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【バイト奮闘記⑨】辞めれなかったっぽい?

辞めるって決めた。
張ってた気が緩んだ。
仕事が上手いこといった。

勤労感謝の日、祝日のバイト。
私は土曜日のバイト後に苦しすぎて「もう辞める」と決めていた。
死にたくなる場所では生きていく必要が無い。私の人生はそこまで余裕が無い。

とはいえ、『バイトを辞める』という行為は初めてで怖かった。どうやって辞めればいいかも実に迷う。
A店を辞めたい。
B店で働きたい。
とりあえず、B店のシフトは土曜日と木曜日全部入り、金曜日もある程度入った。
だから、正直A店で働ける時間はないと言っても過言ではない。

このままフェードアウトという手もある。
A店で面接に行ったのに、B店に行けと言われてむしろB店の方が多く入った11月だった。

A店とB店はチェーン店でも系列店でもない。
たた、近くにあるから仲が良いだけだろう。
あまり説明もなく、私はB店のミーティングに出た。本当に説明はほとんどなかった。(以下の記事に詳しいことは書いてある)

B店は本当に楽しかった。
勉強になるし、自分が役に立っている、という自信がつく。有難いことだった。
だから、そちらを選ぶのは当たり前にも思える。だって、給料も良くて、ちゃんとコミュニケーションが取れて、研修もある、マニュアルもあるから覚えられなくても暫くは見てやればいい。
そして、ちゃんと契約書を渡してくれている。

そう、A店はまだ契約書も交していないのだ。
給料を入れる銀行なども聞かれていない。
私は給料を得ることが出来るのだろうか?
そんな疑問すら浮かぶ。
火曜日が今月最後のバイトだったのに、そういう話もなさそうだ。

そういう不信感は置いておいても、やっぱり私は居酒屋バイトが向いてないんだと思う。
タバコもダメだ、お酒もダメだ。
そんな人間雇う方が無意味だろう。

考えるべきことは、どうやって辞めるか、である。

LINEで済ませてもいい物だろうか。
母と兄に相談することにした。
両者とも対面で辞めると伝えるべきだという。それはそうだろう。私も流石にそうするつもりではあった。
だって、B店では継続してバイトをする予定だったから、これからもA店店長には会ってしまうだろう。その時気まずいのも、B店とA店の間でモヤモヤが残るのもめんどくさいからである。

でも、私は喋るのが苦手だ。
情報過多になってしまい、相手が受けとりきれなくなってしまう。
適当に喋る分にはたくさん気軽に喋ることが出来るのだけど、自分の気持ちを伝えるには文字の方が的確で落ち着いて伝えれるから好きだった。

だから、LINEで先に理由も含めて辞めたいと思っていると伝える方がいいのではないか?と考えた。

けれど、母は「お話がありますので、早めに行ってもいいですか?」とLINEするのがいいという。

そうか。
じゃあ、とりあえず他の人の意見も聞いてみよう。多数決は自分だけを責めなくてよくなるから気が楽だった。
「みんなもそう言ってたからねー!私も乗っただけだしー!」って、何もかも自分を責めて死ねばいいのにと思ってしまう私にはありがたいことなのだ。

そして結果、めっちゃわかれた。
なので、母の意見であった「とりあえず話があるだけを伝える」を採用することにした。

LINEで「今後について話があるので、少し早く行っていいですか」と送る。
既読はつかない。
家を出る。
既読はつかない。
店に着く。
既読はつかない。
既読がつかないまま、5分前にお店に入ろうとすると丁度お客さんが現れた。

「入られますか?」

私がそう言うと入ってくる。

ひぇぇえぇぇ。

「今見た」
と店長。とはいえ、お客さんが来たら対応しなければならない。すぐに仕事を開始する。エプロンをつけて、飲み物を作り、注文を受け、店長に通す。

しばらくして、予約が2件入る。

直に満席になり、注文の量はいつもの週末とほぼ同じだ。
じゃんじゃん飲む。
じゃんじゃん食べる。

自粛の終焉が来たのだろうか、みんな楽しそうで私も幸せな気持ちになる。
お酒の注文が増えていくけれど、大体の人がハイボールだったため、
「30入れたらいい、そのあと氷を入れて、炭酸を少し少なめに入れる。で、氷を持ち上げるようにして中を混ぜる。そのあと氷を少し追加すべし」とさすがに覚えることが出来た。

だけど、お酒って色んな種類があるのねぇ。
『ハーパー』というお酒を『パーパー』と聞き間違えて、見つけられない。
何語かも分からない。
カタカナなのか漢字なのか、日本語か英語かも分からないから伝票にうまいこと書けない。
そもそも、それが日本酒なのか焼酎なのかも分からないから飲み方を聞くのを忘れる。
何において、ロックなのか水割りなのかソーダなのか分からない。
お酒を飲まないから。
だけど、ハイボールの場合はもう酒と炭酸!と分かりやすいのでありがたい。

もうみんなハイボールだけを飲んでくれ。

そもそも、とても高い位置にお酒が置いてあるため、取るのも一苦労である。チビには働くことは難しい。

割とお茶を注文される方が多かった上に、ハイボールと生ビールが基本を占めていたため、私はあたふたせずに仕事が出来た。

別の席に注文を取りに行くと、同時にお酒を頼む。ああ、やめておくれ、覚えられないよ。
と嘆くけれど、今日の私はもう諦めがついているので

「このドリンクは、あそこで、これを出したから伝票に書き込んで、あれとあれを作ればいい」

と思考ができる。
生理が終わったのも大きい。
だけど、たぶん、「辞めるから関係ないや」と力が抜けたのだろう。失敗しても、成功しても辞めるんだから関係ない。ここで褒められようが、貶されようが私にはそもそも適性がないのだから、仕方ない。

どうでもいいさ。

出来ることだけやろう。

そう思えたから、仕事が出来たのだろう。

適当にやっつけて、ノルマをこなすだけだ。
今日で辞めるし、もう覚えなくていいもんね。

そう思っていたから、日本酒の場所を覚えたり、焼酎の割り方を覚えたりをしなくていいと頭の容量を使わなくて済んだのである。

私はそんなに頭が良くないんだな。
容量がスポンジのようではないから、覚えるに力を入れたら無理なんだな。
頭がいいと思われたかったんだな。
仕事ができると思われたかったんだな。

でも、それも全て過去のこと。ここではもう働かないし、お客さんとして来れるように円満に退職するのが大事です。

そんなこんなで、お客さんが同時に会計になったが適度に気をつけてレジを打つ。
ミスは一度だけ、先にお渡ししたお釣りに500円を入れるのを忘れていて、一瞬待ってくださいと取りに戻っただけだった。

忘れていたとしたら、お客さんにとって結構な損になってしまったから、気をつけなければならないと肝には命じる。
だけど、レジの位置が少し高いせいで、私の目に映る角度の表示では9が4に見えてしまうのだ。
私はそんなに小さくないと思うのですが、現実は小さいそうで、毎回背伸びをしながらレジを打つ。

少しだけ、悲しい気持ちになる。

あと、コップを洗った後にカゴに置いた時、コップがバランスを崩し一つだけ割れてしまった。
申し訳ない。
ああ、やってしまった。
と思うけれど、正直何であんなにもバランスの悪い食器置き場なのかが疑問で、罪悪感を背負いすぎることはなかつた。

私は今まで力が入りすぎていたんだ。
誰もいなくなった店内で、私はひとりご飯を食べることになった。
賄いはほんとうにおいしくて、幸せである。
店長のことも嫌いじゃない。
ご飯を食べながら「はなしってなに?」と聞かれた。そのタイミングでおひとり様のお客さんが現れる。
対応が始まる。
お酒を出す。私はご飯を食べる。

その合間で、店長は改めて声をかけてくる。
小声で喋ろうと。

「まず、B店のシフトの提出が先にあったのでもう週末はほとんどそっちに入ることになりました。ですので、こっちのバイトにはあまり入れません」

「やっぱりお酒が苦手で、仕事もできずご迷惑ばかりかけててしまっているので、B店に専念したいです」

私が言う。辞めたいということを伝える。

『迷惑に関してはそんな事ない』

「でも、私はすぐに焦ってしまうタイプなのでお店にあってないと思うんですよ」

『いや、それに関して焦るのは治した方がいいから注意はするけど、怒ってはないからね』

その言葉は有難かった。
分かっている。怒っている訳では無いことは分かっているんだ。
ただ、自分が自分を嫌いになってしまうから、自分が自分を責め立てるから、この場所ではダメなんだ。
そこまでは伝えられなかった。

『どうしたいの?』

「こちらをやめて、B店に専念したいと思っています。B店の店長には言ってあります」

『あっちは素人の主婦がやってて、これから危ないと思うし、うちの方が仕事に興味持って貰えるなら圧倒的に確実に面白い』

……、いやそうだとは思いますよ。
A店の方が楽しいとは思います、勉強になることも多いですし、大変だけど、お酒の量もあるからね。でも、『興味』が持てないから辞めたいんだ。お酒を嫌悪してるから辞めたいんだ。

『もともと、週末とか忙しいから慣れないうちは大変すぎるので、B店は人少なくて慣れるように派遣してる感じだった』

……、いやそれは先に説明するべきでは無いでしょうか?
私としては、なんの理由もなくあっちに入れと言われ、B店では普通に契約をして普通に仕事に入る形になっているから、A店はバイトが既に人数足りてるけど来ちゃった分には雇わないとだし、大学生がいつか辞めるから要らないけどキープしてるのだと感じてましたが。

もともとは、ヘルプとしてB店に行くのかと思ってた。数日だけ本当にバイトがいないから、A店のバイトお借り出来ますか?、みたいなテンションで派遣されたのだと思っていた。
だけど、実際、B店はB店で普通のバイトを雇った形である。私たちが別店舗から来ているか、なんて関係なく、ただ雇ったアルバイト、これからもうちで働くアルバイト、として雇ってくれている。

説明が足りなさすぎるんだ。

A店のスタンスがわかっていなかった。
店長が言うのを解釈してみると、

『うちで働くのはハードである。だから、初めのうちはB店でも働かせて慣れたらこっちの週末にも入れるようにしよう。その間は週に1回ぐらいでいいか』

という事だったらしい。
いや、それをお伝えしてくれないと、私たちはそれに合わせた働き方なんてできませんけど?
ちなみに、A店で面接をしてB店に派遣された人はもうひとり居た。そして、その子も初めの私の解釈『数日だけヘルプではいる』ということだと思っていたそうだ。

完全に言葉が足りていない。

B店にもその説明不足の責任はあるかもしれないが、B店は普通にバイトを紹介してくれ、という事だったんだろう。
だから、正直こちらにそこまでの責任はない。

そもそも、私はB店が好きだ。
店長は確かに素人の主婦だろうけれど、それなりに規模拡大をしている訳だから、ダメということもないだろう。オーナーは別にいて、オーナーがお酒を飲みに来れる場所を作りたくて作ったようだし、昼間は繁盛しているのだから、どうにかやっているのだろう。

B店に専念したいと言うとA店店長に『あっちで働くなら、どうやってお客さんに来てもらうかとか考えないといけない』なんて言われたが、

いや、それってバイトが考えないといけないことでしょうか?
そりゃ、一端は担うとは思いますが、潰れたら潰れたときでそこまでの責任を私が背負う必要は無いでしょう?

と思うのは間違っているのだろうか。
B店が好きだから、貶された気がしてイラッとした。すごく見下されているんだろうと感じた。

だけど、A店の方が儲かっていて実績もあるのだから、言ってることは正しいのだと思う。
そりゃこっちの方がいいお店だとは思いますよ。
だけど、だけど、なんだかやっぱりモヤモヤが残る。

『自分で決めたらいいよ』

店長はそう言った。

だけど、その後に『とりあえず来月のシフト出して』と言うのだ。

????

私は辞められなかったぽい?
え、来月も入るの?自分で決めてと言われて辞めたいと思っていると伝えてもなお?
ありゃりゃ?

しかし、お客さんがいるのでそれ以上喋ることも出来ない。店長は料理を出さなければいけないし、お客さんと喋らないといけない。
この店は、店長とバイトの2人しか居ないのだから。

これ以上は喋れないと思い、ご飯を詰め込み、帰ることにした。

『今月はもうシフトないのか。とにかく、来月のシフト希望だけ出して。そのあと相談しよう』

私はそそくさと帰る。

私は辞められなかったようだ。
来月もやっぱり出ることになるのだろう。
正直、この日の仕事ならある程度続けていけそうだと思ったけど、それは辞めれるからでこれからも同じ感じで仕事ができるとは思えない。

冬が強く現れた街を自転車で駆け抜ける。

何故か、私がバイト終わりに信号を渡ろうとすると毎回赤に変わった。なんでだよ〜、なんて喋りながら乗る。

私は独り言が多い。

フツフツと何となく怒りが湧き上がってくる。いや、怒りではなく負けず嫌い

「んな事言うなら、B店を私の力で繁盛させたろやないか!」

暗くも明るい道に私の声だけが残った。

負けてたまるか、やってやんよ。馬鹿にすんな。

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