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「強み活用のサポート感」が、エンゲージメントを高める?! 知覚された強みの組織的支援(POSSU)尺度の開発

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。さて、本記事では「強み活用のサポート感がエンゲージメントにどのような影響をあたえるのか?」についての調べた論文を解説いたします。

ぜひ上司や経営の皆様には、みていただきたい論文です!

<ご紹介の論文>
『強み活用に対する組織的支援の認識:銀行業界における新しい尺度の要因妥当性と信頼性』
Keenan, Elzette M., and Karina Mostert. 2013. “Perceived Organisational Support for Strengths Use: The Factorial Validity and Reliability of a New Scale in the Banking Industry.” SA Journal of Industrial Psychology 39 (1): 1–12.

10秒でわかる論文のポイント

  • 職場において、強みを活用することは様々なポジティブな影響がある。

  • 今回の研究では、「組織による強みの活用がサポート感」の尺度を作成した。

  • 分析の結果、強み活用のサポート感は、エンゲージメントを高め、バーンアウトを低めることがわかった。

本論文の背景

強みの活用の研究は、特に2000年代では幸福感など「個人の話」を中心に展開されていきます。その中で2010年代になると「職場での強み活用」も探求されるようになってきました。

本研究では、組織における強みの活用をより深めるために、「組織における強み活用のサポート感」、正しくは「知覚された強み活用の組織的支援」(Perceived Organizational Support for Strengths Use:POSSU))という新しい尺度を開発するとともに、その尺度がエンゲージメント等にどのような関連があるのかを調べたのでした。

新しい尺度「知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)」とは

簡単にいえば、組織で働く従業員が「うちの会社って、うちらの強みを活かすこと、支援してくれてるよねー」と感じられることが、「知覚された強み活用の組織的支援(Perceived Organizational Support for Strengths Use)です。

なぜこのような尺度が「職場における強みの活用」に有用だと考えたのか?その理由として、以下3つのモデルが土台となっています。それが

(1)職務要求ー資源モデル(JD-Rモデル)
(2)ポジティブ感情の拡大構築理論
(3)幸福で生産的な労働者のテーゼ

の3つです。なかなか面白いので、以下解説したいと思います。

(1)職務要求ー資源モデル(JD-Rモデル)

まず、POSSU尺度の開発は「1)職務要求-資源モデル」を、参考にしています。このモデルは「人は様々な職場資源によってモチベーションやパフォーマンスが高まる」と考えるモデルです。

職務資源とはは、職務における様々な資源です(そのまんま)。
ただ、より細かく見れば様々なものがあるわけです。たとえば

組織レベル組織的支援、キャリア機会、雇用保障、報酬)、
対人レベル(チーム文化、上司や同僚からの支援)、
職務レベル(役割の明確性、意思決定への関与)、
タスクレベル(自律性、業績フィードバック 、スキル多様性 )など。

そして、注目したいのが、職務資源の一つに「組織的支援」が入っていることです。この組織的支援というのは、従業員がパフォーマンスを発揮する上で重要な概念の一つ。先行研究で「知覚された組織的支援(POS)」という概念がありますが、これが高まると、「自分が頑張ったら組織が報いてくれる」と思えることを意味し、会社への愛着が高めたり、より多くの努力に繋がるとされます。

そして、「知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)」はこの「知覚された組織支援(POS)」を拡張して作成されているのが、1つ目のポイントです。

(2)ポジティブ感情の拡大構築理論

次に、「ポジティブな感情が、人の行動や思考の数を増やし、レパートリーを広げる」という理論です。(詳しくは以下記事より)

組織が強み活用を支援することで、ポジティブ感情が高まり、結果としてエンゲージメントや生産性が高まると考えました。よって、この理論をPOSSUの尺度作成にも活用しています。

(3)幸福で生産的な労働者のテーゼ

最後に、こちら。「◯◯な✕✕のテーゼ」というと「残酷な天使のテーゼ」しか思い浮かびませんが(自分だけ?)、それは置いておきます。
さて、この「幸福で生産的な労働者のテーゼ(happy-producutive-worker)」とは、「ポジティブな感情と業績の間には正の関係があり、ポジティブな感情により人間関係の質が高まり、社会的支援などの動機づけメカニズムが働く」というテーゼ(命題)であり、CropanzanoとWright(2001)によって提唱されました。

これを示す研究は後に出てきますが、POSSUの尺度の土台となる考えとして用いられています。

POSSU尺度の詳細

このようなプロセスで開発された上記の尺度は、以下の8項目でした。
以下設問について、1(全くない)~7(ほとんどある)の7件法の回答尺度を用いています。

知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)の尺度(8項目)

1,この組織は私の強みを活かしてくれる
2,この組織は、私の長所に最も適した方法で仕事をすることを可能にしてくれる。
3,この組織は、私が得意とすることをする機会を与えてくれる
4,この組織は私の才能を発揮させてくれる
5,この組織は、私の強みが私の職務に合致していることを保証する
6,この組織は私の才能を最大限に生かしてくれる
7,この組織は私の長所を生かしている
8,この組織は、私が得意とすることに焦点を当てている

著者にて翻訳
知覚された強み活用の組織的支援の原文

調査の概要

さて、ここまで尺度開発の、前提条件や理論の背景を伝えてきました。次に、この新尺度「知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)」エンゲージメントやバーンアウトとどのように関連していたのか?について、調査した結果を見ていきたいと思います。

調査方法

研究参加者は、南アフリカの銀行部門で働く165名です。
参加者は5つの民族グループで構成されており、白人29%、黒人29%、有色人種30%、アジア人9%、その他という内訳でした。

参加者を対象にアンケート調査を行い、POSSUがエンゲージメントやバーンアウト等に与える影響を調査しました。

測定した尺度

測定した尺度は、POSSUを含む、以下の8つです。

1)知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)(8項目)
  (例:この組織は私の強みを活用している、など)
2)職務資源_上司サポート(4項目)
  (例:仕事で困難にぶつかった時に上司を頼れる、など)
3)職務資源_自律性(4項目)
  (例:仕事の内容を自分で決められるか、など)
4)職務資源_情報(4項目)
  (例:仕事の結果について十分な情報を受け取れるか、など)
5)職務資源_参加(4項目)
  (例:仕事に関する問題に影響する決定に参加できるか、など)
6)組織の欠陥に基づくアプローチ(8項目)
  (例:この組織は、私の弱点を改善することを目的としている、など)
7)バーンアウト(5項目)
  (例:1日の終りに使い果たした感じがする、など)
8)ワークエンゲージメント(5項目)
  (例:自分している仕事は意味と目的に満ちている、など)

そして、それぞれの相関を分析し、(1)知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)を成果変数とした重回帰分析(どの項目がどれくらい影響を与えているかを分析)しました。

調査の結果

さて、調査の結果、大きく2つのことがわかりました。

わかったこと1:POSSUはワークエンゲージメントに正の相関があり、バーンアウトに負の相関があった

各項目の相関を分析した結果、「知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)」はワークエンゲージメントに有意な正の相関(.49)があり、バーンアウトには負の相関(-.28)があることがわかりました。

各尺度の平均、標準偏差、相関係数

わかったこと2:やっぱりPOSSUはエンゲージメントに影響があった

わかったこと1と同じやんけ、となりそうですが、より詳しく分析するために、ワークエンゲージメントとバーンアウトを対象にして重回帰分析(=どの項目がどれくらい影響を与えているか)を行いました。

というのも、ワークエンゲージメントや影響を与えているものは、POSSUだけではなく、「職務資源」や「組織の欠陥に基づくアプローチ(DBA)」もあるわけです。それらの影響を調整した上で、POSSUはどれくらいの影響があるのか?をより詳しく見ていきましょう、ということです。

その結果、ワークエンゲージメントに対して「知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)」はポジティブな影響を与え「組織の欠陥に基づくアプローチ(DBA)」はネガティブな影響を与えることがわかりました。

また、バーンアウトについては、POSSUが職務資源とDBAを調整した上で、ネガティブな影響がある(=POSSUが高くなるとバーンアウトが低くなる)ことがわかりました。

バーンアウトとエンゲージメントを従属変数とした重回帰分析

まとめ

「強み活用について組織からサポートされている感」があると、エンゲージメントが高まり、バーンアウトが下がるというのは、実に興味深い結果でした。

また、今回の論文の中心となった尺度「知覚された強み開発の組織的支援(POSSU)の開発背景も興味深かったです。「JD-Rモデル」「ポジティブ感情の拡大構築理論」「幸福で生産的な労働者のテーゼ」など、複数の理論や概念モデルを元に尺度を構築するというのも、こうやって尺度って作られるんだ、と勉強になりました。

私も、この尺度を元に組織への強み介入の効果検証などをしておりますが、背景を知ることでより自信をもって尺度を活用できる、と感じます。読み解くのは大変ですが、こうした知識は武器になります。

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