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幸福感に影響を与えるのは「強み」よりも「自尊心」だった?! 強みの活用と幸福感の研究

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただき、ありがとうございます。
さて、今回の論文は大学生214名に対する「強みの活用と幸福感の関係」を調べた研究となります。

<ご紹介の論文>
『強みの活用、自己一致と幸福感:ストレングスコーチングとコーチング心理学者への示唆』
Govindji, R., and P. A. Linley. 2007. “Strengths Use, Self-Concordance and Well-Being: Implications for Strengths Coaching and Coaching Psychologists.” International Coaching Psychology Review. https://www.taosinstitute.net/wp-content/uploads/2020/05/Stelter-2007_Coaching-Pers-and-soc-meaning-making.pdf#page=31.


10秒でわかる論文のポイント

  • 強みの理論では、自分の強みを知り、活用することでウェルビーイング(幸福感)が高まるという。

  • この研究ではその理論を深めるために大学生214名を対象に「強みの知識」「強みの活用」「自己一致」が、「幸福感」と「活力」に与える影響を調査した。

  • わかったことは2点である。まず、強みの活用は幸福感と関連していたこと。次に、幸福感への影響は、強みの活用よりも自尊心のほうが高かったことであった。

調査の概要

強みの研究の代表的な発見は「強みを活用すると幸福感が高まる」というものです。「強みの知識/活用」→「幸福度」というモデルをより精緻に考え、それぞれを測定する尺度を複数設定し、調査をしました、というのがざっくり研究の概要です。

調査対象は、大学生214名。白人の出身者が多く(64%)、インド系(20%)、中国系(4%)参加者は独身者が約8割でした。

調査した項目

具体的に以下の項目を測定しました。

幸福感と活力

まず、幸福感といっても幅が広いです。そのため幸福感を3つのカテゴリとして、以下の尺度を使うことにしました。

(1)主観的幸福感
(生活満足度と感情のバランス度)
(2)心理的幸福感
(人生の課題への取り組み度)
(3)主観的活力
(幸福感のよりダイナミックな側面/やる気がでる等)

自尊心と自己効力感

また過去の研究から、幸福感には、自尊心と自己効力感が相関を与えていることがわかっています。よって独立変数として、以下の2つを測定しました。

(1)自尊心(自分自身に対する全体的な肯定的評価(Rosenberg,1979))
(2)自己効力感(目標を達成する自分の能力に対する信念(Bandura,1997))

強みの知識と活用

また、この研究のポイントが「強みの知識」「強みの活用」の尺度を新たに開発をしたことが特徴となります。これは、かつての研究では強みの概念(VIAなど)の開発が中心だった中で、新しい取り組みでした。

また、強みとは「自分たちが使いたいと切望し、本来感(本当の自分だと思う感覚)があり、活気づける自然な能力」とも定義され、そこには「自己一致した目標(価値づけができている目標)」が影響していると言われています。そこで「有機的価値づけ(organismic valuing process)と呼ばれる尺度も用いました。

よって以下3つの幸福感の関連を調査しました。

(1)強みの知識(自分の強みを認識し、自覚しているか)
(2)強みの活用(自分の強みを、様々な場面で使用できているか)
(3)有機的価値づけ(本人が大切と感じる価値観を知り、大切にできていると感じるか)

詳細は以下のとおりです。(左が原文、右が翻訳)

(1)強みの知識尺度(右はDeepLで翻訳)
(2)強みの活用尺度(右はDeepLで翻訳)
(3)有機的価値付け 尺度(右はDeepLで翻訳)

調査結果

調査方法は、それぞれの項目について、相関分析(関連性を調べる)と重回帰分析(どの要素が幸福度に影響を与えているか影響度を調べる)の2つを行いました。そして、結果わかったことがこちらです。

わかったこと1:強みの活用は幸福感に関連している

相関分析の結果、強みの活用は幸福感に関連していることがわかりました具体的には、「強みの知識」「強みの活用」「有機的価値づけ」は、それぞれの「主観的幸福感」「心理的幸福感」「主観的活力」に関連している結果となりました。

各項目の相関です

わかったこと2:強みの活用よりも、自尊心のほうが幸福感に影響を与えていた

次に、重回帰分析(どの要素が幸福度に影響を与えているか影響度を調べる)を行いました。すると、以下の事実がわかりました。

・「主観的幸福感」への影響度:自尊心(.39)強みの活用(.21)
・「心理的幸福感」への影響度:自尊心(.41)強みの活用(.24)
・「主観的活力」への影響度:自尊心(.31)強みの活用(.21)

つまり、強みの活用よりも、自尊心のほうが幸福感に影響を与えていたということです。

かつ、より細かく見ると、「主観的幸福感」「心理的幸福感」「主観的活力」に有意に影響を与えていたものは「自尊心のみ」という結果でした。

幸福感・活力を目的変数とした重回帰分析

まとめ

強みの知識・活用と幸福感に、相関があったのは過去の研究の通りであったのは、なるほどな、と納得する結果でした。

また、今回の研究では「有機的価値づけ」という自己一致の目標を立てている事も含めて調査していること、またこの後の研究にも繋がる「強みの知識」「強みの活用」の尺度を開発したことで、後の研究でもこの尺度は使われているものをいくつか目にしています。2007年の研究ですが、後の研究にバトンが繋がれていったようです。

そして個人的に一番興味深かったのが、「幸福度には、強みの活用より自尊心がより影響していた」ことでした。加えて、強みの活用と自尊心も相関があることも示されていますが、自尊心は、幸福度の土台になる重要な尺度なのだな、と感じた次第です。

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