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思いつきでスコーンを作った話

ニュージーランドに滞在中、各家庭であまりも簡単に焼菓子を作っている姿に驚いたことがある。私が暮らしていた実家では、材料をテーブルに揃えるだけでも一苦労。クリームの泡立てはまぁまぁ大仕事だったし、オーブンを使うとなればこれまたよっこらしょ感がすごかった。

今の私は頻繁にオーブンを使うし、パンを焼くのも案外気軽に出来ることを知っている。それでも、スコーンを作ることに関してはどうも腰が重かった。なぜなら、そもそも焼き菓子を食べない私はスコーンもマフィンもカップケーキもマドレーヌもビスケットも、その違いをまったく知らなかったからだ。

私の大好きな微熱さんが記事でいとも簡単にパンやケーキを焼いている。彼女の記事に「ブルーベリーとクリームチーズのマフィンを作る」という一文があった。私はこれにとても惹かれた。甘いものは好きではないが、たまたま冷蔵庫の中には頂いたブルーベリーがあり、最近のお気に入りでストックを切らさないLuxeリュクスのクリームチーズがある。

今でしょ。

私の中の林修先生が私に指さす。
ええ、ええ、そうなんでしょうね。今なんでしょうね。見ないふりしててもブルーベリーはなくならないしね。冷蔵庫を開けるたびにブルーベリーが「コンニチハ!」って言ってくるんだよね。

ところが、先に述べたとおり私は焼き菓子の区別がわからない。私はまず”マフィンとは”の検索ワードでGoogle先生に教えを請うた。

ここではマフィンの説明は割愛するが、私が想像したものとちょっと違っていた。どうやら私はマフィンとマドレーヌをごっちゃに考えていたようだ。どちらも「マ」がつくので仕方がない。

そしてマフィンやカップケーキ、そしてマドレーヌには型が必要なようだった。私はいろんな意味でかたなしなのだ。これらの焼き菓子は諦めよう。

そういえば、私は以前からスコーンが作りたかったのだ。ニュージーランドの料理番組で”Easy-Peasy Scones”というのを紹介していて、それがソーダ水を入れるだけでいいという魔法みたいなレシピだったのだが、レシピも手順も完全に失念してしまって、ずっと心残りだった。

そうだ。スコーンを作ろう。
私はいつものようにYouTubeでレシピを漁った。理想のレシピは科学的に説明しているもの。グルテンについてとか、バターの役割とか、トップになぜ牛乳を塗るのか等を説明してくれているものがいい。それさえわかれば、どう作ろうが応用が効く。

スコーンはグルテンを発生させないことがコツ、ということを知った私はスコーンにおける自由を手に入れた。それさえ守れば、あとは適当でもスコーンは仕上がるに違いない。

私は立ち上がった。

ところで、かわいくて賢い大好きなおとちゃんがstand.fmで音声配信をしている記事を投稿していた。

スコーンを作る時の友としてこれほど相応しいものが他にあるだろうか。私はイヤホンを耳の穴に押し込み、おとちゃんの配信を聞き始めた。

…すべての配信を聞き終わる前に、スコーンは焼き上がった。

どうか見て欲しい。私が初めて作ったブルーベリーとクリームチーズのスコーンを。

なんだろう?こういうホラー映画を見たことがある。
あれは確か、人がこんなふうに重なり合って溶けていくB級ホラー映画だった。
もしもし、なんか出てますよー。
これなんてシュッとなったジャバザハットじゃない?
その中にまともな子もいたの。こういうのを”掃き溜めに鶴”って言うんだなと思った。

思うさんも加わって、配信がますます面白くなってきたので、この時はB級ホラーさながらのスコーンに対する心のダメージはそれほどでもなかった。でも、こうして改めて写真を見てみると、心がざわざわして仕方がない。

ちなみに、思うさんの声はこれまた私のお気に入りYouTubeチャンネル『ネオホラーラジオ』のコウタくん(声の低い方)に声がそっくりだ。

YouTubeチャンネル『ネオホラーラジオ

残りの配信を聞きながら、私は出来立てのスコーンを実食した。

ところで、今回のスコーンには、薄力粉と強力粉の他、気まぐれにライ麦粉も入れてみた。そのおかげか、サクッとして軽やかでそれでいてしっとり感もあり柔らかく、普通に美味しかった。

クリームチーズは完全にその存在を消しきっていた。伊賀の忍者かっつうくらい存在感がなかった。ブルーベリーは締まりがなかった。締まりがなくとも、こういう肉体を抱きたいと思う男がこの世にいることを私は知っている。

おぬきのりこ『絶望と恐怖と衝撃のスコーン』より

何度も言うが、スコーン自体は美味しかった。
これは、圧倒的に成形の能力がない人間がスコーンを作るとこうなるというひとつの事例である。

今、私は無性にホラー映画が観たい。(昨日も観たのに)

#スコーンというB級ホラー #どうしてこうなった #そもそも #何をしようとした

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