熊野とは④ 「道」・・熊野古道、聖地への道
熊野への道があるから今も昔も熊野があるのです。
人々を聖地「熊野」へのいざなう道は、修験道の開祖「役行者」がその原形を作った「大峯奥駈道」が最初の道。その後、熊野の隆盛とともに熊野古道紀伊路、中辺路が熊野詣のメインルートとなっていきます。
鎌倉時代になると新たな道が整備されます。那智と本宮を結ぶ熊野古道大雲取越、小雲取越や、高野山と結ぶ熊野古道小辺路、伊勢からは熊野古道伊勢路です。熊野古道大辺路は、室町時代に作られ、特に江戸時代からは参詣の帰路や風光明媚なことから観光ルートとして栄えました。
ちなみに熊野参詣道という表現もありますが、熊野古道のことです。
熊野古道は、都と熊野を結ぶ道だけでなく紀伊半島にある4つの聖地を結び道でもあります。
■都(京都)から熊野を目指す道
都⇔熊野 熊野古道(紀伊路、中辺路、大辺路)
■紀伊半島にある4つの聖地を結ぶ道
・仏教の聖地「高野山」
高野山⇔熊野 熊野古道小辺路
・修験道の聖地「吉野・大峯」
吉野、大峯⇔熊野 大峯奥駈道
・神道の聖地 「伊勢神宮」
伊勢神宮⇔熊野 熊野古道伊勢路
・自然崇拝、神仏習合の聖地 「熊野」
那智⇔本宮 熊野古道大雲取越、小雲取越
熊野古道紀伊路
・京都市→大阪市→和歌山市
上皇ご一行は、城南宮(京都市、京都南インターの近所)で出立式を行い、淀川を船で下ります。船着場は大阪市天満橋にある八軒屋船着場。今は、永田屋昆布本店さまの店先にその碑があります。すぐのところに熊野九十九王子*の一つ目である窪津王子(現坐摩神社行宮)があり、今は谷町筋の西を通る御祓筋となっている道を進みます。途中で谷町筋を交差して谷町筋の一本東の道を四天王寺を目指します。この辺は昔の面影も残っています。現在の天王寺駅からはしばらく阪堺線に沿って住吉大社に向かいます。堺市に入ると仁徳天皇陵の横を通って、大鳥大社へ。和歌山に入るまではほぼJR阪和線に沿って道は進みます。
大阪市内は熊野街道として整備されているところもあり、気持ちよく歩けます。
*熊野九十九王子
王子は、熊野権現の化身として熊野の御子神を祀る社。旅人を守護するもので、旅の安全祈願や休息など道しるべとしても使われてきた。九十九は数が多いという意味。王子があるのは、メインルートである紀伊路と中辺路のみ。
・和歌山市→田辺市
和歌山市東部の川辺付近を通り、木の神さま伊太祁曽神社を経由して、五体王子*のひとつである藤代王子(現藤白神社)へ。私は藤白神社の氏子です。ご近所。
藤白神社の少し手前に熊野の一の鳥居があったとされています。住所も海南市鳥居となっています。この鳥居から熊野の聖域だったということです。
*五体王子 王子の中でも特に格式の高い王子。
藤白神社からは藤白坂を上って行きますが、いよいよ険しい熊野の山々に踏み込みます。途中には、多分京都から初めて海の絶景を観ることになる熊野古道第一の美形といわれた「御所の芝」が藤代塔下王子(藤白峠)にあります。ここで大休憩して、湯浅へ。
湯浅は熊野詣の宿場町として栄えましたが、醤油醸造の発祥の地(日本遺産)でもあります。
湯浅からは、再び険しい山道に入ります。日高町の原谷に向かう峠には古道で最も長い石畳が残されています。熊野詣にまつわる物語のなかで最も有名な安珍・清姫物語の舞台である道成寺に立ち寄り、塩屋王子(塩屋王子神社)へ。塩屋王子は美人王子として有名です。ここは永遠の美や安産、無病息災を祈願する人や美しい子供を授かるという伝説もあります。
塩屋から田辺までは、海沿いを進みます。山越えの連続からの海沿いはきっと楽しい道中であったでしょう。途中には、五体王子の一つである切目王子(現切目王子神社)が鎮座しています。
熊野古道中辺路
・田辺市→本宮
田辺市江川の浜で「潮垢離」をして一つ目の目的地である熊野本宮大社を目指します。さらに五体王子の一つである稲葉根王子で「水垢離」を行い、いよいよ山岳ルートに。
熊野三山の神域の入口とされる滝尻王子は、五体王子の一つで今も熊野古道を歩く人の要所となっています。またここからの古道も世界遺産に登録されているいにしえの道が多く残されています。ちなみに滝尻王子~継桜王子間は熊野古道のなかで私が最も好きな区間です。熊野古道の女王様もいらっしゃるし。
近露王子の手前には、熊野のアイドル「牛馬童子像」があり、旅人を癒やしてくれます。
この区間は、見どころが多く、野中の清水や那智の方を向いている一方杉がある継桜王子など熊野を感じることができます。
さらにいくつかの峠を越えます。アップダウンが続き、五体王子の一つである発心門王子に。ここからは熊野本宮大社の神域となります。
発心門王子から熊野本宮大社までは、熊野古道のゴールデンルートで熊野古道ウォークの入門編で人気ナンバー1コースです。
理由は
①熊野本宮大社から路線バスにのって発心門王子へ、古道ウォークで戻ってくることが出来る。(熊野本宮大社周辺には駐車場あり。私が在席した世界遺産センターも目の前にあり駐車オッケーです)
②距離は約7kmで3時間程度。下り基調。
③ゴールが三山の一つの熊野本宮大社。達成感あり。
④世界遺産に登録されている古道だけなく、里の道(舗装道)も歩くので、お話ししながらのんびり歩くことができる。
熊野詣最初の目的地である熊野本宮大社に到着。
旧社地である最強のパワースポット大斎原へも必ず訪れてくださいね。
・本宮→速玉→那智
熊野本宮大社から熊野速玉大社までは、川舟です。今は、本宮ー速玉の中間地点の熊野川川舟下りを利用して、約90分の川下りが楽しめます。
川舟下りの到着地点は、熊野速玉大社近くの権現河原です。熊野速玉大社にご参拝をして、新宮市の町中をゴトビキ岩と御燈祭りで有名な神倉神社に向かいます。
神倉神社の石段は、源頼朝が寄進したと伝えられており、やばいほど急な538段です。この急な石段を2月6日に開催される御燈祭りでは、松明を持った男子が駆け下ります。私も参加したことがありますが、駆け下りるとはとんでもないことで、命に関わります(笑い)。芸能界からの参加も多いですよ。
神倉神社から町中を進み阿須賀神社を経由し町中、古道、国道を繰り返しながら熊野那智大社に進みます。途中、久しぶりの海に出会い、当時は大歓声であったことでしょう。
いよいよ、熊野詣の最終目的地である那智の滝がある熊野那智大社です。
熊野詣でのクライマックスは、古道随一の美観を誇る大門坂。
途中で、やっと那智の滝を観ることができます。
大門坂を過ぎると熊野那智大社のお参りして、那智の滝へ。
ここまで来るともう何もかもリセットされていると思います。
さあ。よみがえれ!!
熊野古道大雲取越、小雲取越
熊野那智大社からの帰路は、過酷です。来た道を戻るか、大雲取越・小雲取越で熊野本宮へ戻るか、熊野古道大辺路を海沿いに進むかです。
・那智→本宮
熊野詣最盛期では、熊野本宮に戻ることが多く熊野本宮大社で未来を誓い家路につきました。大雲取越・小雲取越は、熊野古道のなかで最難関ルートです。那智からは、先ず大雲取越です。途中でかけぬけ道と分かれます。かけぬけ道を行くと妙法山阿弥陀寺があります。熊野は黄泉の国ともいわれたいました。ここは、熊野の真髄みたいなところでまさしく黄泉の世界。ここに来て自分はよみがえるのです。ぜひ、阿弥陀寺にもお運びください。
大雲取越は、今も古道らしい面影を残すいい道です。途中には丸石がゴロゴロしており、苔むした道と相まって神秘的な雰囲気のなかを歩きます。
ここには、無音の世界があります。自分に入り込む、無になれる道。
峠を越えると胴切り坂が待っています。急坂を下った先には小口の集落があり、一息つけます。この大雲、小雲ルートは外国人が熊野らしさを楽しんでいます。古道歩きだけでなく、キャンプや川遊びなどで熊野の自然を満喫しています。小口は私も大好きなところでよく行きます。
小口からは、小雲取越を進みます。大雲取越と違って照葉樹の自然林が多く、ほのぼのとした気分で歩けます。途中には、熊野古道随一の絶景「百間ぐら」があり、お地蔵さんと熊野の山並みが歓迎してくれます。下るといよいよ熊野本宮大社に戻ります。
熊野とは③で紹介したように、過去(速玉)、現代(那智)にお参りし、再びの熊野本宮大社は未来を司る権現で、よみがえった新しい自分が誕生する瞬間でもあります。明日に向かって。
熊野古道大辺路
熊野古道大辺路は、三山参詣の帰路や風光明媚なことから観光ルートとして主に江戸時代に利用されてきました。
今は国道42号線になっているところが多いですが、いくつかの峠道が古道の姿を残しており世界遺産に登録をされています。
照葉樹が多く、海の景観と相まって文豪たちが愛した道。
大辺路に沿ってJRきのくに線が通っており、レール&ウォークで気軽に絶景を楽しむ熊野古道として人気です。車ー古道歩きーJRー車でもオッケーです。
熊野古道小辺路
高野山と熊野を結ぶ道。ルートは標高1000m以上の峠を越える約70kmでほとんど奈良県を歩きます。標準は3泊4日ですが、交通や宿までの距離などで綿密な計画が必要です。
そんな小辺路ですが、十津川温泉~果無集落~熊野本宮大社は、路線バスを利用できるコース。さらに十津川にも熊野本宮にも極上の温泉がありますので、楽しめます。険しいですが、アップ1回ダウン1回の単純なルートです。
熊野古道伊勢路
熊野古道伊勢路は、お伊勢参りのあと熊野を参詣するための道。伊勢神宮外宮の前の熊野古道の碑があります。
海:七里御浜、川:銚子川、山:大丹倉、自然現象:霧の風伝峠などなどダイナミックな自然があちらこちらに残り、熊野の信仰の原点である自然崇拝を感じることができる無社殿神社も多く見かけます。
松本峠などの峠の道には石畳や石段を多く残っており往時の面影を残しています。このルートもレール&ウォークが楽しめます。
伊勢路を含めた三重県の熊野は、このように熊野らしさを色濃く残す地域であることに加え、鬼伝説や鬼がつく地名が多くあり、伊勢神宮からのルートが明確に紹介できるようになればもっと奥深いストーリーを表現できるルートになると思います。
ポテンシャル大ですね!伊勢路は。
大峯奥駈道
参詣道として初めてできたのは、役行者によって作られた熊野と吉野・大峯を結ぶ大峯奥駈道。熊野古道とは違う修行のための道。修験道の道。自然のまま。そんな道です。
熊野本宮からは、神さまから呼ばれないと行けないといわれている玉置神社へ通じています。十津川温泉からバスで玉置神社へ、そこから熊野本宮大社を目指す。またはその逆ですが、バスの運行をご確認ください。このルートは、前後の路線バスの時間によりルートが絞られます。
熊野古道は人や文化を運んで来ただけでなく、江戸時代以降は備長炭やスギ、ヒノキ、果実など物流の道として紀伊半島の発展に大きく寄与してきたことは言うまでもありません。
熊野古道などのいにしえの道のマップは下記で。
私の熊野古道おすすめルートは熊野とは⑥で紹介します。
次号は江戸時代に入り平和な時代になると旅の主流は、難行苦行の「熊野詣」から遊興の「お伊勢参り」に変わっていきます。その時の熊野はどうなったかを熊野とは⑤新たな展開・・で
すごく長くなってしまいました。最後までお読みいただきありがとうございます。
★これまでの記事は各マガジンに収納しています。
こちらもよろしくお願いします。
マガジン「熊野とは」 ↓
マガジン「coolなkumano」 ↓
■撮影許可が必要なところは許可を得て撮影しています。
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