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短編『カミヲモヤス』

【大学の課題】
キリスト教にまつわるレポートか短編小説を書けと言う課題。
▶️中編ぐらいに内容を濃くして再度書き直したらいいのでは?と兄に言われたので、今後書きたい。

 世界が滅んでもなお、地球は残っていた。すべての文明は途絶え、消え果て、その後長い時間をかけて自然が生き返った。人類なんてちゃちなものは存在しなくなっても問題なかったのだ。キーストーン種だとかで人間がいなくなったら生態系が崩れるといわれてたらしいが、そもそもいないものだったのだから関係なかったようだ。いや、一度全部が滅びたとも聞く。

とはいえ、今生きている私たちはそういった事実に誰も興味を持たない。土を耕して、実を取り、狩りをする。そういった日々の暮らしを前向きに生きている。過去に執着する人間は滅んでいった。小さい世界だけど、不満もなく生きていけるだけの自然と共に私たちは暮らしている。

ある程度同じ場所に住んだら、なんとなく私たちは動いていく。そうすることによって、自然は消えない。身の危険は、大きな獣に襲われることぐらいだが、自分たちがしていることと同じことでしかないから、みな食べられることに恐怖はない。

おいしいものはおいしい、風に吹かれると気持ちがいい、そういう感情に包まれながら生きている家族の中で、私は好奇心が強い方らしい。ある日見つけた、洞窟の奥の奥、そのまた奥にあった本。私はそれを読み始めた。文字は習ったことがなくても読めたのだ。そこにはいろんな本があった。初めは絵が多いものを読み始めた。分けられたコマをどういう順番で読めばいいのかは読んでいくうちにわかるようになった。

これらは、旧人類と言われる人たちが作ったものだったのだろう。たまにこういったものは出てくるが、私が読み終われば火にくべられる。

前の場所では、『異世界』に転生する少年の話や『魔法』を使う人たちの話、殺人事件などというものが起きる話などがあった。それなりに面白さも感じたけれど、所詮は木より燃えやすいものでしかなかった。

新たな場所に移動した私は、近くの洞窟を探検していた。そして見つけたものは、分厚い本と人も描かれた十字架。初めて見るものだった。今までの本とは様子が違う。『聖書』とタイトルをつけられた本は、「はじめに神は天と地とを創造された」という文章から始まった。

神……。

色んな本で『神』という言葉は沢山出てきたことはある。概念としては理解し始めていた。読み進めると過去に読んだ本の一文のようなものが多く出てきて、どういうつもりの本なのかわからずにいた。けれど、この本は『地球の始まり』を描いているようだった。『神』が「光あれ」というだけで太陽が出来上がったとは、随分ふざけたことを言うものだ。

人がたくさんいたころの諍いばかりの世界。それをわざわざ『神』は作ったというのだろうか。

お腹が空いた。家に帰ってご飯を食べよう。洞窟から出て、家族のもとへ帰り、ご飯を食べ、眠りにつく。

人の声がする。大きな、怒鳴り声。子どもの泣き声と馬の鳴く声。目を覚ますとすべてが忙しなく、人々の顔は暗く幸せとは程遠かった。焦る思いで皆が歩き続け、何処かに向かっている。先頭を歩く人のことなど知らない。

そんな夢を見た。朝の優しい光に包まれた緑に私は心を躍らせた。毎日の幸せはこれであった。少し冷たい土を耕すとミミズが出てきて、私の足の横を這っていく。夢で見た世界は、薄暗くてあんな世界はまっぴらだった。

仕事を終わらせ、洞窟に行く。読み進めた聖書の世界は醜かった。信じる人を殺し、信じないものも殺す。しかし、イエスが出てきたことにより、人々は希望を見出していったようだ。このような世界ならば、こんな人物がいたら望みを見て、信仰していったのだろう。

次の場所に移動するまでの間、この洞窟を観察していた。十字架はイエスを模倣していたのだとわかり、この洞窟には信仰心に篤い旧人類がいたようだ。

本当に神が地球を作ったのだろうか。人間は神の手によって作られて、神のひっかけのような木で知恵をつけたというのか。男性のほうが先に作られて、女は後付けだというのか。私たちは罪を背負って生まれてきたというのか。

ぐるぐると頭が回り始めた。こんなことを日々考えて旧人類は生きてきたというのか。

散らばっていた本を手に取った時、何かが落ちた。これは手紙というやつか。水でぬれたのかしわくちゃになった紙には、汚い字が書き散らかされていた。

旧世界が滅んだのは、宗教戦争によってだったらしい。世界中の人の信仰が過激化して、そこに科学の力が合わさり、終焉を迎えたようだ。

『神』とやらはこの結末をどう思っていたのだろう。人々は信仰ゆえに争い、滅びてしまった。これはヨハネの黙示録が描いた『神』の意志だったのだろうか。

なら、彼らは何のために信じたのか。何のために信じさせたのか。

母の声がした。んーっと背骨を伸ばし、周りを見渡した。適当に集めて、立ち上がる。分厚い聖書もこの手の中にあった。

お母さんに見せてみたら、なんていうかな。

私たちは、旧世界の人々から進化した。信仰心が欠如した者だけが最後に生き残り、増えた。研究熱心などという特徴のあるものも滅びた。だから私たちは、日々を十分に過ごしている。

夕焼けが沈むにはまだ時間がある。さわやかな風が私を撫でる。火をつけ始めたところの母に、沢山の紙を見せるとニコッと笑みを向けてくれる。

聖書に火をつけて、焚火に投げ込む。見る見るうちに燃え尽きて、空は少しオレンジに染まり始めている。

面白い物語だったな。

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