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I left my heart in USA.

「何かすごいことが起きそうだ」というのはロードトリップを目前にした人に特有の誇大妄想でしかなくて、実際は旅の最中、ほとんど何も起こらない。せっかく特別な旅をしているのだからと、そこにある朽ち果てた看板や廃屋、どんよりした雲、あるいは見慣れたワイパーの動きにさえ無理にでもなにか意味を見出そうとしてみるけれど、たいていの場合、とりたてて意味はない。

走って、降りて、写真をとって、ごはんを食べて、また乗り込んで、走る。適当なモーテルを見つけて、眠って、起きて、乗り込んで、また走る。パンダマークの中華チェーンを見つけたら、あたりまえに美味しいごはんが食べられるってなんて素晴らしいんだろうと地味に感動する。

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仲間とひとしきり下世話な噂話で騒いだ後に訪れる。車内の不思議な静寂。ゴーッというタイヤ音が響きわたる中で、他のみんなはいったい何を考えてるのかなとふと思うけど、きっとみんなも同じようなことを考えてるに違いない。そんな風にして、ロードトリップの旅路は淡々と過ぎていく。

ばかばかしいほど広大な土地を、僕たちを乗せたミニバンは快適な速度で走り抜けていく。旅のほとんどの時間を過ごすのがクルマの中だということは、意外と誰も伝えないロードトリップの真実だ。

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やがて目的地について帰国した頃には、移動中の腰の痛みも、飽き飽きするほど変わらない風景も、ライトヘビー級の朝食の繰り返しも、きれいさっぱり忘れている。

いつもの街をいつのものように歩く。ただし、少しだけ大人になった気分で。救いがたいほどの切なさがこみ上げてくるのは、そんな時だったりする。その甘酸っぱい喪失感こそが、僕たちを強く惹きつけるんだ。

I left my heart in USA.

ロードトリップの魅力を表現する適当な言葉は、やっぱり見つからない。けど、今も誰かがあの街を旅しているかもしれない、そう思うと、なぜか胸のドキドキがとまらなくなる。
で、結局、ますますアメリカを好きになってしまうのだから、困ったものだと思う。(anna magazineより)

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