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ショートショート02 「キミのまる文字」

ー6月18日。

空気が水分を含み、不快な服みたく肌にまとわりつく。青空が恋しい天気が続く中、この季節は、毎年、うんざりするような雨の数週間といっしょに、ちいさなしあわせを、わたしに運んできてくれる。

仕事を終えてアパートに戻り、キィッと、金属の軋む、かすかな音を聞きながら、ポストを開くと…あった。今年は、りらっくまですか。

去年は、スヌーピーで、一昨年は、たしか…キティちゃん。毎年、キミが送ってくれるバースデーカードは、ハイセンスじゃない。27歳の女性に贈るには、ちょっと、ベタすぎるとこがある。けれども、そのチグハグさが、かえって、一生懸命選んでくれたんだろうな、と、ロフトか東急ハンズあたりの売り場で、困り顔をしてるキミを想像させて、あったかい気持ちになれるんだ。わたしは、部屋まで、待ちきれなくて、その場で、カードを開く。


「お誕生日おめでとう!今年も大好きです。」


手書きで、書き込まれた、シンプルなメッセージ。メールもLINEも、ある、このご時世に、ひと手間かけてくれる真面目さが好きだ。でもね、わたしは、そのこと以上に、…キミが -女の子みたいで嫌だ- っていう、このまる文字が好きなんだ。

厚紙のメッセージカードの裏面を、指でなぞると、起伏がわかるくらい、強い筆圧で、書きこまれているのに、文字そのものは、くるっとしていて、なんだか、ソフト。キミが書くと、多分「豪傑」って字さえも、マスコットみたいに見えて笑っちゃう。

キミは、いつも一生懸命…というか、ひたむきで、必死。よく今読んでるビジネス書の話をしたり、資格試験の勉強の進捗を話してくれる。

けど、まぁ、”夢”があるほど、意志があって、強い人でもない。

明確な何かがない、けど、何もしないのは不安。その空白を埋めたくて、目の前にあることに、とにかく一生懸命。そんな感じの、やっぱり、不器用な人だ。

キミは、今の自分じゃない何かになりたい。何かになりたくて、必死。でも、無理して、らしくない何かになってほしくはないなぁ。

やっぱり、この丸文字みたいな、フワッとして、あったかいキミがいい。ま、でも、必死じゃなくなっても、やっぱり、それは、キミじゃないから。

お互い、そのままを、一生懸命すごしてこうね。


「あ、もしもし。カード届いたよ。りらっくま、かわいい。ありがとう。」

「届いた?よかったよかった。週末、そっち行くから。新幹線チケット取った。」

「わかった。楽しみにしてるね。勉強は、順調?」

「うん、俺的には、頑張ってる。あ、新しく美文字スクールに通おうかと思っててさ。」

「美文字?」

「そう、やっぱりさ。デキる男、って感じの文字を書ける方が、いざって時にさ」

「そっかぁ、でも、美文字スクールは、オススメしないかなぁ。」

「あれ? 珍しい。いつもは、応援してくれるのに」

「まぁ…ちょっとね。週末、話聞かせてよ。楽しみにしてるから。」

「?…わかった。じゃあ、また週末。 お誕生日おめでとう。」

「ありがとね。 おやすみ。」


頑張るキミを、応援したい。ただね、そのかわいくて、やさしい、まる文字だけは、やっぱり、そのままでいてほしいかなぁ。

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