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ショートショート20 「Tea Time」

「わかった、手だ!」

成美が ”ついに見つけた!” という様子で声を上げる。カフェに入って、ほどなく「なんか変わったんだよなぁ〜。」と呟き、その答えをずっと探していたらしい。

「手の動きがさ、なんか丁寧なんだよ。」

大学を卒業して以来ご無沙汰だったから、成美と会うのは1年ぶりか。自覚はなかったけど、思わぬところにお稽古の成果が出ているもんだなぁと私は自分の手に視線を落とす。

だいぶ贔屓目にいって清楚、悪くいえば地味な自分の顔がずっと好きになれなかった。成美のように目が大きく、笑えば八重歯が可愛く顔を覗かせ、なんだが全体的にフワフワした、風が吹けば宙に舞い上がってしまうようなファッションの似合う THE女の子 といった容姿に憧れもした。

いわゆる大学デビューの波に乗って大幅なイメチェンをしてみようか、と考えたこともあったが巻き髪で金髪にした自分のイメージをスマホアプリで作ってみて、その壊滅的なアンバランスさに実行を取りやめた過去がある。

…文明の進歩に感謝だ。私にとりあえず新天地に踏み出すフロンティアスピリットが備わっていたならば、それは小さなトラウマとして今も心の片隅に居住していたかもしれない。

そんな私だが父親譲りのこの手だけは好きだった。指の一本一本が綺麗に切り分けられていて、それぞれの指が個別の存在感を放って調和するバランスの取れた手。

見た目は大柄で威圧感のある父は、その容姿に不釣り合いな手の形がコンプレックスだったようだが、私はこの手が遺伝したことを誇りに思っている。

私が茶道を習い始めたのは、社会人になって3ヶ月が過ぎた頃だ。目まぐるしくすぎていく毎日の中、私仕事しかしてないじゃん。と、寝るだけの休日に意味を持たせたくて、習い事を探してみたのがきっかけだった。

ネイルに料理教室、ダンスにヨガにピラティス。自分磨きならば、もっとキラキラした習い事はたくさんあったけど、どれも私には似合わない気がした。

女子としてのかわいさを拡げていくことが叶わないのであれば、いっそ徹底的に自分を律してみよう、と半ば修行のような意味合いを持って茶道教室の門を叩いた。

結果、茶道は私に合っていたと思う。一挙手一動足全ての仕草を美しくみせるその教えによって、私は、可愛くはなれなくとも美人には近づけるかも知れないと希望に燃えている。

「実は、お茶を習っているんだよね。」

と、おやつを待っている猫みたいに、テーブルに突っ伏して上目遣いでこちらをみている成美に種明かしをしてみた。

「えぇ!?ババくさ!!」

すかさず手痛いコメントが返ってくる。


こんな時だって茶道のお陰で私は平常心…


でいられるよう、もっとお稽古に励もうと思う。

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