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最近聴いているアルバム2024.03

今月も学生時代に聴いていた懐かしいアルバムを再訪。もう完全に懐古オジサンになってしまった。温泉に入りたい。


The Pale Fountains 『...From Across The Kitchen Table』(1985)

”Jean’s Not Happening”

元から持っていた独特なポップセンスと歌唱力を、より明るく軽快な方向に推し進めた2ndアルバム。「中途半端に成長した結果かつての良さまで消える」というのはインディロックによくあるパターンだけど、これは違う。翳のある文学青年が翳を保ったまま、世間のしがらみと離れたまま、独自のルートでポップシーンに殴り込んでしまったような、そんな痛快さがある。”Jean’s Not Happening”のストリングスが持つのは上品さや華麗さではなく、あくまでいなたい純潔さ。インディロックの頂点の一つ。



Teenage Fanclub & Jad Fair 『Words Of Wisdom And Hope』(2002)

"You Rock"

あまりにも隠れすぎている名作。思いつきで作り始めて2日で完成したらしい。 Velvet UndergroundとかSonic Youth的なのをやりたかったんだろうなと思うけど、結果として優しさや穏やかさが全面に出ているのが何とも彼ららしい。マニラ出張帰りのクタクタの機中でバンコクの夜景を見下ろしながら聴く本作は最高だ。日常の忙しなさとは別の時間軸、価値観、世界があるんだよというのを教えてくれるのが芸術の本領だと思っている。世界は一つなんかじゃない。一つであってたまるか。



Belle And Sebastian 『Dear Catastrophe Waitress』(2003)

“Wrapped Up In Books”

強い思い入れを生じさせるタイプのアルバムをリリースしてきたバンドだから、このアルバムでのポップな変化についていけないファンが多くいたのも理解できる。しかし冷静に聴けば曲の出来ではダントツで最高傑作だと今なら迷いなく言える。ベストアルバムかという勢いで次から次に名曲が出てくる。ホーンを入れたと言っても曲の良さを引き立てる程度で心地よく感じるし、繊細で純粋無垢な精神はむしろ驚くほど変わらず維持されている。



Black Rebel Motorcycle Club 『Howl』(2005)

“Howl”

このバンドは重厚な入魂の力作を作り続けているけど、私は肩の力の抜けたこの3rdが一番好き。カントリーとブルースを演ったアコースティックなアルバムで、しっかりとしたソングライティング能力とヴィンテージな質感を十二分に楽しめる。2曲目の切なさとかも最高。The Jesus And Mary ChainStoned & Dethroned』と同じように、アメリカの永遠に続く荒野をドライブしているような、たまらない感覚。



Steven Wilson 『Insurgents』(2009)

“Significant Other”

この人はポストプログレ云々以前に、まず裏ブリティッシュロック50年の歴史が体に染み付いている人なんだなというのを強く感じる。雰囲気が非常に陰鬱。行ったこともない深夜の神社の映像が脳裏に浮かぶのが気持ち悪い。だがこの雰囲気に呑まれる体験は得難く、気付いたら戻ってきてしまう。そうして聴いているうちに、逆にmajor7thを基調とする爽やかで美しいメロディが耳から離れなくなってきていることに気付く。そこまで行けば彼岸はもう少しだ。あの神社の映像が死ぬ前の走馬灯に出てこないことだけ祈っている。



Biffy Clyro 『Opposites』(2013)

“Black Chandelier”

絶頂期の6thで、2枚組の中に巨大な名曲がこれでもかと散りばめられている。私は独自に12曲バージョンを作って聴いているが、聴くたびに「これ『Morning Glory』とか『Everything Must Go』とか『Mylo Xyloto』とか超えてUKスタジアムロックの最高傑作だよな…」と本気で思う。10年間思っている。

なお20曲入りの本作には16曲入りのBサイド集『Similarities』が別で存在しており、そちらにも”A Tragic World Record”や”Break A Butterfly On A Wheel”などの名曲が当たり前のように収録されている。頭おかしいよ…



Yuck 『Stranger Things』(2016)

“As I Walk Away”

多くのインディロックバンドがそうであったように、Yuckというバンドの歴史もまた「青春の終わりと成長」を体現するものであった。歴史的名盤1stが大学2年夏のサークル人間模様的な作品だとしたら、2ndは就職を控え憂鬱な大学4年生の冬、そして本3rdは会社に束縛される人生に絶望する社会人1年目の秋、と言い表してみる。三作の中で音は一番シューゲイザー的なのに、一番現実的な重さを感じる。

本作を以て解散したというのは、物語中の彼は会社を辞め別の生き方を見つけることにしたということだろう。人生は何かを捨てた後、もしくは何かを成し遂げた後に初めて始まるのかもしれない。がんばれMax Bloom。



Full Of Hell And Nothing 『When No Birds Sang』(2023)

“Forever Well”

極めて著しくabsolutelyな傑作。ハードコアの良さとは、安全地帯が壊れて危険水域に入ってるんじゃないのか、もう後戻りできないのではないかと心配になるような瞬間、そこに身を置くことでしか得られない強烈な生の実感を得られること。シューゲイザーの良さとは、空間を歪ませに歪ませることで接続できるセピア色の世界の悲壮な哀感に浸ることで現実世界を相対化し得ること。

このアルバムはその両方の良さを同時に体験できるありそうでなかった究極のアウトサイド作品。現実とは全く異なる世界を完全にブチ立ててしまっている。その世界には完璧な青空が広がっているが、鳥は一羽たりとも鳴いていない。オルタナティヴってこういうことだと思う。世界はやっぱり一つなんかじゃないんだよ。





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