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今、狩猟をする

先日、京大農学部、かつ現役猟師、かつ野生動物のジビエ利用に関する研究者である、古賀さんにインタビューをさせていただきました。

今回のインタビューでは、”狩猟”について
野生動物利用/お金の回し方/人の集め方という3つの視点からお話を聞かせていただきました。

聞かせていただいたお話を基に、野生動物の利用のあれこれを1つの記事にまとめました。


0.狩猟との出会い

古賀さんは京大農学部に入学してから、「愛と幻想のファシズム(村上龍著)」を読み、作中の狩猟描写に心を惹かれ、猟師の道に入ったそうです。

縦割り文化、縄張りといった慣習が残る狩猟の世界で、大学生の古賀さんが猟を学び続けることには、苦労がつきものだったとか。

その苦労を乗り越えて、現在、古賀さんは、社会の中での”狩猟”の在り方を問い直すべく、ジビエ利用、野生動物の管理に関する研究に取り組まれております。


1.今、狩猟をする意義

日々のくらしとかけ離れた存在に思える「狩猟」。

しかし、そんな”狩猟”が大きな注目を集めています。

その大きな理由の1つが

森の荒廃です。

森の荒廃の大きな原因の1つに、シカやイノシシといった草食動物の増加があります。

草食動物の増加は

①肉食動物の絶滅
➁地球温暖化による越冬時の生存確率の上昇
③山に入る文化の消失(芝刈り、山菜とり、林業等)

といった要因によって引き起こされています。

なんと、この20年でシカの個体数は約10倍まで膨れ上がっているそうです。

爆発的な草食動物の増加によって、森の植物が食い荒らされ、荒廃が起きているんですね。

そこで、草食動物の個体数を調整し、人と森との適切な関係を再構築するために必要とされるのが、”狩猟”です。

狩猟によって森の荒廃を防ぎ、人と森の関係を再び元に戻していくことができます。


2.  ジビエを広げる

人と森の関係を良くしていく狩猟には、問題もあります。

それは狩猟された個体の大半が廃棄されているということです。

古賀さんは、これらの廃棄問題の解決に向けて、ジビエ利用を進めていきたいと考えているそうです。

ジビエ利用を続けていくためには2つの取り組みが必要です。

まず1つ目は、「ほどよい個体数を狩り続ける」ということです。
シカやイノシシを持続的に狩り続けるためには一定以上の個体数を維持する必要があります。したがって、獲りすぎないことも大切です。

ほどよく狩り続けるためにも、動物を根絶することで獣害(農作物の食い荒らし)を減らすのではなく、生息地の管理等を行いながら共存していくことが重要になるわけですね。

2つ目は、ジビエの食文化を広げていくことです。

せっかくシカやイノシシをお肉にしたとしても、それらを食べる人がいなければ、ジビエ利用は続いていきません。

社会的な背景や味の美味しさ、栄養面での魅力を伝えることできっとジビエは広がっていくはずです。ジビエは高タンパク、低カロリーですから、現代社会にすごくフィットすると思います。


3. 仕事としての狩猟

猟師として暮らすためには、多かれ少なかれ、収入が必要です。
現状としては、猟師を専業にできるほどの収入を得ることは難しいそうです。

しかし、猟師は元々、兼業ベースの仕事だったそうです。
江戸時代、百姓さんは、色んなものを掛け持ちして働いていたそうで、その一つが猟師だったとのこと。

そこで、古賀さんは、ジビエの持続的利用×農業を通じて安定した通年労働を生み出したいと考えているそうです。

ジビエ肉を生産するには、処理場が必要です。
年間100頭処理できるほどの小さな処理場であれば、安定してジビエを供給できるうえ、1人、2人の猟師で運営していけるそうです。つまり、最初の施設への初期費用を用意できれば、小規模分散的にお金を稼ぐことができます。

夏は農業、冬は猟師、という風に組み合わせることで収入が安定します。

山間部で、冬の稼ぎを生み出す狩猟

これが、古賀さんの考える、猟師が猟師であり続けるためのお金のつくり方です。

4. 人を集める、分業する

狩猟業界は、深刻な高齢化、人不足に悩まされているそうです。

猟師の大半は60代から70代なので、数十年後には一気に猟師の数が減ることが予想されています。

ですので、狩猟に従事する若者を集める必要があります。。

理想としては、田舎で暮らす若者に、兼業の1つとして狩猟をやってもらいたいそうです。

私も、フィールドワーク先のゲストハウスのスタッフさんが、農業をしながら狩猟をしていることを聞きました。

”獣害”に対して農業と狩猟の双方から向き合うことにも大きな意義があるかもしれませんね。

農業×ジビエで地域の食のプロフェッショナルを目指すこともできそうです。

次に、組織について。
一口に狩猟といってもその目的に応じて組織の属性を変化させる必要があります。

狩猟は猟場の地理的条件に応じて、目的が変化します。例えば山頂付近で狩猟をしても、ジビエ利用は難しいです。

現状としては、趣味の猟師と、行政から依頼を受けるプロフェッショナルの猟師のフィールドが混在し、効率的な分業ができていないそうです。

今後は、山のふもと(里山)部分をジビエ利用の拠点とし、山の高度が上がるにつれて、個体数調整としての狩猟を行う、という風な分業を進めていくそうです。

狩猟を始める人に目的別の猟師の組織体制についての知識を含めていくことが重要です!

5. 古賀さんの考える未来

モノ(野生動物との向き合い方):ジビエを利用、かつ生息地管理、里山利用、多様な観点から、共存を図りたい。

カネ(産業としての”狩猟):山間部に小規模分散的にジビエ用食肉加工場を設置し、農業・狩猟を組み合わせた、循環型のジビエ産業を確立する。

ヒト(人材確保の方法、組織づくり):農業の延長として、狩猟をできる人材を確保する。狩猟を山の高度・目的に応じて分業化し、ジビエ利用と個体数調整に対応できる猟師組織を実現する。

6.私達にできること

ジビエを食べてみる

これが一番だそうです。

本当に、うまいです。笑

近年のヘルシー志向の高まりもあってかジビエ居酒屋なるものも増えてきているそうです。ぜひ探してみてください!

私がインタビューを通して気づいたのは、狩猟は単なる森を管理する手段ではなく、森と真正面から向き合う営みだということです。

昔から、狩猟は暮らしの中に組み込まれてましたが、徐々に暮らしの外に押しやられていきました。

そんな今だからこそ、自然の恵みを放棄し、”害”として除去するのか、それとも、森の恵みを少しでも、”食”を通して体感し、"自分ごと化"するのか。答えは猟師だけのものではなく、私達自身も出すことができるものです。

最後に、お忙しい中、快くインタビューを受けてくださった古賀さん、ありがとうございました。

それでは、また明日!


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