歩き続けた時間が、これからの未来を変えた。
2021/5/11 読書記録no.32「夜のピクニック」
多分ずっと前に私の頭の中には、この本がいて、
でも、ずっとタイトルが思い出せなくて、
本屋さんや、古本屋さんで、探すも、タイトルが分からないから、
調べようがなくて、でも、なんとなく「こんな本」っていうのはあって。
この前、本屋さんでこの本と目があった気がして、
手にとって、レジに並んで、大切にカバンに入れて、
家に帰って、すぐ開いて、「あ、これだ」って確信しました。
私がずっと探していたのは、この本でした。
今日は、この本についてまとめていきます。
作品について。
繫ぎ留めておきたい、この時間を。
小さな賭けを胸に秘め、貴子は高校生活最後のイベント歩行祭にのぞむ。
誰にも言えない秘密を清算するために――。永遠普遍の青春小説。
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。
それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、
北高の伝統行事だった。
甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。
三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。
学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。
本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。
印象的な言葉。
P22 当たり前のようにやっていたことが、
ある日を境に当たり前じゃなくなる。
二度としない行為や、二度と足を踏み入れない場所が
いつの間にか自分の後ろに積み重なっていくのだ。
P24 道はどこまでも続いていて、いつも切れ目なく、
どこかの場所に出る。地図には空白も終わりもあるけれど、
現実の世界はどれも隙間なく繋がっている。
P35 睡眠というのは、猫のようなものだ。
試験前など呼ばないときにやってきて、目が覚めたときに呆然とする。
待っているといつまでも来てくれなくて、イライラと心を焦がす。
P127 昼の世界は終わったけれども、夜はまだ始まったばかり。
物事の始まりは、いつでも期待に満ちている。
P189 お前が早いところ、立派な大人になって、
1日も早くお袋さんに楽させたい。
独り立ちしたいってのは、よーく分かるよ。
あえて雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは、痛いほど分かるけどさ。
もちろん、お前のそういうところ、俺は尊敬してる。
だけどさ、雑音だって、お前を作ってるんだよ。雑音ってうるさいけど、
やっぱ聞いておかなきゃなんない時ってあるんだよ。
お前にはノイズにしか聞こえないだろうけど、
このノイズが聞こえるのって今だけだから、
後からテープを巻き戻して聞こうと思ったときには、もう聞こえない。
お前、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって、
後悔する日が来ると思う。
P213 うーんと先、ずっと先。
それが、この道の向こうに続いているという実感は未だにない。
うーんと先、それはどこらへんにあるのだろうか。
P216 始まってみればあっという間で、心に残るのは記憶の上澄みだけ。
終わってしまってからようやく、
様々な場面の断片が少しずつ記憶の定位置に収まっていく。
P272 好きという感情には、答えがない。
何が解決策なのか、誰も教えてくれないし、
自分でもなかなか見つけられない。
自分の中で後生大事に抱えて、ウロウロするしかない。
時間の感覚というのは、本当に不思議だ。
あとで振り返ると一瞬なのに、その時はこんなにも長い。
なぜ振り返った時は、一瞬なのだろう。
あの歳月が、本当に同じ一分一秒毎に、全て連続していたなんて、
どうして信じられるのだろうか、と。
P276 物事にはいつか終わりが来る。
休まず、歩き続ければ、ついに明るい場所に出ることができる。
P334 今は今なんだと。今も未来のためだけに使うべきじゃない、と。
P414 並んで一緒に歩く。ただ、それだけのことなのに、不思議だね。
たったそれだけのことが、
こんなに難しくて、こんなに凄いことだったなんて。
P425 繋ぎ留めておきたい。この時間を。このままずっと。
P427 愛していた、という言葉など馴染みがなく、
この先、使うことも早々あるとは思えない。
しかし、他に当てはまる言葉が見つからなかった。
誰かを個人として、恋愛対象として愛していたのではなく、
彼女たちの存在そのものに、彼女たちが自分に感じさせてくれる空気に、
強く惹かれ、焦がれていたのだ。
P441 「いつか、きっと。」融は、その「いつか」を坂の上に見る。
ずっと先にある、必ず来るその日を、上りきった坂の上に確かに見る。
P442 何もかもみんな過去のこと。何かが終わる。みんな終わる。
頭の中で、ぐるぐるいろんな場面がいっぱい回っているが、
混乱して言葉にならない。
だけど、何かの終わりは、いつだって何かの始まりなのだ。
読み終わって。
これからもずっと、大切にしたい、そんな本に出会いました。
出会ったというより、やっと会えました。この本に会いたかった。
きっと、歩行祭って現実の世界ではあり得そうであり得ない、
そんなイベントだと思いますが、
私たちが普段日常で感じていることが、しっかり言語化されています。
だからこそ、共感できる箇所が多いのかと思います。
学生時代の甘酸っぱい恋愛物語より、
好きとか、嫌いとか、愛情とか、恨みとか、
なんか、もっと大きく、もっと広い、そんなものを感じました。
一日歩き続けて、
日差しが照りつけるお昼時も、水平線に太陽が沈む瞬間も、
その太陽が沈んで、月明かりを頼りにひっそりと夜道を歩いた時も、
足に豆ができて、膝が痛くなって、
いつ自分が歩けなくなるか、走れなくなるか、
その不安と戦いながら、ひたすら足を動かし続ける、そんな時間。
その時間があったから、
なんの変哲も無い、そんな時間だけど、
この時間があったから、未来が変わった。
これまで描いていた未来とは間違いなく、ガラリと変わった。
ただただ歩き続けているだけなのに、
目の色が変わっていく様子が見えたんです。
その人の目に強い力が宿るのが、見えた気がしたんです。
登場人物の性格やストーリーが細かく描かれていて、
読んでいて、私も一緒に並んで歩いている気持ちになりました。
懐かしくもあり、切なくもあり、嬉しくもなり、
最初から最後までワクワクしながら読ませてもらいました。
もう、完全に、恩田陸さんのファンになりました。
次は、「蜂蜜と遠雷」が読みたい。
おりょう☺︎
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