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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ ~ めんどくさい多様性を保障するために

古典を推した2日後に昨年のベストセラーを紹介する私(笑)(注:本記事はFacebookの投稿を転載しています)。

アイルランド人の男性と結婚し、イギリスに住む筆者が、中学生の息子との日々をエッセイ小説風に描いたもの。ものすごく読みやすくてうまい。

白人警官による暴行で黒人男性が亡くなり、今、抗議の輪が全米に広がって一部は暴徒化しています。もちろん差別には反対です。でも、日本の連日の報道には “ 対岸の火事 ” 的な目線も見られてモヤっとするところがあります。

差別や格差は世界中に存在し、多民族国家や移民の多い国では、日本よりも剥き出しだったりする。でも、
「あれに比べると日本はまだ平和だ」「マシだ」
そうでしょうか?
 
◆ 
 
みんな人それぞれ。個性はすばらしい。多様性を認めよう。

と よく言うけれど、本書にもあるように「多様性は面倒」なのです。

物事をややこしくするし、ケンカや衝突が絶えないし、ないほうが楽。
それでも、人は本来、多様な生き物。
それを ひとつの型に押し込めようとしたり、上下の序列をつけることで、幾多の不幸や悲劇が生まれてきました。
 
だから、多様性を当たり前に保障できる社会にするため、世界にはさまざまな試みがあります。
 
たとえば、本書にある、イギリスのシチズンシップ教育。
これは日本の「公民」よりもっと踏み込んだ「市民教育」とでもいうのでしょうか。

「政治や社会の問題を批評的に探求し、エビデンスを見極め、ディベートし、根拠ある主張をするためのスキルと知識を生徒たちに授ける」

その期末試験の問題は
「子どもの権利を三つ挙げよ」
「エンパシーとは何か」
筆者の息子が「めっちゃ簡単」だと笑うこの問題。
日本の大人の何パーセントが答えられるでしょうか?
 
英語なので耳慣れないけど、エンパシーとは「他人の感情や経験などを理解する能力」だそうです。
他人への共感・シンクロなど、自然にわきでる感情である「シンパシー」とは違うのがミソ。
他人を理解する「能力」。
 
経験や教育、つまり「学び」によって、エンパシーを身につけつつある筆者の息子。

中学生の彼が、日本人である母親(筆者)と一緒に歩いていて、「イエロー」「チンク(中国人を表す蔑称)」と白人に嘲られたとき、どういう感想を述べたか?

また、貧しい地区に住んでいて、ぼろぼろの制服を着ている友だちのプライドを傷つけないように、どうやって新しい制服(ボランティアが縫ったリサイクル品)を渡したか? 本書でぜひ読んでほしい。
 
筆者の息子が通うの中学校では、FGM(Female Genital Mutilation)、
いわゆる「女性割礼」まで教えるそうです。
アフリカや中東、アジアの一部で行われてきた(現在も残っている)、
女性器の一部または全部を切除・切開する慣習。
公立の中学校ですよ?
 

翻って、日本。
多様性を前提にし、保障できる社会のための言論や教育になってるでしょうか?

医学部入試における女性差別。在日朝鮮・韓国人へのヘイト、外国人技能実習生への偏見、入管での虐待など
日本にも差別や偏見が存在することは言うまでもありません。
 
それ以外にも、たとえば
中学高校の制服。校則。PTAや子ども会。通勤形態や、身近な人とのコミュニケーションの方法、内容。今ならマスクの着用に至るまで、

多様性よりも、“ みんな一緒 ” がまだまだ普通で、あたりまえで、
「ばらばらにすれば、規律が乱れる」
「異を唱えるのは怖い」
という感覚が浸透しているように思います。
 
筆者の息子が通う中学校の校長が、
「僕は、イングリッシュで、ブリティッシュで、ヨーロピアンです」と言い、
筆者が「うちの息子は、アイリッシュ&ジャパニーズ&ブリティッシュ&ヨーロピアン&アジアンですね」と応えるシーンがあります。

一人の人間だって、本当は複数のアイデンティティをもつ。
それはきっと、受け継ぐ血の話だけではないはず。
 
めんどくさくても多様性が保障される世の中がいいなと思う人におすすめする一冊です。
いえ、昨年のベストセラーなので、もう読んだ方も多いでしょうが‥‥w

●以前書いたブレイディさん関係の記事を再掲。


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