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『映画を早送りで観る人たち』に嘆いている暇はない

Podcast、はじめました。

みなさんこんにちは。アウトプットの機会を増やすというのを心がけている2022年ですが、最近はnoteでの執筆に加えて新しいことをはじめました。

はい、Podcastです。

この番組では、メディアやエンタメコンテンツの現在地点、それから少し先の近未来について語り合うというのをコンセプトに、あれやこれやと楽しくおしゃべりしています。

エンタメ業界はここ数年の変化がとても激しく、誰も正解を持っていないことも少なくないので、「未来はこうなるぜ」とかかっこいいことの一つも言えず2人で頭を悩ませているのをそのまま公開してたりします。

「メディアのげんざい」でご一緒しているのは、僕がWeb編集者だった頃に出会ってからかれこれ10年以上仲良くさせてもらっているアヨハタさんです。二人とも最初は全然違う畑にいたのに流れ流れて出版・エンタメ・メディアの近い領域で仕事をしているの、なんだかご縁を感じますね。

Twitterとかもやっているので、エンタメ・出版・メディアに興味のある方は暇つぶしに覗いていただけますと幸いです。

今回は、そのPodcastで先日収録した際にビジネス書『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史/光文社新書)を取り上げたので、せっかくだからnoteでも感想を書いてみたいと思います。

『映画を早送りで観る人たち』を読んでみて

誰にでも訪れる「懐古主義的な自己の戸惑い」を見た

映画を1.5倍速で観たりファスト映画(映画を5分とか10分とかに要約したコンテンツ)で満足したりネタバレサイトで結末を知った上で観に行ったりと、「映画を観る」という体験が大きく変化している若者たち。本書では、そんな現象に対して、私たち自身の生活スタイルの変化、技術的な進化、環境の変化、価値観の変化といった様々な切り口から考察しています。

興味深かったのは、著者である稲田さんご自身がものすごい戸惑っていらっしゃる様子が、本書を通して伝わってきたところでした。

稲田さんは現在48歳くらいのご年齢(1974年生まれ)で、映画配給会社での仕事やDVD業界誌の編集長を経て独立された方です。そんな稲田さんにとっては、映画の鑑賞体験にまつわる劇的な変化に理解を示しつつも心が追いつかない、と言ったところなのでしょうか。冷静に、客観的に分析しつつも言葉の端々から戸惑いが感じられました。それがむしろ生々しくて、おそらく現役で映画業界関係者の方々はそれ以上の戸惑いを持っているのかなと感じます。

そういった意味で、本書は「時代の劇的な変化に対する業界関係者の戸惑い」を吐露した貴重な資料として読みました。

恐ろしいのが、これは対岸の火事ではなく誰にでも訪れるということ。こうした「『時代の変化』や『価値観のズレ』とどう向き合うか」は、人によって様々なんでしょうね。(ちなみに僕も映画は早送りで観れないタイプです)

Web版「現代ビジネス」で一時期話題になった「『映画を早送りで観る人たち』の出現が示す、恐ろしい未来」という記事を起点として作られているので、気になった方は記事から読んでみることをおすすめします。

漫画の世界に置き換えて考えてみた

「変化」という意味では、僕が身を置いている漫画業界についても同じようなことが言えます。そう、紙の本からデジタルデバイスへのシフトです。

僕は37歳で、ずっと紙の本に親しんで育ってきた人間なので、「漫画は紙で買ってなんぼでしょ」と思っていたのにも関わらず、いざデジタルデバイスで漫画を買って読むようになると一瞬で慣れてしまいました。

今では気づいたら3年で2,000冊くらいは電子コミックで購入しているし、何より置き場所に困らないしいつでも気軽に変えるし読者的には最高なんですよね。(ただし、確実に積ん読は増えました)

今思うと「紙こそ至高」とイキりたかっただけなんでしょうね……。紙もいいけど電子もいい。

16→4→143→10,000

この数字は、漫画のページ数を表しています。

16は、週刊連載する漫画の大体のページ数です。4はTwitterの一投稿あたりの上限画像枚数で、すなわちTwitter漫画として一般的に作られる漫画のページ数を示しています。

143は、先日ジャンプ+で公開された藤本タツキさんの読切漫画『さよなら絵梨』のページ数です。これは、紙の雑誌の時代ではなかなかありえないような読切漫画のページ数で、アプリやWebだからこそできたことだと理解しています。

10,000は、昨今日本でも注目を集めるWEBTOON(縦読みフルカラー漫画)の縦幅のpixel数です。今まで漫画の世界で一般常識的に語られていたページ数という長さの概念が、スマホ最適化によって生み出されたWEBTOONではpixel数という新しい概念に変わることを意味しています。

漫画業界においても、「読切漫画は売れない」「Twitter漫画は従来の漫画よりおもしろくない」「WEBTOONは流行らない」と言ったネガティブな意見を聞く機会は今でもあります。それでも先日、「ジャンプ+は読切を年間300本以上掲載している」という話をインタビューで語っているのを目にしました。

そこでは「読み切り作品に力を入れる理由は、「新しいヒット作を作るため」。特に新人や若手の育成の場として、読み切りは有効」という風に語られており、実にロジカルに読切漫画を量産していることが分かります。

時代の変化、価値観の変化に無駄な抵抗するより、変化に適応するべき

あらゆる業界で変化は起こります。これはもう、どうあがいたって起こるものだと思います。

馬車から車に変わったように、携帯電話がスマートフォンに変わったように、人は便利さという呪いからは逃れられません。音楽もレコードからアルバムへ、アルバムからデジタルデータに変化したことによって、視聴体験が大きく変わりました。

いまの映画の世界でも、大袈裟に言うとそれと同じことが起こっているのかもしれません。この変化に抗うことは、無駄だなと考えたほうが建設的ではないかと思うのです。

雑誌にかけられた「ページ数」という制約がデバイスの変化によって取っ払われ、今までの常識が通用しない。そんな時に気持ちを切り替えて、新しいフォーマットに対する最適解を模索でき、むしろ利用するくらいの姿勢が、変化の渦中にあるクリエイターには必要なのかもしれません。

フォーマットが大事か、物語が大事か。

クリエイターにとって大切なことは、素晴らしい物語を生むことです。

たとえ2時間の映画が15分に圧縮されても、そこからオリジナルの映画を観る視聴者が一人でも増えたら嬉しい。むしろ、2時間の物語を観てもらえるような動機づけを、15分のフォーマットを利用して公式に作っちゃう方が建設的なのではないかと思うのです。もちろん、製作者側に一円も還元されない海賊版などは言うまでもなくアウトで、ちゃんとつくり手の方々に経済的な還元がなされる前提の話ですが。

先日こんな興味深い記事を読みました。

テレビドラマだけどテレビの型に依存しないつくり方をした『何かおかしい』が人気を博しているとのことで、テレビの世界でもフォーマットに対する危機意識を持ったクリエイターが新しい挑戦をしていることに刺激を受けました。

視聴者や読者はいつも製作者の意図通りに読むとは限らないし、そこに期待せず、いい物語を作ることにこだわれば、最終的にはたくさんの人に届くものになる。

僕たちの生活様式が代わり、体験の仕方が多様化していく今の時代だからこそ、より「いい物語をつくる」ことを心がけ、「フォーマットの変化にはあらがわず、利用する」くらいの気持ちでものづくりに励むことが、いまのクリエイターに求められる資質なのではないかなと思います。

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