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時間旅行者レポートVol.23 note de 小説


校内放送が聞き取れない。
そのくらいの大熱狂。

まさにバイエルンの
優勝パレード。

その中をボクは
校舎に向かって
歩いていた。

紙吹雪が舞い
歓声が割れんばかりだ。

そして途中から
身動きできなくなった。

押すな押すなの
人だかりで
歩みをさえぎられていた。

交通整理を図る
大学関係者と
学生に扮した護衛で
やっとボクは自分の
場所を確保できていた。


そこへ
大学職員が
詰め寄ってきた。

「Herr.オリバー!

学長室においでください!!
これでは大学が機能しません。

緊急事態です。

学長から話を伺ってください」

とのことだった。


ーーーーーーーー

やっとのことで
人だかりを抜けることが
できた。

門をくぐって30分以上も
渦の中心にいたのだ。

疲労も甚だしく
ボクは学長室の門を
再びノックした。


「お入りなさい」

女性の声だ。
ボクはドアを開けた。

以前に入室した時とは
内装からすべてが
変わっている。

和のテイストが
全く消え
濃厚なピンク色で
装飾されていた。


「あなたね。

ミヒャエル・オリバー。

神経外科の。

わが校の誇り、ね」

見た目はキャリアウーマン。

室内がなにやら
毒々しい甘ったるい
香りが立ち込める。


「おかけなさい。
アップルティーはいかが?」

とボクに飲み物を提供して
くれた。
これで2度目だった。


「あの、すいません。

大学内がめちゃくちゃに
なってしまいまして・・

考えが甘かったと
反省しています」

「そんなことはないわ。

いまやあなたは
世界中の注目の的よ。

あなたが在籍する
わが校の株も上がるって
もんだわ。

でもね。
あなたの言うとおり
タイミングが悪いの。

ここは大学病院だし・・
入院患者からの
苦情もホラ、こんなに」

ひっきりなしに鳴る
学長室の電話。

だがそのほとんどは
患者からの苦情の電話ではなく
報道陣からの取材依頼だとか。


「あなたには
休学を命じます。

しばらく研究や講義からは
離れていただきます。

その代わり
卒業に必要な必須単位は
保証します。

そして学費その他はわが校で
負担させていただくわ。

どう?
理解できて?」

「いや、しかし」
ボクは抗議した。

珍しく権威に
たてついた。

「ボクの本分は
研究です。

そのための
時間旅行だったわけですし・・

ですので
本末転倒というか・・

承服できません。

おねがいです。
授業を!
せめて研究だけは・・」

「答えはNein よ。

たしかにあなたは
わが校をPRするのに
絶好の人材。

客寄せパンダとでも
いうのかしら。
俗っぽくいうと。

でもね、わかってちょうだい。

あなたには今
それだけではない
リスクもあるわ。

わかるでしょ?
わたしも前任のようには
なりたくないの。

わかってちょうだい

しばらく
登校を禁じます。

以上よ。
飲んだらすぐ退出なさい」


言い分は十分理解できる。
前の学長の事をいっているんだろう。

「粛清」

まるで旧ソ連邦を形容した
ようなこの言葉が
重くのし掛かった。


「ちきしょう。

ボクはどうすれば・・」

よろめきながら部屋を
後にするボクを見つめる
学長の視線が冷たかった。


ーーーーーーーーーー


裏口から構内をでた。

みんなに知られないように。

その後ろを護衛と
08が常時付いてくる。


ボクはお決まりの
Ray-Banをかけて
ミュンヘンの街に出た。


「ねぇ、08。

1900年のパリには
車がありませんでした。

ここミュンヘンも
すでに排気ガスを流す
車両はないはずなのに
息苦しい。

なぜでしょうね?」

08にこぼすボクがいた。
最初は警戒していたこの
08という人物にいつのまにか
相談するようにまでなっていた。


「Dr.オリバー。

ひとつ提案なんですが。


諸国を回りませんか?

そしてあなたとあなたの行った
偉業を世界にあなたの口から
伝えてみてはいかがですか?

旅費はDIMENTIONZ社が
負担しますし。

あなたはわが社の代表として
各国を回っていただく。

だが各国を回るにも
危険が伴う。

そこでいかがでしょう?

いま、世界で一番安全を
ウリにしている国があります。

極東ヤーパンです。
ここで

G7

が行われているんですね。
ちょうど100年前に
行われたという

Ise-Shima Gipfel(サミット)

です。

そこにいくだけで
世界に発信できます。

どうです?
いきませんか?

もう、ここミュンヘンは
あなたには狭すぎる。

われわれも手に負えない
事態にもなりかねません」


ひとつ
ボクも変わったことがある。

「積極性が増した」こと。

そうだ。
世界でたった一人しか
行ったことがない経験が
ボクを強くした。

権威にも意見し
無謀にも挑戦しようという
肚ができた。

「そうだね、08。

行こうか。
いってみたい。

よろしく頼む」

と即答するボクも
いままで知らない。


「かしこまりました。

世界も仰天するでしょう」


08はほくそえんだ。


ーーーーーーーーーーーーー

つづきます。

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