝る危険性が。
今、自分の口に注がれたものがなにかも分からず、どこかで次第にお腹が痛くなる。彼がどこまで乗るのか知らないけど、腹痛は下車してから訪れるだろうか。それとも。
さぁ、あとひと駅。こんな間抜けな顔から一刻も早く、おさらばしよう。早く学校に行きたいなぁ、そういえば今日はあみちゃんの誕生日じゃん。