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「 箔+箔+箔+エンボスで 『 卵と女神の表現 』 と向かい合う 」

コスモテックの青木です。
出版社 ワニマガジン社 さまよりお声がけいただき、ワニマガジン社 さまが新たに開設する渋谷のギャラリー 『 Déesse space caiman shibuya 』( ディーエス スペース カイマン シブヤ )のオープン内覧会の案内状製作の加工をお手伝いさせていただきました。

space caiman( スペース カイマン )とは ワニマガジン社 さまが運営されるギャラリーの名前です。2015年に東京 日本橋にオープンした1ヶ所目に続いて、今回 2024年4月に新設する渋谷のギャラリーは東京で2ヶ所目にあたります。作家やクリエイターなどの展示、発表の場として広く知られ、space caiman は今注目されています( 下記、space caiman について )

space caiman は 2015年にオープンした、ワニマガジン社が運営する多目的イベントスペースです。

マンガ・アニメ・イラストレーション・現代アート、などジャンルにとらわれず、原画・ラフイラスト・ 立体・出力複製原画・インスタレーションなど作品感に合わせた演出、展示が可能なギャラリーと、 トークライブ・ライブドローイング・映像イベント・サイン会などの観客参加型イベントが同時開催出来ます。

心地よい広さの空間で作品と対話し、クリエイターの力を感じ取ることができる、 東京の新たなカルチャー発信基地を目指します。

space caiman ホームページ より

◉ 女神を前面に打ち出したデザイン

『 Déesse space caiman shibuya 』 というギャラリー名の中の "Déesse"( ディーエス )とはフランス語で 「 女神 」 を意味しています。

そのため今回 加工をお手伝いさせていただいたオープン内覧会の案内状は、ギャラリーのシンボルである 「 女神 」 を前面に打ち出したデザインになっております。

はじめに共有いただいたデザインイメージ
一見するとシンプルなビジュアル しかし実はとても複雑な構造になっているのだ


ワニマガジン社のご担当者さまからはじめてデザインを拝見させていただいた際に驚いたことは、3色の箔押し加工とエンボス( 浮き出し )加工で構成される、図案の精密さと繊細な加工表現です。

デザインデータは、4つのレイヤーに分かれる3つは箔押し、1つはエンボス( 浮き出し )
ぴったり合わさった時 「 卵と女神 」 が完成するのだ


コスモテックとも長年交流のあるアートディレクター・デザイナーの有馬トモユキさんがデザイン( ※ )されているということをご担当者さまからうかがった際は縁を感じ、とてもうれしく感じました。

※ イラストレーター 村田 蓮爾( むらた れんじ )先生のデザイン案 「 卵と女神 」 を ロゴデザインとして、有馬トモユキさんがデザインを手掛けられている。注目のコラボレーションなのです!

また、「 今回の表現はコスモテックの加工技術が必要不可欠! 」 という有馬さんたっての願いとご推薦があったとお聞きし、シャキンと背筋が伸びる思いがしました。

◉ ぴったりの箔位置合わせ

案内状に使用している紙は 「 ケンラン( ディープブラック ) 」( ※ )です。 紙の風合いは つるっと平滑で、且つ、ぱりっと硬質な紙です。

今回使用する紙は 「 ケンラン(ディープブラック) 」
厚すぎず、薄すぎず 厚みは225kg( 約0.28mm )


余談ですが、「 ケンラン 」 という名前は 「 豪華絢爛( ごうかけんらん ) 」 という言葉から命名されており、名前のとおり44色もの豪華絢爛な紙色のバリエーション!

さらに表面にキラ加工をしたもの6色を含めると全部で50色となり、色カードで最も色数が多く、1950年代後半に発売されてから2024年令和になった今も60年以上もの長きにわたって幅広い用途で使用され、愛され続けている歴史ある紙なのです。

※ 今回の使用色は ディープブラック ですが、 「 ケンラン 」 の中には 黒 という色もあります。ディープブラックの方が黒よりも色濃い黒色が特徴で深い漆黒感を強く感じられます。

1工程目 黒つや箔

箔押しは3色( 3版 )の図版の位置を寸分の誤差も生じさせずに合わせる、大変精度を要求されるデザインになっています。最初に繊細な細い曲線の図版を紙色 ディープブラックの上に黒つや箔で箔押しします。

黒( 箔 ) ON 黒( 紙 )の表現
写真からも箔と紙の色の差異を見て取れる
実は非常に大切な1工程目の箔押し
この一手目の紙面上の押し位置が狂っていると、すべてが台無しになってしまう
箔表現としてはさりげなく しかし重要な一手なのだ


黒に黒の箔押しを乗せることで、図案との相乗効果により全体の仕上がりにグッと奥行き感を出しています。

2工程目 ブロンズ箔

また、2工程目の製作内で今作の重要な要素である 「 女神 」 をブロンズ色の箔押しで加工します。

1工程目で押した黒つや箔に沿って 2工程目でブロンズ箔が合わさった
女神のシルエットが現れたことで 全体のイメージが少しずつ明らかに
1工程目の黒つや箔押しのために調整を加えたデザインデータ
女神の図版部分が白抜きになっているのが見て取れる
2工程目で白ヌキの位置にぴったり合わせてブロンズ色の箔押しをする


当初は1工程目の繊細な曲線の図版は女神のシルエットが白抜きされていない状態で黒つや箔の線の上にブロンズ箔をかぶせる( 女神の図版をかぶせる )予定でした。

しかし、1工程目の箔押し加工が2工程目の女神にも影響し、上にかぶせるブロンズ箔に1工程目の圧の痕跡が反映されてボコボコしてしまうことを避けるため、データを調整し、ブロンズ箔がかぶさる範囲を白抜きにすることで圧の影響を回避することにしました。

加工は一枚一枚手作業で丁寧に箔押し
時折作業を止め 目視で箔押しの位置がぴったり合っているか確認


1工程目の図版を2工程目とのケヌキ合わせにしたため、2工程目のブロンズ箔を押す際には特に慎重に見当合わせ( 位置合わせ )に注意しながら加工に臨みました。

3工程目 マットゴールド箔

3工程目の加工ではマットゴールド箔の色味の確認のため、ワニマガジン社のご担当者さまがコスモテックの現場へ足を運び、箔押しの加工に立ち会ってくださいました。

3工程目の図版は乗せとケヌキ合わせの要素から成るデザインになっており、女神のシルエットに接する部分はケヌキ合わせ、1工程目の黒箔の上には3工程目のマットゴールド箔を上からかぶせて交差する表現( 乗せ )となっており、デザインデータからも有馬トモユキさんが考える 「 女神 」 の重要さと、全体の仕上がりに現れるレイヤー感などを感じられます。

女神に接する部分はケヌキ合わせ 黒つや箔と交差するマットゴールド箔は乗せ
3工程目では箔押し加工立ち会いを行い 数種のゴールド箔の色味を確認いただく
1工程目から3工程目まで入念に計算しつくされた箔のケヌキ合わせ、乗せの表現
女神のビジュアルを どん! と引き立たせるようデザインされている


このように3図版の構成が緻密なケヌキ合わせと乗せを駆使したデザインになっており、最終的に3図版合わさった際、ギャラリーシンボルの 「 女神 」 が美しく際立って見えます。

◉ 卵型にがっつり盛り上げる

4工程目 エンボス( 浮き出し )加工

今回の製作で一番の難題はエンボス( 浮き出し )加工でした。

「 なめらかな卵型に盛り上げたい 」 というご要望があり、図版や表現を考えると彫刻エンボス版を使用しなくてはならないのですが、彫刻エンボス版を製作するためには時間を要するため今回の納品のタイミングに間に合いません。

スケジュール上 実現がむずかしく、このような場合、通常では普通のエンボス版( 金属版と樹脂版による凸版と凹版で挟み込んで盛り上げる方法 )一択になってしまいますが、しかし、この方法だとなめらかな盛り上げが困難で、垂直に立ち上がるように盛り上がってしまいます。

通常のエンボス版でなめらかな盛り上げを表現することは困難
そこで考えた手法が 『 ニュークリアダイ 』 を用いたエンボス( 浮き出し )
左が凸版 ・ 右が凹版


そこで今回使用したのが 製版会社 ツジカワさま『 ニュークリアダイ 』 を使用したエンボス( 浮き出し )加工です。通常の金属版( 凹版 )と 『 ニュークリアダイ 』 ( 型取成型凸版 )と呼ばれるツジカワさまの3Dモデリング技術を使用しています。

これは腐食製作による樹脂版ではなく、元型をつくり樹脂を流し込んで製成する樹脂版で、今回はそれを用いてコスモテックで加工に臨むことになりました。

写真は 『 ニュークリアダイ 』 卵型に盛り上がっている樹脂版( 凸版 )


ただし、この状態ではまだ理想とするなめらかな盛り上げ表現まで辿りつくことは難しいのです。 ここからさらになめらかさを求め、ツジカワさまからアドバイスをいただきながらコスモテックの加工現場で版に一工夫を加え、彫刻エンボス版を使用せずにギミック的になめらかな卵型にエンボス( 浮き出し )加工を施すことに成功しました。

工夫に工夫を重ね 調整と手間に時間をかけ
3色箔押し表現した位置に合わせて なめらかなエンボス( 浮き出し )を実現


ふかふかした紙とは異なり、 『 ケンラン 』 のパリッとした硬度のある紙を盛り上げることはなかなか難易度が高く、加圧の具合が強すぎるとエンボス( 浮き出し )加工によって紙が破れてしまいます。

つるんとなめらかな盛り上げ具合としっかりとした盛り上げ具合の両立とバランスを念頭に置き、コスモテックの現場で加工に挑ませていただきました。

◉ 全工程 手加工!

有馬トモユキさんが手掛けられた緻密なデザインデータと睨めっこし、「 どうすれば美しい卵と女神の加工表現になるのだろうか? 」 と向き合うことからはじまり、紙面上に落とし込んだ姿に想像を膨らませました。

ビジュアルはシンプルなれど 加工技術がふんだんに盛り込まれている
加工現場の手仕事から成る オープン内覧会の案内状完成!
完成品を見ると一見シンプルそうに見えるが、実は複雑で難易度が非常に高い


そして、加工に使用する版選びにもこだわり、そこにアイデアや工夫を取り入れながら すべての工程をコスモテックの現場の職人の手加工で一枚一枚慎重に箔押し、エンボス( 浮き出し )させていただきました。

ワニマガジン社 さま、そして有馬トモユキさん、今回 大切なアイテムの加工を頼ってくださりどうもありがとうございました! 『 Déesse space caiman shibuya 』 がこれから多くの作家やクリエイターの発信基地にならんことを祈っております!

クレジット
クライアント : ワニマガジン社 [ https://www.wani.com/common/ ]
デザイン   : 有馬トモユキ [ https://tatsdesign.com/ ]
加工     : コスモテック
製版     : ツジカワ [ https://www.tsujikawa.co.jp/ ] 

◉ 有馬トモユキさんよりメッセージ

『 Déesse space caiman shibuya 』 の ロゴデザインと、インビテーションのデザインを担当させていただきました。

村田蓮爾さんはわたしが10代の頃に初めて作品を拝見した作家です。
その方の原案をデザインに落とし込むのは緊張する作業で、しかし自分の中では大事なものと直に向き合っているような瞬間でした。

Photo by TOMOYUKI ARIMA


いつもはお預かりしたイラストレーションを紙面に配置することが多いです。その時は 「 この絵はどういうところに置かれていて欲しいのか 」 と、ちょっと内面的なことを考えながらレイアウトをするのですが、今回はもう少し踏み込みたいと思い、モチーフの髪に黒の箔を追加しています。

本当はこういうふうに髪が流れているんじゃないか、インビテーションという物質的なものになったら、立体的に盛り上がっているといいのでは… と妄想は膨らむばかりでした。

そうしたことを実際に受け止めていただき、技術的なチャレンジも達成してくださったコスモテックさんに本当に感謝しております!

◉ Déesse space caiman shibuya の場所

Photo by TOMOYUKI ARIMA
Déesse space caiman shibuya 公式HP : https://dscaiman.com/


【 連絡先 】

ようこそ!行列のできる『箔押し印刷工房』へ
http://blog.livedoor.jp/cosmotech_no1/
有限会社コスモテック 青木政憲
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

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