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散文『夜の底』

眠れない時に感じるこの感覚はなんなのだろう。何か自分の中にぽっかりと穴が出来、それを必死に埋めようとしているような。
息もできている。心臓も動いている。脈だって。なのに自分はここにいないと感じる。
世界から音が消えたよう……、なんてロマンチック過ぎる。実際は家族の生きている音がする。虫の音がする。夜の音がする。
ひとりぼっちじゃないのに埋まらない穴は、朝になると存在自体忘れ去られる。忘れたって困ることもない。なのに、何故こんな感覚はあるのだろう。
怖い。
怖くない。
この感覚はずっと一緒にあったものだ。私の人生に消えることのない。幾度も経験しているはずなのに、いつ起きたかは覚えていない。でも必ずそこにある。すぐそこに。
そう、それは、これは、私なんだ。
起きているのか、起きていないのか、曖昧な頭で辿りついたのはそんな答えだった。
あぁ、まぶたが重い。
昨日はいつの間にか寝てしまったようだ。ずっと何かを考えていた気がするが、まあ、どうでも良いことだろう。気にしていられない。
今日も生きないとなのだから。

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