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看護師1006名を対象とした「強みとジョブ・クラフティング」の関係を明らかにした論文

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただき、ありがとうございます。
さて、本日ご紹介の強み論文は「看護師を対象とした強みとジョブ・クラフティングの関係を調べた研究」です。

医療従事者は命を預かるため、専門知識やスキルを求められるとともに、患者に向き合うためストレスの高い仕事の一つとして知られます。

その中で、1000名の看護師を対象に、性格的な強みとジョブクラフティングについて定量調査を行ったという研究になります。どんな内容なのか、早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『三次病院の看護師における性格的強みと職務遂行能力の関連性.横断調査』
Li, Minli, Huimin Sun, and Junhui Zhou.(2023).
"The Association between Character Strengths and Job Crafting among Nurses in Tertiary Hospitals: A Cross-Sectional Survey.” Nursing Open 10 (8): 5720–27.


15秒でわかる論文のポイント

  • この研究は、看護師を対象に行なった「性格的な強みとジョブ・クラフティング」の関係を調査した研究である。

  • 具体的には、中国の三次病院(=高度な医療を提供する大学病院などに相当する病院)に勤務する看護師1006名に、「性格的な強みとジョブ・クラフティングに関するアンケート調査」を行った。

  • その結果を分析したところ、看護師の性格的強みとジョブ・クラフティングは中程度に正の相関があることがわかった。

  • よって、看護師のジョブ・クラフティング行動を強化するには、性格的強みを開発することが有用であることが示唆される。

という内容です。

「看護師」に注目した背景

看護師は女性が多い職業で、かつ医療システムの屋台骨です。一方、高度な専門知識・技術だけでなく、患者と向き合うため感情的労働を伴う仕事であり、心理的ストレス、バーンアウト、不安などに対して脆弱性のある仕事と考えられています。
 
そんな中で、看護師のウェルビーイング、ワーク・エンゲージメント、またそれに関わる「人と仕事の適合性(パーソン・ジョブ・フィット)」を高めるための介入を考えることは意義あることと考えました。

そうした背景を踏まえ「看護師に対して、ジョブ・クラフティングとパーソン・ジョブ・フィットを高める効果的な介入を開発すること」が必要と考えたのでした。
 
一方、別の研究では、「性格的な強み」が高い人は、対人関係が良好で、チームワークにおいてより重要な役割を果たすとされており、この分野も看護師の仕事に関わる領域と考えられます。
 
しかしながら、これらの「ジョブ・クラフティングと性格的な強みの相関関係は、(特に中国人の)看護師を対象とした調査ではほとんど研究されていなかった」と述べています。上記理由から、研究者らは本研究でそれらを探索することにした、というのがこの論文の背景となります。

「ジョブ・クラフティング」とは

さて、今回のキーワードの一つが「ジョブ・クラフティング」です。

ジョブ・クラフティングとは、

”仕事の設計を変え、仕事の感覚を深めることで、従業員が仕事の目的を再構築し、職場で異なる経験を得る事を可能にし(Dvorak, 2014)、個人が仕事の意味を変化させ、職業アイデンティティを変化させることを支援する”
 
と説明される概念です。

具体的には、

1)タスク・クラフティング(仕事そのものを創意工夫する)
2)関係的クラフティング(人との関係を築く)
3)認知的クラフティング(仕事の捉え方を変え、意味や意義を見出す)


という3つの領域で個人が工夫をすることです。

※参考記事:『「ジョブ・クラフティング」の3つの次元』

このジョブ・クラフティングの主な目的は、

”パーソン・ジョブ・フィット(=機能個人と職務の適合度合い)を高めること”(Wrzensniewski ea al)であり、その結果の職務上の成果として、「ウェルビーイング」「ワークエンゲージメント」「ワークパフォーマンス」にプラスの影響を及ぼすことが示されています(Bakker, 2018)。

また、この看護師だtの仕事にも大きな影響があるとされる「バーンアウト」「心理的ストレス」「感情的疲労」などに効果的な影響を与える(Rudolph ea al)こともわかっており、このジョブクラフティングが、看護師という対象者を考えたときにも、重要な概念であることが推察されます。

研究の進め方

では、「看護師のジョブ・クラフティングと、性格的な強みがどのように関連しているのか?」この具体的な研究は、気になるところです。どのような内容か、以下見ていきたいと思います。

研究の対象者

1006名の看護師(中国の武漢・南昌にある4つの三次病院に勤務)

研究の方法

上記の対象者に対して、大規模サンプリングによるアンケート調査を行いました。調査項目については以下の内容となります。

調査項目}
1、「統計的情報」(年齢、性別、配偶者有無、学歴、役職、勤続年数)
2,「ジョブ・クラフティング尺度」(合計21項目)
3,「性格的な強み(※)」(思いやり5項目、好奇心5項目、自制心5項目:合計15項目)

※:性格特性的強みは、中国の文化的背景で実施したDuan&Bu(2017)の研究にもとづいて、「思いやり(Caring)」「好奇心(Inquisitiveness)」「自制心(Self-control)」の3つの下位尺度を採用しています。
  
データ分析方法}
性格的な強みとジョブ・クラフティングの関係を定量化するため「構造方程式モデリング(※)」を採用しました。

※:構造方程式モデリング(SEM)とは
SEMは、複数の回帰分析と因子分析を組み合わせたもの。潜在変数(直接観察できない変数)と顕在変数(直接観察できる変数)の間の複雑な関係をモデル化します。この方法では、仮説に基づいて変数間の因果関係を指定し、データに基づいてそのモデルの妥当性を評価する手法です)

性格的な強みとジョブ・クラフティングは相互関係があるのでは?
という考えを図として示したものです

研究の結果

調査データを集計したところ、以下のことがわかりました。

わかったこと1)看護師のジョブ・クラフティングと性格的な強みのスコアは中間レベルだった

●「ジョブ・クラフティングのスコア」について
・ジョブ・クラフティングの総合得点は中間レベル(平均3.27)でした。 
・関係性(3.58)→認知性(3.50)→タスク(3.19)のクラフティングの順で高いスコアでした。

●「性格的な強み」について
・性格特性的強みの総合得点は中間レベル(平均3.33)でした。
・思いやり(3.85)→自制心(3.07)→好奇心(3.05)の順で高いスコアでした。

わかったこと2)ジョブ・クラフティングと性格的な強みは相関があった

次に、ジョブ・クラフティングが性格的な強みの相関についてです。ジョブ・クラフティングの合計スコアと性格的な強みの下位尺度全てにおいて正の相関がありました。

ジョブ・クラフティングが性格的な強みの相関


また、構造方程式モデリングの結果によれば、「性格的な強みはジョブ・クラフティングの分散の81%に寄与している可能性がある」という結果になりました。

(見方の補足)
「Character strengths」から「Job crafting」へのパス係数は「.90」と表示されています。SEMでは、このパス係数の二乗値(.90の二乗)を計算することで、「Character strengths」が「Job crafting」の分散のどれだけを説明しているか、つまり決定係数(R²)を求めることができます。.90を二乗した値は.81となります。よって「Character strengths」が「Job crafting」の分散の81%を説明している可能性がある、となります
※また、図において「e」で表される項目は、誤差項(error terms)または測定誤差を指しています。これらは潜在変数に対応する観測変数(指標)の測定における不確実性や誤差を表しており、完全な測定ができないことの影響を表しています

まとめ

確かに「性格的な強み」の「思いやり」「好奇心」「自制心」などが高いほうが、ジョブ・クラフティングにも影響があるだろうことは、なんとなく想像できます(たとえば「好奇心」が高い人は仕事を工夫しそう)。しかし、改めてこのように「ジョブクラフティングと性格的な強みは相関がある」と明確に数字として関連を示されると、説得力が高まる、と感じます。

今回の論文の構成は、

1,看護師の課題は心理的ストレスやバーンアウトなどである
2,ジョブ・クラフティングは有用な概念の一つである
3,性格的な強みがジョブ・クラフティングの分散を説明している(81%)
4,性格的な強みを考慮した人材開発など介入も検討が必要かもね

というシンプルなロジックでしたが、その内容がとても勉強になった論文でもありました。

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