見出し画像

集英社・講談社・小学館の漫画持ち込みサイトから、各社の作家・作品戦略を読み解いてみた

どうも、コロクです。久しぶりの「令和時代の漫画家たちはどう生きるか」シリーズ更新です。今回は、「大手出版社の漫画持ち込みサイト」について考えてみます。

小・集・講。出版大手三社の漫画持ち込みサイトが出揃う

今から半年ほど前、今年の4月に小学館が持ち込みサイトを開設したことで、集英社・講談社・小学館のいわゆる出版大手三社の漫画持ち込みサイトが出揃いました。

今回のnoteでは、各社の漫画持ち込みサイトの特徴を紐解き、「漫画の持ち込み」に対する考え方や、出版社としてのスタンスについて、独断と偏見で考察してみます。

できるだけ客観的な情報をお届けできればと思いますので、一人でも多くの漫画家さんが持ち込みサイトを利用する際に参考にしていただけると嬉しいです。

それでは、いってみましょう。

【集英社】 圧倒的王者の「ジャンプブランド」と、団結に向かう女性媒体

まずは漫画業界のトップランナー、集英社から見てみます。

集英社といえば、日本一売れている漫画雑誌としての週刊少年ジャンプがあります。そのジャンプは、漫画雑誌が衰退の一途を辿る中で、ブランド力を維持したまま雑誌の本質的な機能をちゃんとデジタルに落とし込むことに成功した唯一の媒体だと思っています。

デジタルメディアにおけるブランドづくりってだけでもかなり難しいのですが、特にすでにブランドが確立されているものをデジタルに移行するのってさらに難易度が上がります。そんな一大プロジェクトを大成功に導かれたのは、ジャンプが雑誌でやっていたことを高い解像度で理解して、それをアプリに落とし込めた結果なのでしょうね。
※少年ジャンプ+のデジタルシフトについてはこちらのnoteをご参照ください

話が逸れました。逸れましたが、意外とその点が集英社のオンライン持ち込みサイトの特徴に強く関係していたりします。それは、媒体ごとに持ち込みの窓口が異なる点です。特に、週刊少年ジャンプと少年ジャンプ+の持ち込みフォームはほぼ同じ形式(ジャンプ+の方が微妙にアプデされてる?)で構成されているものの、窓口自体はそれぞれのWebサービスの中に設けられています。

他方、ヤングジャンプは「オンライン打ち合わせ」をするために希望時間や打ち合わせ可能なツールを記入するフォームが追加されているのですが、やはり窓口はヤングジャンプのWebサイト内に存在します。
※ジャンプSQなど他の媒体も同様

翻って、少女漫画はどうでしょう。

代表的な媒体のオンライン持ち込みサイトを見ても、それぞれが独立しているのが分かります。しかし、約一年前の2020年8月にマンガMeetsという集英社の少女・女性向け総合マンガ投稿サイトが誕生し、ここに投稿すれば全編集者に目を通してもらうチャンスが得られるようになりました。
※媒体単位でのオンライン持ち込み窓口も残っている模様

男性向け・女性向けそれぞれで方向性が分かれる集英社のオンライン持ち込みサイト。男女での区別は今の時代性を考えると繊細な問題ではあるものの、掲載作品を見れば窓口が分かれるのも仕方がないと思えます。

そして、なんといっても男性向けで圧倒的な存在感を放つのが、「ジャンプブランド」です。発行部数でも連載作品のメガヒット確率でも他の追随を許さない週刊少年ジャンプは、漫画界のナンバーワンブランドだと言っても過言ではありません。

漫画家さんたちと話していても、「ジャンプはメジャーリーグのような場所で、他とはゲームが違う」と聞くし、「ジャンプで連載したい(したかった)」と名指しで言う人は少なくありません。

こうした背景もあり、新しいサイトを立ち上げるよりも、「ジャンプで連載したい」という漫画家のための持ち込みサイトとして「ジャンプブランド」を前面に押し出した窓口を設ける方が効果的だと判断したのかなと推察しています。僕が担当者だったらそう判断すると思います。

また、ジャンプに関しては、YouTubeやブログ、漫画学校など、様々な手段で編集部が情報発信していることも講談社・小学館との違いとして大きいです。このあたりのコンテンツやプロモーションのクオリティに関しては、外側から見ていてとても参考になります。

【講談社】 DAYS NEOのオープンプラットフォーム戦略

続いては、2020年にデジタルなどの売上がとうとう紙の売上を上回るなど、出版社の中でもデジタルに強い印象がある講談社を見てみましょう。

創業者・野間清治氏の幼少期より現在に至るまで、同社の歴史を良いも悪いも詰め込んだ『出版と権力 講談社と野間家の一一〇年』を読むと、それぞれの時代のニーズを捉えたプロダクト(雑誌など)を生み出してきた出版界の先駆的な存在という印象を強く受けます。

そんな講談社らしさが詰まったオンライン持ち込みサイトが、「DAYS NEO」です。

「講談社7誌100人超の編集者と出逢える場所」と銘打って2018年4月2日に正式リリースされたDAYS NEOは、2021年9月現在では「25誌290人の編集者と出会えるマンガ投稿サイト」と大きく飛躍。漫画家と編集者のマッチングサービスとしてたしかな存在感を放っています。

最近はBookLiveやフリー編集者も編集者登録していたりと、同業他社の編集者の登録をも歓迎するオープンプラットフォーム化に取り組んでいるところが集英社・小学館と一線を画しています。柔軟性の高さが光りますね。そして、つい先日白泉社のヤングアニマル編集部が参画し、業界内では一部話題になっていました。

投稿した漫画作品への編集者からのコメントが読めたり、投稿している作品のPVやお気に入り数、作者プロフィール、さらには編集者の星の数やコメント数などあらゆるものが可視化されていたりと、非常にオープンでフラットな構造になっているDAYS NEO。

サービスリリース3年半で20,000作品以上の投稿があり、DAYS NEOでのマッチングをきっかけに90人以上が掲載や連載を獲得したそうで、実績もちゃんと公開しているところも、「ちゃんとデビューにつながっている」という安心感や信頼の担保に繋がっているように感じます。

とりわけ「漫画家が編集者を選べる」というシステムは、「はじめに見てもらった人が担当になる」というこれまでの持ち込みの固定観念を覆す意味で非常にエポックメイキングでした。「漫画家と編集者の悲しいミスマッチが起きる課題」を解決するためのUX設計は秀逸です。

編集者の立場に立って考えると、誰が人気があるのかがしっかり可視化されるという意味で、矢面に立たされる緊張感が生まれているのではないでしょうか。健全な競争意識が生まれるといいですね。

惜しむらくは、「マガジンデビュー」というマガジン主催のマンガ投稿サイトがまだ生きていて、DAYS NEOとほとんど同じ機能なのにあまり活発でないところ。ここはデジタル戦略としてDAYS NEOに集約させた方が良いのになぁと思ったりします。漫画家目線でも、統一してくれると嬉しいだろうなと。

余談ですが、諫山創氏が19歳の頃に描いた『進撃の巨人』のプロトタイプ版とも言える読み切り『人類VS巨人』が読めるのはおそらくマガジンデビューだけじゃないでしょうか。

【小学館】 完全クローズドだからできる戦略

最後は、大手三社の中で最後発のリリースとなった小学館です。デジタルの取り組みには三社の中で腰が重い印象のある同社ですが、惜しまれつつ廃刊となったIKKIやヒバナのような雑誌を筆頭に文化的価値の高い作品を多く生み出そうという気概が感じられる出版社だなという印象が強いです。いち漫画ファンとしては最近のビッグコミックスピリッツ、スペリオールのラインナップがめちゃくちゃ好きです。

そんな同社ですが、スマホ版かなと思うくらいのシンプルかつ大きめのフォントを選んだサイトデザインが印象的な「ミタイ!」という漫画持ち込みサイトを2021年4月19日にリリースしました。

こちらは漫画を入稿すれば小学館&小学館クリエイティブの全漫画編集者に届き、作家側が編集者を選べるという点ではDAYS NEOに近いところがありつつも、注目すべきは「完全クローズド」というところでしょう。

才能ある漫画家を若いうちから囲い込みたいと思うのは当然の戦略であり、その観点から完全クローズドにすることは非常に有効だと思います。このあたりは、集英社の思想に近いのかもしれません。

「完全クローズド」という点以外の特徴は、ミタイ!にある詳細ページに記載されている内容を覗いてみると分かりやすいです。

1. 投稿作品に講評をお戻しします!!
お一人様につき週に一作品、講評をお戻しします。一度に複数作品投稿された場合は、一番最初の投稿作品のみに講評させて頂きます。
2. 作品は完成原稿であれば何でもOK!!
これまでにあなたが描いた作品であれば、他社受賞作・商業発表作・同人誌・二次創作・成年向け、なんでもOKです!
3. クローズドサイトです!
投稿して頂いた作品が一般に公開されることはありません! 小学館と小学館クリエイティブの編集者だけが閲覧致します。
4. 小学館の全漫画編集者に届きます!
一度の応募で小学館と小学館クリエイティブの全漫画編集者が読めるようになります。自分がどこの雑誌に向いているのか悩んでいる方、是非お気軽にご投稿ください。
5. 担当希望があった場合は、あなたが指名!!
作品を読んだ編集者から担当希望が届くことがあります。それを受けるか受けないかは、あなた次第です!この編集者と仕事をしたい!と思った時にだけ返信してください。

二次創作の持ち込みや成人向け作品もOKという点を打ち出していることに驚きましたが、クローズドだからこそできることかもしれないなと目から鱗が落ちました。まぁ、二次創作や成人向け作品を見て技術やクオリティを評価する、というのはコミケやコミティアでもやっていることですからね。

また、DAYS NEOが「編集者からの感想」が公開されるのに対して、ミタイ!は「一人一作品必ず講評する」と書いてあり、「ちゃんと最初からガッツリフィードバックが欲しい」という方にはこちらの方が向いてそうです。

こうして見ると、漫画家さん側は基本的に漫画を入稿してメールが来るのを待つだけだし、二次創作でも講評をしてもらえるし、意外とこちらの方が気楽に投稿できそうな気がします。

個人的には、ミタイ!はリリースしてから半年に満たない若いプロダクトということもあって、認知度的な意味で集英社・講談社の持ち込みサイトよりも競合(利用している漫画家)が少ない可能性が高く、挑戦するなら今かなと思ったりします。
※ちなみに5月末に京都精華大学の新世代漫画コースの1年生50人ほどに向けて講義した際に紹介しましたが、誰も知りませんでした

気になるポイントは、本当に投稿作品すべてに目を通してフィードバックが行われているのか、フィードバックの質は担保されているのかなど、完全クローズドがゆえの見えない部分がどうなっているのか、というところでしょうね。

三者三様の漫画投稿サイト。何を見て選ぶべきか。

ジャンプブランドを最大活用した「王者の戦略」の集英社、漫画家さんと編集者・出版社との対等な関係性、透明性を意識した「オープン戦略」の講談社、完全クローズド×マッチングを活かした「ハイブリッド戦略」の小学館。漫画投稿サイト一つとっても出版社によってその性質がまったく違いました。

今回のnoteで僕が伝えたいことは、「どの出版社の持ち込みサイトが優れているか」ではなく、「出版各社の持ち込みサイトのキャラクターを理解し、自分にあった持ち込み先を見極める」ということです。

できるだけフラットに書いてはいますが、どこまでいっても僕の主観です。それぞれにメリットも、もちろんデメリットもあると思うので、最後はあなたの判断で作品を投稿してみてください。

今回取り上げたのは集英社・講談社・小学館の三社だけでしたが、他の出版社さんも漫画の持ち込みサイトや投稿サイトに独自の思想を持って展開していると思いますので、気になった方は色々覗いてみてください。
※すべての出版社の持ち込みに関する情報を知りたい方はマンナビさんがよくまとまっているのでそちらをご覧ください(原稿持ち込み投稿エージェント

最後になりましたが、現在ナンバーナインでは創業6年目を迎えるタイミングで、漫画編集者の新卒採用(22年4月入社)を行っています。

内定が決まったけどまだ出版業界やマンガ業界で働くことを諦めたくない方、じっくり研修してゆっくり育ててもらうよりもスタートアップの荒波に揉まれて誰よりも早く独り立ちし活躍したい方、色んな方からのご応募をお待ちしております。

Twitterのフォローも、よろしければお願いします。

【有料部分】 僕が漫画家なら、どのサービスを利用するか

ここまでは、できるだけ客観的に各社のサービスの特徴について書いてきましたが、せっかくなので自分がいま漫画家としてやっていくなら、何を利用するのかについて考えてみたいと思います。

ここからは、多分に主観が含まれることと、興味のない人には興味のない話なので有料部分とさせていただきます。

ここから先は

1,383字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?