【エッセイ】雨に降られて
木曜の午後5時過ぎのこと
車で帰路に着いていた私は
突然の雨に降られた。
瞬く間に水玉模様へと衣替えする
透明なフロントガラスと
ルーフを叩く水音のリズムの速さが
この雨の強さを物語ってる。
鋼板に守られた私は呑気にも
時速40kmで街中を走る車内から
傘を忘れた人々を眺めていた。
ランドセルを背負った少年は
雨が体を濡らすことなどものともせず
歩道を一人、闊歩する。
ランドセルに仕舞ってあるであろう
教科書やノートのことを考えると
今夜のお母さんの呆れぶりは
想像に難くない。
制服を着た男子高校生は
ブレザーの上着を引っ掛けて
辛うじて自身の頭部を守ろうとしている。
今朝少し早く起きて
丁寧にセットしたであろう前髪が
雨で崩れることを嫌ってだろうか。
スーツを着たサラリーマンは
ビジネスバッグを大事そうに抱え
雨水に身を呈して
バッグの中身を守ろうとしている。
重要な仕事上の書類でも
入っているのだろうか。
白髪頭の御老人は道を急がず、
軒下で雨宿りをしている。
その隣には老婦人が連れ添っており
雨空を眺めながら
二人は何か話しているようだ。
少年よ。
君はこれから大人になる。
そして守るものが増えていく。
守るものは増えるほどに
雨道は歩き辛くなる。
それがつまり、
愛を知るということなのだ。
ただ、少年よ。
雨に濡れながら闊歩する大胆な君は
勇しく格好いい。
どうかそのまま、大きくなってほしい。
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