振付家と劇場支配人 掌編小説
「どうだろうか、バレエが盛り上がっているいま、人気のあるダンサーたちを一堂に集めて一つの作品を作るというのは」
「それは良い考えです」
「そうだろう。大スターたちが同じ舞台で踊るんだ。成功したら劇場支配人としてこんなに嬉しいことはない」
「いやはや、振付家としてやってきて過去にこのような例は思い出せません。
一人ずつ踊る順番について、まず最も年長でキャリアも長いタリオーニが最後ということには誰も異論はなかったのですよ。ではその前は誰にするかという話になった途端、グリジとチェリートが揉め出しましてね、お互い私が踊ると言って一歩も譲らず、稽古が進まないのです。支配人、私はもう困り果てているのですよ」
「そうか。それは確かに困ったことだ。だがこの作品はなんとしても完成させ、上演に漕ぎ着けたい。なんと言ってもスター・ダンサーたちが4人揃って、一度に同じ舞台に現れるのだからな。
ではこういう考えはどうだろうか。登場順が決まらないのなら年長の者が決めて良い、ということにしては」
「支配人にいただいた妙案を彼女らに伝えますと、一転して互いに譲り始めたのですよ。おかげで稽古を再開できました」
「そうか、それは良かった」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?