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サルの商売⑩|転機

そういえば2007年の冬頃だったか、俺の貸し出していたSIMカードの何枚かが初月に解約になって、紹介した人の顔を潰したみたいな話になったことがあった。

こっちとしては最初に必要な説明はしてあるし、回線を使ってくれていた本人はすぐに納得して新しいSIMを受け取ってくれたんだけど、紹介者のおっさんがゴネてきた。

前回⑨

お前のせいで客と連絡が取れなくなって〇〇(回線使ってた人)が損してるけどどうするの?みたいなイチャモンだったか。

「○○さんとは、今月は通話料以外もらわずにやらせてもらうってことでハナシついてますけど。」

似たようなやりとりが何度かあったことを覚えている。

この時期は、レンタルに出している回線だけで200以上はあった。おそらく俺の管理能力を越えてしまっていて、ちょこちょこ些細なトラブルが増えてきた。

それから、金融屋に貸している番号の持ち主の女にも弁護士から内容証明だかなんだかが送られてきて短期でいくつも回線を潰したり、客の中にもパクられて連絡がつかなくなったり廃業して飛んじゃう連中が出てきた。

拡大するには仕組み化が必要だった。けれども、この規模でやっているから大きなトラブルなく適当にやってこれていたのはわかっていたし、正直少し飽きも感じていたので、むしろ縮小することにした。

24で東京に出てから4年弱、カラオケ屋と電話屋の二足の草鞋を履いてなんとなくやってきたが、30歳を過ぎたあとどう生きようかぼんやりと悩んでいる時期でもあった。

カラオケ屋のメンバーたちも二十代後半になると店を辞めて他の仕事に移ったり、結婚したり、地元へ帰ったりしていた。俺はまわりにも生活の転機が訪れていることを感じていた。

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そんな中、付き合う連中にも変化があった。ケータイ稼業でつくったゼニで、次に何をすべきか色々考えていたからだ。

そういえば、この頃は足立や千葉の柏の方で飲む機会が度々あった。足立のHさんという人を紹介されて決まった焼きとり屋の会食に何度か行った。

そこにいたのが、元RIZIN統括本部長の弟さん。

「この人誰だと思う?」

「すみません、存じ上げません。」

「出てこいや〜、の弟だよ、似てるだろ。」

Hさんからそう紹介されたのを覚えている。弟を名乗るその人はカタギだったけど。

とまぁ俺も色々悩むあまり、会わなくていい人に会って今思えば無駄な時間を過ごしたり、余計なことしてそれまでうまく囲っていた女に逃げられたりもしていた。

一緒に暮らしていたユミが妊娠したのもこの時期だった。

家族をつくってやっていく腹はなかったので堕してもらった。今まで小馬鹿にして、時に軽蔑していた翔太が、嫁さんとガキを連れている姿なんか見ると劣等感を覚えることもあったな。

結局、いまは無理に変化を求めず目の前のシノギに集中した方が自分にとってよい結果になる。そう考えた俺は、3年ほど勤めたカラオケ屋をやめてケータイの稼業だけで食っていくことにした。

「手元の現金をあと5千万増やして終いにしよう。」

そんなことを密かに決心していたけど、期限は決めなかった。あそこで「2010年までに」とかしっかり期限を決めておくべきだったと、今となっては後悔してる。そういうところが俺の弱いところだったんだよな、と。

2008年の10月だった。

つづく

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読んでくださった皆さんのおかげで、10日間連続投稿をなんとかやり切ることができました。アクセスといいねがとても励みになりました。

「サルの商売」はまだまだ書くことあるので続けます!俺が捕まるまでの出来事をしっかり書き切るつもりです。

もう少しだけお付き合いいただけたら幸いです。自分を見つめ直して、世の中にささやかに貢献できますように。

しんのすけ

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