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時間旅行者レポートVol.22 note de 小説


ここは
Dimentionz社の医務室。

ボクはここで帰還後の
精密検査を受けている。

脈拍は安定。
航空機でいうところの
ジェットラグもなし。

体調は?と聞かれたが
ボクはすこぶる元気だ。

質のいい睡眠を
長時間したような
気だるさはあるが
思考は冴えていた。

度重なる検査を
受けているさなか


08が医務室へやってきた。


ーーーーーーーーーーー


「やぁ。
おかえりなさい。

経過も良好と聞いて
安心しています。

いかがでしたか?

あなた以外、1900年の
実際のパリを知らない。

また落ち着いたら
ゆっくり旅行の思い出を
聞かせてくださいね」

「ええ。喜んで。
いまおもえば驚きの
連続でしたね。

ピカソが。

ピカソがいい青年でした。

歴史に名を遺す人って
ああいう輝きを放って
いるんですね。

もっと。
もっといろいろありました。

お伝えしたいこと・・・
いろいろ・・

あるんです・・・」



ボクは再び
深い眠りについてしまった。


旅の疲れなのか。
時空を超えた後遺症なのかは
分からないが

眠気が滝のようにとめどなく
襲ってきた。

その流れに従った。


ーーーーー


どのくらい眠り続けたのだろう。

再び目を覚ましたボクは
やはり22世紀のボクだった。


そして大学に戻る決意をした。


多数の護衛が付くことは
覚悟していた。

日常生活に戻りたかったのだ。



たった一日のパリ旅行だったようだが
22世紀では1週間後の世界だった。

ボクは一度アパルトマンに戻ると
カビ臭さが懐かしい
いつもの部屋が迎えてくれた。

「わぁ、世界のオリバーが
こんな部屋に!?

世間が知ったら仰天しますね!
ドイツ政府は責められますね!」

と08が嫌味をいう。
彼は常時ボクに付き添うのだ。


そうだ、ボクはもう
全てを持っている。


住む場所を選ぶことや
行きたい場所さえも。

その代わりかつての
気楽さは失った。


「ところで
Dr.オリバー。

ドレスデンに。
ご実家に連絡しませんか?

おそらく心配されている
はずです。

戻ったことを伝えてあげたら
どうです?

そしてあなた自身も
驚くはずですよ。」

何かを含んだような言い方の
08にうながされるままに

時計式ウエァラブルで
母に電話をした。

RRRRRRRR・・・
・・RRRRRRRRRRR
とコールされる。

RR!
「坊やかね!」

母親が電話に出た。
とても興奮しているようだ。

「はい、お母さん。
ただいま。

無事に戻りました。

心配かけてすいません。

あの・・・
そちらはいかがですか?」

「うちらねぇ、二人でねぇ
ドレスデンから越したんだよぉ

Dimentionz社から
何とかって人がきてね・・・

お前が旅立った後さね。


あれ。
おとーーさん?
おとーさん!

あれ、どこいったんかね?
また海岸行ったんかね?

あぁ、この海岸かね?
なんていったっけなぁ。

アマ・・・
アマル・・  」

「アマルフィだぁ!
イタリアだぁ、母さん。

よぉ、息子ぉ。
ワシだ、父ちゃんだよぉ。

お前、還ってきたのか!
そっかーー、お帰りって!

実はなぁ
ワシら工場やめたんさ。

んでな、ドレスデンも
越してよぉ、アマルフィって
とこに住まわせてもらってるんだぁ。


ここはいいぞぉ!
海ってデカいんだなぁ。
キレイなんだなぁ。

メシもウメェしよぉ。
芸能人だっていっぱい見れるんだぞぉ!


父ちゃん、いままで一度も
ドレスデンから出たことねぇから
一度行ってみたかったんだよぉ。

んでな、こないだ来てくれた
ディメ・・何とかってとこから
ココ勧められてなぁ。

ありがてぇよ。


いい余生、母ちゃんと
過ごせそうだー

お前にも礼を
いわなきゃなぁ

よぉ!
こっちのことは
こんな感じだから
心配すんな。

じゃぁなー」


電話越しの二人は
どうやら変わって
しまったようだ。

その変わり方たるや
極端だが幸せそうだ。


かつて工場労働で汗と油に
まみれてきた手や体が

美しいティレニア海に
清められていくだろう。


あの時
大学病院に進学したいと
伝えた時に、苦渋の決断で
背中を押してくれた両親の姿は
すでになかった。

だがそれでいい。
やさしく美しい海風が
彼らに吹きますように、と
願った。


ーーーーーーーーーーー


「泣いているのですか
Dr.オリバー?」

08がたずねる。

両親が幸せそうだったから
安心したのと今までの彼らの
苦労を思うと泣けてきた
とボクは伝えた。


「さて、大学に戻ります。

08も一緒でしょ?
あまり目立たないようにして
くださいね。

この間も構内で揉みくちゃに
されました」

「Nein Nein!
ボクがいてもいなくても
騒然となるでしょう。

私にはわかります。
おそらく講義すら
ままならないと
思いますよ」


その予想は
見事すぎるほどに
的中した。

大学の構内に入る前から
押すな押すなの人だかりが
出来ていた。

あまりの大歓声に
08の声すら聞き取れない。

苦笑しながら
08がボクに言う。

「ね!
私の言ったとおりでしょう!

まるでバイエルンミュンヘンの
優勝パレードのようですねー!!

いや、それ以上かな!!


どうですか!!

あなたの今の価値がコレだ!!
あなたの価値なんですよぉ!!

でもご安心あれ!
あなたをSPが見守っていますからぁ!」


あまりの人ゴミと
大歓声で校内放送すら
かき消されるほどであった。


ーーーーーーーーー

続きます。








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