インタビュー: 家族でゆっくりごはんが食べられる社会を ~ 「マミスマテーブル」プロジェクト 雁瀬暁子さん
◆ 週に一度、夜ごはんの家事から解放を!
―――「マミスマテーブル」。どんなプロジェクトでしょうか?
会員制の小さな家族食堂です。週に一度、平日の夜ごはんを親子で食べていただくのが基本プラン。栄養バランスのとれた家庭的なメニューを提供します。
―――「ここに来れば、注文しなくても夜ごはんが出てくる」という感じですね。
はい。子育て中の親御さんたちの、「週に一度くらい、夜ごはんに関する家事から解放されたい!」という願いをかなえたいんです。仕事のあと、毎日家族の夜ごはんの世話をするって大変ですよね?
―――調理と洗い物だけじゃないですものね。献立を決めて、食材を調達して、盛りつけて、ごみを分別して‥‥。小さい子がいれば、食べさせるのもひと苦労。
結局、自分は台所に立ってかきこむように食べてすませたりね。しかも、親の仕事は夜ごはんだけじゃないでしょう? おふろ、宿題の丸つけ、明日の準備、そして寝かしつけ‥‥。園児のママたちからは、「夜中の授乳や夜泣きの対応で睡眠時間が削られてつらい」という声も聞きます。
―――ひとり親だったり、パートナーの帰りが遅かったりで、自分ひとりで何人ものお子さんのお世話をしている人も。お迎えのあとの嵐のような忙しさ、当事者以外には意外と知られていない気がします。
そんなママたちに、週に一度でもマミスマテーブルでごはんを食べて、バタバタの夜から解放されてほしい。乳幼児さんにはスタッフが食べさせてあげるから、お母さんもゆっくり食べてほしい。家に帰ったらお風呂と家族の時間になります。時間ができた分だけ、心にも余裕ができると思うんです。
◆ ”家庭での長時間労働を減らす” というアプローチ
―――どんなきっかけで、このプロジェクトを発想されたんですか?
マミースマイル保育園をよく利用されるママたちの声からですね。
「仕事のあとの夜ごはんが毎日重荷」
「仕事をがんばりたいけど子育てとの両立はしんどい」
「子どもは大好きだけど、体力がもたない」
話しながら涙を流すママたちも少なくありません。
―――もともと、マミースマイル保育園は「子どもと24時間いっしょにいる専業主婦ママのリフレッシュ」の意味で立ち上げられたと聞きました。
はい。15年経って、今は働くママの利用が増えましたね。社会全体でも仕事をもつママが増えました。でも、共働きで子どもを育てる環境が整ったかといえば、まだまだだと思います。ママやパパが疲れてストレスを抱えていれば、子どもも影響を受けるのに‥‥。
―――雁瀬さんは長年ワークライフバランスの研究をされていますが、実現はまだ遠いですね。
ワークライフバランスって、企業(職場)へのアプローチが多いんですね。
「長時間労働をなくしましょう」とか「男性の育児休業取得を促しましょう」とか。
でも、考えてみたら、ママパパはおうちに帰ってもずっと忙しいでしょう? 家事も育児も、いってみれば仕事みたいなものですよね。
「マミスマテーブル」は、” 家庭での長時間労働を減らす ” というアプローチでワークライフバランスの改善をめざします。
◆ 「おかえり」と迎えたい
―――あこさん、ここからはいつもの私たちのように、くだけていきましょう! マミスマテーブルの特徴やこだわりって何ですか?
ここでごはんを食べる人たちを「おかえり」と迎えたい!
―――ママやパパにも「おかえり」と言うんですか?
そう(笑)。マミスマテーブルは、外食じゃなくて「内食」なの。地域の小さなコミュニティみたいなイメージね。
コロナ禍で、いっそう人と人との距離が離れてしまったと思うのね。お母さん同士の交流もそうだし、子どもたちも友だちの家に遊びに行く機会が減ってるでしょ。いっしょにおやつやごはんを食べることも少ないんじゃない?
―――うちの子も小学生ですが、給食すら、まだ実質的に「黙食」の状況ですからね。
私も子育て中に経験したけど、孤独って人をすごく蝕むんだよね。
顔見知りの人たちと、あいさつしたりおしゃべりしたりして、一緒にごはんを食べる場所があるといいなと思うの。マミスマテーブルは、ちょっとホッとしたり、リフレッシュしてもらえる場所にしたい。
一人暮らしのお年寄りや学生さん、ヤングケアラーなどにも利用してもらえたらと思ってます。
―――食堂なので、ごはんがどんなものになるのか気になります。
栄養バランスの取れた家庭的なメニューにするつもり。糸島の無農薬米を使ったごはんと、あたたかい味噌汁は園で手作りします!
―――あたたかいごはんとお味噌汁、うれしいですね!
◆ 地域のゆるいコミュニティの場に
―――夜ごはんを提供して、それだけじゃなく「おかえり」と迎えるような小さなコミュニティづくりまで‥‥。すばらしい分、とても責任の重い仕事じゃないですか? 子どもをお預かりするのとはだいぶ違う事業だと感じます。
もちろん責任があるけれど、私は保育園だからこそできる事業だと思ってるんだよね。すでに保育園という「場所」があって、園児の降園後はお部屋が空いてるし。スタッフは、ふだんから小さい子にごはんを食べさせてあげてるし。
在園児や卒園児はもちろん、子どもたちは保育園の雰囲気の中でリラックスして食べられるはず。
―――ママパパにとっても保育園はホッとできる場所ですよね。
実はすでに「おかえり」って言ってるしね(笑)。卒園した小学生を、学童保育のあとお迎えが来るまで預かることもあるから。
―――すでに言ってるんだ(笑)。
そうなんです(笑)。そんなお預かりのとき、「あたたかいごはんを出してあげられたらな」、「お友だちと一緒に食べられたら楽しいだろうな」と以前から思ってたんだよね。
残念ながら、日本では子どもの数が減っているでしょ。保育室が余るところも増えてくると思うの。
―――そっか、保育園自体、今後は余っていくのかも?
一方で、孤独に食事をしている人がいる‥‥。
そうやって考えると、保育園は地域のゆるいコミュニティの場としてぴったりじゃない?
もちろん、マミスマテーブルで受け容れられる人数は限られてる。だから、このプロジェクトを成功させて、この仕組みを行政にも提案したいと思ってるの。
◆ どきどきのスタートです
―――熟考されたすてきなプロジェクトですが、不安はありますか?
正直に言うと、あるよー! ノウハウがあるわけじゃないし、やってみたらどうなるか。どんなふうに受け止められるのか、利用者が集まるのか‥‥。
―――なんせ、今までにないビジネスモデルですものね。
先行事例がないからね。どきどきしながらのスタートです。
―――子育て中の親として他の保護者さんと接していると、忙しい日々の中で、人付き合いは気を遣うものだと敬遠する人が増えてるんじゃないかという気がするんですよね。子ども会や地域行事も縮小傾向だし。そんな中、なぜあえてコミュニティを作ろうと?
小学生の保護者さんにヒアリングをしたとき、「コロナ禍で母子家庭で不登校で‥‥。さらに地域の人たちとの関わりがないのは不安」という声があったのね。
そっか、やっぱり心のどこかではみんなどこかでつながりを求めてるんだと気づいたの。
子どもを連れていると何かと気を遣うよね。「迷惑をかけないようにしなきゃ」「自分でなんとかしなきゃ」と、みんながんばってる‥‥。 そんなママたち、パパたちにこそ、「もう十分がんばってるから、自分を責めないで」「サポートを求めていいんだよ」と言ってあげたい!
―――すごくがんばってる自分に気づかず、「ちゃんとしなきゃ」と思ってる人も多いですよね。
そう。無料ではなく、適正な対価をいただいて行う事業なので、かえって遠慮せず利用してもらえるんじゃないかなぁ。
それに、会員制の食堂だからって、無理して仲良くしたりしなくていいんだよ。「なんとなく顔なじみになる」くらいのイメージ? そういう場所があるだけでも、人間ホッとするものだと思う。
―――何かのはずみで、お互いにあいさつしたりおしゃべりするようになるかもしれないし。
そうそう、時には、子どもを通じて大人同士がつながれることもあるかなと思います。私を始め、「おかん」「おとん」みたいな人がいるようにするからね。なんとな~く仲介したりすることもできるから。
―――保育園でいろんな保護者とかかわってこられたあこさんたちだから、そのあたりのさじ加減も信頼できますね!
そういえば、ヒアリングでは「仕事から帰るまで子どもを一人にさせないですむ」「宿題を見てくれるような人がいると有難い」という期待の声もありましたよ。子どもも大人も、ゆる~くつながっていけたらいいなぁ。
◆ 応援があるからチャレンジできる
―――このプロジェクトは、いつごろから構想していたんですか?
1年ちょっと前からかな。クラファンももう少し早くスタートしたかったけど、思ったより時間がかかっちゃった。ここまでくるにはいろんなハードルもあって、正直、あきらめるしかないかなと思ったことも‥‥。
―――「マミースマイル保育園」をずっとやってこられていて、すでに十分、ママと子どもを応援しているわけじゃないですか。さらに新しいチャレンジをするってすごいと思います。
一人じゃ無理だったよ。あきらめそうになったとき、うれしい再会があったの。久しぶりにランチしながら「私、こんなことやりたいんだよね」って話をしたら、「めっちゃいいじゃないですか! やめるなんて絶対もったいない! 私も一緒にやりたい!」って言ってもらえたり。
―――そうやって、プロジェクトメンバーが集まってきたんですね。
はい。メンバーには本当に感謝しています!
それに、アンケート調査やヒアリングでも、たくさんの人が共感してくれたの。
「自分の子育て中にこんなサービスがほしかった」
「保育園にお迎えに行き、先生とちょっとお話する時間が癒しだった。「このままごはんが食べられたらいいのに‥‥」と思ってた」
とかね。そんな声に勇気づけられて、スタート地点に立てたんだと思う。
―――ママパパを応援しているあこさんも、まわりの人に応援されているんですね。
ほんとにそう! クラウドファンディングを通じて、みなさんにも支援の輪に加わってもらいたいです。
いろんなクラファンがある中、「For Good」で公開させていただいたのは、社会問題に興味がある若い人たちが注目しているサイトだから。
子育て家庭が毎晩大変な夜を過ごしている、この問題を、当事者以外にも広く知ってもらうことが一歩目だと思うの。
―――クラファンに支援が集まることで、たくさんの人がこの問題に関心を持ち、解決しようとしていることが可視化されますね。
おひとりおひとりの支援が、また次の支援を呼んでくれると思います。どうぞよろしくお願いいたします!
◆編集後記
こんなふうに時々、新しいチャレンジでみんなをびっくりさせる雁瀬さん。今回も最初は驚きましたが、お話をうかがうと、ずっとママと子どもたちに寄り添ってきた雁瀬さんらしいプロジェクトだなと思います。
そのあたたかいエネルギーとチャレンジ力に、私自身いつも励まされていますが、「本当は不安もあるよ」という言葉も印象的でした。
どんなチャレンジにもハードルはつきもの。クラウドファンディングはチャレンジする人を応援するための仕組みです。みんなの応援を集めて、ハードルを越える力にしたいですね!
(イノウエ エミ)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?