札幌のコワーキングスペースに行ってみて感じたことから、コワーキングスペースというのはどのような商売なのかということを考えてみた。

この記事は、2016年から2017年にかけてコワーキングスペースもりおかのブログに記載した3つの話題(札幌で感じた地域のコワーキングの衰退~コワーキングスペースはコミュニティ相手の商売?!~コワーキングスペースは個人からコミュニティ相手の商売に変わるのか?)を、札幌の最近の様子や自分自身コワーキングスペースもりおかを続けてみて考えていることを含めて、加筆・修正を交えて、ひとつにまとめたものです。これからコワーキングスペースを利用していきたい皆様、また運営をしていきたい皆様やコミュニティマネージャーとかスタッフとして携わっていきたい皆様に、ひとつの参考として一読していただけるとありがたいです。

1.2016年6月、札幌のコワーキングスペースめぐりをしてきて

2016年の6月、私は札幌に行って参りました。4年前の秋に札幌で北海道コワーキングパーティーが開かれて、年に一度はやっていたのもあるので、札幌でもかなり盛り上がっている様子は伺っていました。行きたかったくらいなので。

しかし今年の6月に行ったときにどういう様子だったかというと、
 ・完全会員制のドリノキ
 ・女性のためのコワーキングスペース リラコワ
 ・ものづくりオフィス SHARE
 ・曜日限定のコワーキングスペース 育てるコワーキング札幌
の4ヶ所。私のように、男性で一時的にドロップインで利用していく場合に使えるコワーキングスペースはSHAREと育てるコワーキング札幌の2ヵ所だけ、という状況でした。
(現在は育てるコワーキング札幌はなくなり、営業しているところとしてはドリノキ・リラコワ・SHAREの他に、スペースKANTEコバルドオリSALOONの3ヶ所が新規にオープンしている模様です。また、サーブコープなど大手のサービスオフィス系を合わせてカウントしてもいいのですが、そこまでは把握しない方向でいきます。コバルドオリはちょっと行ってみたい…)

 これは自分にとってかなりの衝撃でした。コワーキングスペースの役割のひとつとして、利用者相互が持つコミュニティとの混ぜ込み他地域からの事業・サービスなどの輸入・輸出というものがあると考えているのですが、札幌においては十分に機能した環境になっていないように感じました。単純にコワーキングスペースがあれば機能するって言うものではありません(それぞれのコワーキングスペースの目指す方向性というのもありますので)が、これではコワーキングの一番重要な楽しい時間をすごしながらよい成果を残すことができないし、それができなければコワーキングに対する評価が下がるという危惧も感じていたので、それが札幌で現実になっているように感じました。

 そんな札幌の事情についてSHAREの斎藤さん、育てるコワーキングの能正さん、北海道大学で研究をしている北海道大学コワーキング研究コミュニティの皆様にいろいろとお話を聞いてみました。確かに札幌は最盛期と比較して2店営業を終えているのですが、その理由として
 ・それぞれコワーキングスペースを事業の一つとしか考えていなかった
 ・事業者やそこに入居していた団体が事業などコミュニティを成長させていくにしたがって、スペースから出て独自のスペースを持つようになるにつれ、スペース自体をやっていく必要なくなっていった
ということを聞きました。もちろん経営者の部分も持ち合わせると収益に合わないと感じれば閉めるという発想は当然なのですが、コワーキングに関して見聞して感じてたもの以上に得られるものがなかったという心理が働いたのではないか、または単にコワーキングスペースの入居する人や数字的需要の特性を見抜いた上での経営がイメージできていなかったのではとも考えることがあります。

 また、コワーキングスペース同士の交流や利用者による複数のコワーキングスペースでの利用がほとんどないことにも気になるところでした。さらに閉店したコワーキングスペースのコミュニティが、SHAREに移っているという話も聞きました。効果的なコワーキングスペースの使い方として複数のコワーキングスペースを利用していくことを推奨しているのですが、利用者にしてもオーナーサイドにしても考え方として徹底できていなかったのかなという気がします。

2.コワーキングスペースにとってのコミュニティとは?そのつながり方とは?

 とはいえ、そもそもコミュニティとは何だろう?コワーキングスペースは、コワーキングスペースのためにコミュニティを作れば安定する(実はシリコンバレーのコワーキングが成功している理由として、起業家のコミュニティがあったことを北大の平本先生が言っていました)といいながら、会社や事業の成長やミーティングの回数が増えるに従ってかかわる必要性がなくなるとやめてしまうものになる。人とつながって楽しいし大きくもできるはずなのに、短期間でも成果が出ないとあっさり終わる。そんなにドライなものだとしたら、人はコワーキングスペースはコミュニティとどうつきあえばいいのだろう?と思うし、スペース自体のコミュニティはどうあるべきなのだろう?

 そのヒントとなるような事として、コワーキングスペースもりおかを休業前にやっていたときに、ボードゲームのサークルから利用の問い合わせがありました。残念なことに断ってしまいましたが、これは自分としては意外な発見で、コワーキングスペースをやるためにコミュニティを作るというけども、既存のコミュニティ側から新しくコワーキングスペースのコミュニティを構築していくこともまたありなんだなぁということに気づきました。

 ここから、コミュニティというのはやんわりと「目的を達成するための集団」程度に捉えていくのがいいのではないかという気がしてきましたし、そこから条件設定として

  ・目的を達成するための集団
  ・人数は1人からでもOK
  ・学校も会社も団体も家族もクラブもサークルもプロジェクトも、
   実はコミュニティの種類のひとつ

と定義することにしました。

 そしてもうひとつ「コワーキングスペースという商売は、利用者様にどういうことを提供するのか」ということについても深く考えたりしました。コワーキングは例えば公民館の一室でも借りて、他の人と一緒の空間で働いたり寝たり自由に過ごしたりするだけで簡単に成立できたりします。それを商売にしていくと考えたときに、仕事のためにただ空間と時間を共有するだけではダメで、1回・短時間の利用でも何らかの成果やレベルアップを挙げられるようにしたり、挙げられない場合には楽しい思い出を残せるようにしたりして、料金が安過ぎではないかと思われるくらいのお土産や成果を出していけるようにする状況・環境を提供することではないかと結論付けました。

 この「コミュニティに対する定義」と「コワーキングスペースの提供するサービス」とを掛け合わせて考えたときに、ひとつ仮説として

「コワーキングスペースはコミュニティ相手の商売」

ではないかということを立てて、1年かけてこれが本当かどうか、調べながら改めてコワーキングスペースもりおかをやることにしました。

 その答えは、自分の中ではの話になるのですが、Weworkの日本参入、それに類似するサービスであるNewwork日経オフィスパスの誕生、コワーキングスペースもりおかでの利用のされ方によって、あっさり証明されました。

コワーキングスペースはコミュニティ相手の商売です

 上記の記事にある「目的を達成するための集団」「人数は1人からでもOK」「学校も会社も団体も家族もクラブもサークルも、実はコミュニティ」というコミュニティの定義に沿うと、結局はこの結論になってしまいます。特に「人数は1人からでもOK」という定義づけの時点で詰んだ面もあるのですが、これは定義づけの失敗もあるかもしれません。
 ちょっと反れましたが、このように結論付けた理由は、コワーキングスペースもりおかを1年通じてやってみて、会社や団体の利用や問い合わせが個人の利用や問い合わせよりも比較的多かったというのが一番にあります。また、Weworkの日本参入、それに類似するサービスであるNewwork・日経オフィスパスの誕生、WeworkJapanのオープニングパーティーでのスピーチも、会社というコミュニティ寄りにターゲットを向けたい印象を強く受けました。

 その原因を考えたときに、コワーキングスペースというビジネスがCtoC(個人同士のつながり)から始まり、シェアオフィスの要素を取り入れる形でBtoC(事業者と個人顧客の関係での取引)レベルに成長し、それが市民権を得てBtoB(事業者間同士の取引)レベルの段階に成長したと考えたためです。定義から「人数は1人からでもOK」というものを外したとしても、同じく考えています。いや、3,4年前にはとっくになっていて、それが日本でも理解できる段階になったというなったという方がいいのかもしれません。僕はこの方向になってはいけないと思っているわけではなく、コワーキングスペースを利用したり運営してきたり広めてきたりした皆様の実績や評価なので、むしろ尊敬の念を持って、この成果にまでつながったと考えています。

3.コワーキングスペースに関わることによっての効果を高めていくために

 また「コワーキングスペースはコミュニティ相手のビジネス」ということを結論付けていく過程で、ひとつ懸念点が見えてきました。
 それはスペースごとのターゲティングによって、法人・団体相手かフリーランサーやサークル、個人事業主相手か、また自分達の仲間相手かそうでもないかで2極化・階層化が加速するように思えます。決して悪いことだと思っているわけではないのですが、私はこの階層化によって、コワーキングスペースの中でコワーキングという手段で働くことによって得られると言われている「想像を超えた成果」「新しいイノベーションの創出」というものが、これから先に期待ができないものになる懸念をしています(いやいや、そこまで求めてないよというオーナーの皆様、すみません)。「想像を超えた成果」「新しいイノベーション」を生み出すためには、できる限り様々な境遇を持つ人や団体に対して、自由度の高い利用用途や出入りのしやすさ、使いやすさを確保して、自由な空気感の保障していくことが必要だと考えています。それを起業支援とか法人だけとか知り合いだけとかにターゲット化すると、専門的な意見を聞くことはできても、却って多様で市民感覚のある意見は聞きづらくなるし、ビジネスに落とし込んだ時に失敗するケースが多くなった場合に、コワーキングスペースは利用しづらいし考えていたような成果が出ない場所だと評価されるのではないかと思います。どうでもいいと思う人もいますが、私はそれこそコワーキングの醍醐味だし効果や成果が出やすくなる肝と思うので、この状況は避けたいと思っています。

 そういう評価を受けないようにするために、オーナー・従業員・利用者関係なく、自分のところのコワーキングスペース以外のスペースを使い合っていくことが一つの対策だと思います。しかしながら、それがわかってても資金面や日程面でかなり難しいというのを1年通して痛感しました。まあ、コワーキングスペースの運営者や従業員、利用者含めて、コワーキングに係わる全員で支えあうというコワーキングという世界全体を通しての文化を理解しようとせずに、まずは事業として立ち上げる・そして利益を求める・自分のスペースに関わる人だけ支えあえればよいという従来のビジネスの考え方から入ってコワーキングスペースを立ち上げたスペース事業者がかなり多いので、理解できているオーナーさんのスペースとそうでないオーナーさんのスペースの差が大きくなっているのが、とても悲しかったりするのですが。

 そこを解決できる方法がないだろうかと考えたときに「コワーキングは例えば公民館の一室でも借りて、他の人と一緒の空間で働いたり寝たり自由に過ごしたりするだけで簡単に成立でき」ると述べているので、これと掛け合わせて、ノマドのコワーキングスペースのオーナーというようなイメージ(モデルになっている人もいますが)で、コミュニティミキサーという制度を考えてみました。コミュニティミキサーが様々なコワーキングスペースを行き来しながら、普通にコワーキングをしたり、ライトニングトークや交流会などを開いてビジネスやコミュニティで取り組みたいことの情報を仕入れながら、ほかのスペースでやっていることを情報交換しあったり、より適したスペースを紹介したり、コラボビジネスをオーガナイズしていく、そういうイメージのビジネスです。
 コミュニティミキサーが様々なコワーキングスペースやコミュニティスペースを行き交いながら、自分の取り組みたいことをしたりスペースの利用者で困っていることがあれば助けてくれそうなコミュニティとつなげ合わせたりすることによって、地域の活性化や新サービスや新しい知恵、職業などの普及を促し、地域格差をなくすといった、本来コワーキングスペースが地域に果たす役割や効果を出すことができると確信しております。そしてゆくゆくは、コワーキングスペースという場所が利用をしててもしなくても「来れば、何か新しい仕事や未来に結び付けられる楽しそうな場所」として認識されるようになれればと考えております。

 地方の片田舎で考えたことなので、実現的にきついものもあると思います。これをベースにいい方法とかあれば、どんどん改良を重ねていただけると助かります。いずれにしても、コワーキングスペースを通じて利用する人に、短時間でもじっくり時間をとって使いたい場合でも、想像以上の成果を出していけるようにするための、一つの考えとして頭の片隅にとどめていただければと思います。

 ようやっとコワーキングスペースがBtoBクラスのビジネスとして日本でも成立してくる時代になったことで、もしかしたら使うかもしれないのでという理由をくすぶりだして、地域の会社や企業体のリフレッシュスペースやテレワーク用オフィス、ワークショップスペースとして2~5の会社や団体と契約が取れるようになれば、比較的運営が安定し、その上での仕事での良質な成果が取れてくるのではないかと考えています。実際運営してみてこのような声や要望も多かったので、料金に反映したところ、利用も売上も少しずつ上向いてきました。ですが、いまだ持ってコワーキングスペースで黒字を出すのは難しいと思います。これは料金体系としてシェアオフィスに近いところでもカフェに近いところでも一緒です。

 長くなりましたが、最後に札幌に行ったときにお世話になりましたSHAREの斎藤さん、育てるコワーキングの能正さん、北大の平本さんに阿部さんをはじめ、ご一読いただいた皆様・意見を述べた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。


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