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7年間一度も登校していないルカ。その1

担任になりました。

「君のクラスに7年間姿を見ていない女子が居る。」

初任校での初日の学年会議で言われたこと。

いきなり、中2のルカの担任になりました。

私自身不登校の経験があったのですが、その経験を基に不登校の生徒の力になれるのだろうかと、正直不安でした。


電話と不安。

始業式が始まる前に、一度顔を合わせておこうと母親に連絡しました。

「新しい担任の先生?家に来てくれてもいいけど、出てこないと思うよ。」

と、さらっと言われただけに、これまでに誰も姿を見なかったという事実に現実味が帯びました。


ルカと新任教師とココア。

すぐに家庭訪問をしたのですが、会えずでした。

その代わり、用意していた手紙をポストにいれて帰りました。

次の日、母親から電話がありました。

「先生、娘が話したいって言ってるんやけどもう一回来てくれない?」

正直驚きました。何があったんだろうと不思議に思いつつお家に向かいました。

チャイムを鳴らすと、母親とルカが出てきました。

ルカは母親の腕をつかみながら立っていました。

私は軽く挨拶をし、それだけで帰ろうとしました。

教師が家に来るというだけで、不登校の時は疲れるのです。

それを私は知っていたから初めから決めていました。

すると、「先生あがって話したって、ルカがココアいれてるんよ。」

と、母親が言いました。

ルカは、自分の靴を見つめたままでした。


ドラクエ10と足のしびれ。

ルカがいれてくれたココアを飲みつつ、自己紹介。

時々こちらを見るルカ。

ここで学校の話をしたら気が重くなると思い、焦る私。

何も言わない母親。

もう間が持たないと思い、滞在時間3分ほどで帰ろうとした瞬間です。

「先生のメインはなんですか?」

かなりの時間フリーズしました。何のことだろう。

そして、はっと気づきました。

「武闘家です。」と答えました。

ドラクエ10の話でした。

前回書いた手紙に、自己紹介を書き、そこにドラクエ10が好きですと書いたのです。

それからルカとドラクエ10の話で小一時間ほど盛り上がりました。そして、学校に戻ることにしました。

初めての家庭訪問に緊張した私は、ずっと正座をしたままだったので、立ち上がる時にこけてしまいました。

その話を、ルカと会った時に今でも言われます。


好きなものと字体。

ルカとは卒業後何年かして再開しました。

就職先の社長が、たまたまぼくの知り合いだったからです。

そして、その時聞きました。「どうして中学当時に会おうと思ったの?」と。

シンプルでした。好きなゲームが同じで、字体が好きだったからだそうです。それから、学校においでとか、会えるなら会って話をという内容が手紙になかったことです。

え、それだけ?となるかも知れませんが、私も似た経験があるのです。

不登校の時に一人だけ直接会える先生が居ました。その先生は映画の『グーニーズ』が好きで、いつも封筒に入れてくれている手紙の便せんがC3POでした。それが私のきっかけでした。

何かしら共通点があると、同類だという安心感が生まれるのです。それと同じものをルカも感じたのです。


週1の公園。

中2の時のルカとはあれ以来、週に1度、学校とルカの家の間にある公園で、手紙や課題を渡すことになりました。ルカのお気に入りの場所だったからです。

それから、ルカと公園で話を重ねるうちに、私が不登校だったことを打ち明けました。

すると、ルカは予想外のことを言いました。

「そうかなと思ってました。」

え、どうして?

ここからルカと新任教師の卒業までの歩みが始まるのでした。


興味はゲームとは限らない

不登校の対応で、子どもたちが心を開いてくれるきっかけは何になるかわかりません。

だからこそ、自分を深く広く知ってもらうということは大事です。

学校に無理やり連れていこうとするんじゃないか、勉強の話をされるんじゃないか、将来のことを正論で言われるんじゃないかと初対面ではバリアを張っている事が多いので、共通点があるとそのバリアが薄れたりします。

子どもが何に興味があるかということも知っていかなければなりません。

不登校の子どもたちは特に、関係づくりに失敗するとそれ以上どうにもできなくなることがあるので要注意です。

毎年担任が変わる可能性が子どもたちにはあるので、それだけでも毎回ストレスになるのです。


次回は、ルカの卒業までの変化についてお伝えしたいと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました!

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