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想像のフェジョアーダ

昨今、”ガチ中華”という言葉が世間を賑わせているらしい。ガチ中華とは「日本人の好みに寄せていない中華料理」という意味だ。

私は「ガチ中華」という言葉が世の中に浸透するずっと前から、現地の人が食べるリアルな中華が好きだった。山椒の効いた麻婆豆腐やしょっぱい切り干し大根の入った菜脯蛋、最近では酸菜白肉鍋が特にお気に入りだ。

中華料理に限らず、フランス料理でも、ドイツ料理でも、トルコ料理でも、私は現地の人が食べているリアルな味を求めている。それもレストランで出てくる整った料理ではなく、普通の家庭で毎日のように食べられている普段の顔をしたお料理。和食で言えば、煮魚やきんぴら、煮物のような料理だ。

フランス料理なら「カスレ」がそれに当たるし、ポーランド料理なら「ビゴス」がそれに当たる。なるべく現地の味に寄せたい私は、現地の人が現地の人向けに発信しているYouTubeなどを見てその味に挑戦するようにしている。

先日、ライブの休憩中にミュージシャンとブラジル音楽の話になった。”現地のボサノバ事情はどうなのよ”から始まった話は、いつの間にか”現地で食べた美味しい料理”にテーマがすり替わっていた。

「俺はブラジルで食べたフェジョアーダが忘れられないね」

ピアニストは熱を込めてそう語った。

フェジョアーダとは黒い豆と肉を煮込んだブラジル家庭料理だ。よくシュラスコ食べ放題のお店のサラダバーの辺りに「ご飯と一緒にどうぞ!」的な感じで置いてある黒いドロドロしたあの食べ物だ。まぁまぁ深い黒さの料理なので、見ただけでは味がまったく想像できない。しかし、一度食べてしまうと肉の旨味やほっくりとした豆の食感が堪らなく美味しい。

私はすぐにでもフェジョアーダが食べたくなったが、流行病のお陰でお店が休業していたり営業時間が短縮されたりしていて、ブラジル料理を食べに行く機会はなかなか訪れそうにもなかった。

それなら自分で作っちゃうんだぜ!

さっそくフェジョアーダ作りに挑戦だ。
私がかつてシュラスコ食べ放題のお店で食べたフェジョアーダと思われる料理の味を思い出そうとするが、まったく思い出せない。ネットで調べると私の記憶と違う画像ばかりが表示される。日本語で検索するからだ。私はリアルなフェジョアーダを求めているのだ。”リアル” ”フェジョアーダ”で検索すると、まぁまぁ黒いつぶつぶの画像結果が出てくる。更にリアルな情報を引き当てたい私は”feijoada” ”Brazil”で検索してみる。するとガチで黒い料理が次々と出てきた。黒い。現地のものは、より黒い。忖度の一切ない黒さだ。

動画は英語のものは英語圏の人たちに寄せているフェジョアーダの可能性があるので、ポルトガル語の動画を探す。できれば、料理好きな主婦か、あるいはぽたぽた焼でも焼きそうなおばあちゃんのほっこり動画がいい。

しかし、これがまったく見つからない。ブラジルはYouTube規制でもしているのかっていうくらい見つからない。

仕方がないので見た目がブラジル人っぽいおっさん達の動画を見る。ところが、これがどの動画も調理方法や材料が様々でどれがリアルかわからない。

なんなの、世界フェジョアーダ規制とかあるわけ?
半ば心が折れそうになった頃、私の頭の上の電球がピカッと光る。

「そうか!各家庭のオリジナル要素が多い料理ってことか!」

どうりで私が理解できる英語レシピを読み漁っても、材料も手順もざっくりなわけだ。

「肉と野菜を炒めて、ブラックビーンズを入れて煮る」

手順はこれだけだ。これしかないのだ。
肉は、豚肉でも牛肉でもソーセージでもチョリソーでもベーコンでも、なんでも入れちゃってオッケー。必ず入れるものはブラックビーンズだけ。味付けは塩のみ。

ここで気になるのは、風味である。

外国ではよく現地特有のハーブやスパイスが使われるではないか。ブラジルでよく使われるハーブってなんだろう?

私は考えた。
ブラジルと言えば元はポルトガル領。周辺国は元スペイン領。少なからずスペインの文化に影響されているだろう。スペインと言えばチョリソーだ。ブラジルもなんならチョリソーだ。チョリソーと言えばチリパウダー。チリコンカンなどに使われる、あのチリパウダーだ。

これでベースの風味が出るかもしれない。

材料ざっくり、手順もざっくり、風味は完全に想像というスタイルで私はフェジョアーダを作ってみた。サムネに貼られたものがこの時に作ったフェジョアーダである。

ちょっと玉ねぎを切るのにざっくりしすぎた。
玉ねぎは、豆と同等の大きさに切ることをオヌヌメする。

以下に材料と手順を書いておく。

【材料】
玉ねぎ 大一個、にんにく適量(なくてもいい)、肉類 200g~400g(豚肉、牛肉、太いチョリソー等)、ブラックビーンズ一缶(缶詰の水煮で十分)、水 適量、チリパウダー お好み、ローリエ 一枚(なくてもいい)、塩少々

【手順】
1. 大きな鍋にオリーブオイルを敷き、肉を炒める
2. 肉に火が通ってきたら、1. に にんにく、玉ねぎの順番で入れて更に炒める
3. ローリエ、チリパウダーを2.に入れて更に炒める
4. 材料がひたひたになるくらいの水を3.に入れて煮立たせる
5. 鍋に蓋をしたまま、10~20分ほど弱火で煮る
6. 肉に完全に火が入り柔らかくなったらブラックビーンズを入れて煮る
7. いい感じ!と、ときめいたところで塩を加え、味を整える。ブラックビーンズに既に塩味がついているので、整える程度でいい
8. ご飯にかけて、召し上がれ
9. 美味しかったらサンバを踊りながらテーブルを三周しよう

これはブラックチリビーンズ。既に風味と塩味が付いているので便利。でもリアルじゃないかも。ブラックビーンズはこの缶とよく似ているが、ブラックビーンズの缶の写真の方が忖度なく黒い。

これはあくまでも私も想像のフェジョアーダ。現地のフェジョアーダはどんな風味がするのだろう。スパイシーなのかな、それとも重湯おもゆみたいな味なのかな。

いつか本物を食べてみたい。
その時は「安心してください。履いてますよ!」と言いたくなる衣装でサンバを踊り狂おう。

いつぞやのフェジョアーダ。この時は豚肉と牛肉、ベーコンを入れてます。一口食べたら秒でサンバのステップを踏んでました。

#私のイチオシレシピ 
#私の中で微妙にメキシコが混ざっているブラジル



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