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アートマネジメントとは?<アートマネジメント・1>

 このレポート課題は2年目の最後に提出した。生涯学習論でとても面白く講義を聴いた先生が担当してくださったので、懐に飛び込む感じで、四つのレポートを提出できたのが良い思い出となっている。課題によってはまだ研究すべき点があるという指摘もいただいたが、概ね報われた感があって、読後感の良い小説に出会った感じと似ている。
 以下、レポートと参考資料。

アートマネジメントとは何か 

 アートマネジメントとは、「アートに関係するマネージメント」であり、アートを経済社会の中で成立させ、運営してゆく流れではないか。「アート」という言葉も巨大で、さまざまな意味が混在している。「マネージメント」とは、デジタル大辞泉によれば、「経営などの管理をすること」である。よって、アートを経営し、管理するということになる。

 アートに関わる経済は、美術館運営の他に、画商や作家、アートイベントなど、さまざまな分野の社会に渡る。経済の中で、お金というものが人間の体における血流のような役目をし、世界のさまざまな場所やあるいはネット上などを巡っているように、アートも、世界における美術的な価値として、巡っている。

 文化庁の提示するアートマネジメントの定義は、「アートマネジメントは、文化の作り手と受け手をつなぐ役割を担うものであり,公演や作品等の企画・制作,資金の獲得など、芸術を発展させる」とされていた。「芸術家は創造活動に専念し,芸術を支え受け手のニーズを汲み上げるアートマネジメントを担う人材との間で分担・協力して、芸術の発信力を高めていく」ことが重要だとしているものの、「アートマネジメントという言葉は十分根付いておらず、アートマネジメントの概念の明確化や、わかりやすい言い換えを検討すべき」であるとも記していた。

 アートを扱うことの中で、アートという言葉を、「一つの美術作品」として、置き換えてみると、作品はアーティストから創造、発進され、オブジェクトになる。売買が伴えばそこに経済が発生し、美術館が買い取ったとすれば、発表のための場と、鑑賞者への発信、展覧会が成功したとすれば美術館に利潤という経済の輪が出来上がる。経済というものは、金銭のやり取りによって循環している。よって、アートにおける経済も循環する。

 他の芸術分野と同じように、アートが美術品だと仮定して、オークションや画廊でアートそのものを買うということでも物理的に循環する。展覧会での循環というのは、ミュージアムショップなどの関連オブジェ販売などを除いて、利用者が金銭を支払って鑑賞した結果、何かしらを得るという精神的満足感が芸術分野のマネージメントに大きく関与していると考えられる。

 美術館での利益を展覧会で生み出すためには企画を立てなければならないし、企画のためのリサーチなどから始まって経費は膨大に必要である。関係者ではなくても推測できる経費の中には、展覧会における設置費用、広告費、作品の貸し出しのためと運搬費用、保険、キャプションパネル製作、図録やグッズの費用、学芸員、監視員の人件費、また企画などを外部とコラボレーションする場合は、その費用など、様々な方向や現場で経費は生まれる。一つの展覧会に巨額の費用がかかるということは、その企画が利益を産まないと赤字となり、存続と経営は困難になる事態が予想される。

 資料として読解した『入門ミュージアムの評価と改善』には、学芸員が経営に関わることの必要性を述べている箇所があり、美術館の経営方針や内容を決定するための主要な位置になるべきであるという意味を記していた。研究だけを進めても無論美術館の運営は回っていかないし、資本主義社会の中での経営者として存在はできない。米国のドキュメンタリー映画「アートのお値段」には、その巨大なサークルが記録されている。まず、画家や作家たちという、作品を作り出す人々、それを鑑賞するひと、評論する人がいる。作品が作家たちの元を離れると、画商という人々、売買の世界へと移動する。オークションという場所で、作品の値段が決められ、所蔵先が決まる。この中には個人の収集家がいれば、美術館という団体もある。映画では、作家たちは、手元を離れた作品についてもその後の行方を観察する様子が記録されている。おそらく最初は作家自身が画商と交渉の末に、作品の値段を決定しているだろうが、その作品が公になると、そこではまた新たな価値が決定される。その作品を欲しい人が多ければ多いほど、オークションでは高騰してゆく。そうでなければおそらく下がってゆく場合もあるのだろう。映画では、自作が大きく値上がりしてゆく様子を見ている女性画家にスポットが当てられていた。彼女の様子は特に嬉しげでもなく、曖昧であった。それは彼女が手放した売値の遥か先へゆくほどの高騰であったが、無論、それは最初に買い取った者の利益であり、作品はあたかも株のように売り買いされていく。次に描く彼女の作品は、それに続くある程度の売値にはなるだろうが、確定ではない。

 このような例は、おそらくどのような分野のアート作品に世界にも無類にあるだろう。よって、アートの値段というのは、有って無いようなものと解釈される場合もある。ある人々が良いと感じても別の人々は良くないと感じたり、あるいは宗教的な理由から崇拝されたり排除されたりもする。

 アートを提供し続け、それを経済として成立させるためは、そのような背景を持つ美術業界の流れの中で、関係者が、時代の「今」に何が求められているかを深く察し、まず確実に計画してゆくところから始まってゆくのではないか、そしてそれがアートマネジメントという巨大な流れなのではないかと考察した。

参考文献および資料

文献

『ミュージアムマネジメント―産業文化施設の運営』諸岡博熊 著  創元社 1993

『入門ミュージアムの評価と改善』村井良子・上山信一 著 ミュゼ 2002

『指定管理者は今どうなっているのか』中川 幾郎/編著   松本 茂章/編著  2007

『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』洞田貫晋一郎 著 翔泳社 2019

『ハウ・トゥ アート・シンキング』若宮和男 実業之日本社 2019

『美術の経済 “名画”を生み出すお金の話』小川敦生 著 2020

ウエブサイト

文化庁「アートマネジメント人材の育成及び活用について」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/seisaku/05/04/shiryo_03.html#:~:text=アートマネジメントは,文化の,ていくことが必要%E3%80%82

映画 「アートのお値段」 2018



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