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海外若手建築家勉強会レポート4

筆者:寺田慎平

第4回をむかえた「海外若手建築家勉強会(仮)」。今回は石村さんの発表をレポートします。

-レポート1 「イメージの建築」-

- レポート2 「貧しい建築」-

-レポート3 「ロッシらしさを感じる建築」-

石村さんはishimura + neichiとして設計活動を行なっています。北千住の元町倉庫に事務所を構えていて、そこで設計活動をどうまちへ開いていくかを模索している様子を、SNSなどを通じて知っている方も多いかなと思います。

今回石村さんから提示いただいたテーマは「貧しい都市」。第2回の勉強会から連綿と続いている「貧しさ」という現代的テーマに共振しつつ、都市というフィールドで活動している若手建築家を紹介してもらいました。

以下、5組の建築事務所を紹介します。

AKOAKI(Detroit, US)

世界屈指の犯罪多発都市デトロイト。自動車産業の衰退と共に人々は街を去り、多くの廃墟が残され、アメリカ建築家の間では民主主義の成れの果てと言われている廃墟都市。ノースエンドで活動している建築家アコアキはプレイヤーとして街と積極的に関わりながら自身のプロジェクトを進めている印象を受けます。
例えば、アコアキのデトロイトでの初プロジェクト《イメージング・デトロイト(2012)は、デトロイトのドキュメンタリー映像を徹底的に集め映画をつくり、36時間以上ノンストップで公園で上演するというもの。何故映画祭?と思うかもしれませんが、プロジェクト開始当時、デトロイトでは約4割の人々が電気無しで生活していました。それは当初、SNSを使って都市のイメージをつかみ、アクションを起こそうと思っていた彼らにとって、ショッキングな出来事でした。
既存のシステムを上手く使うことができないと知った彼らは、映画祭を行い、製作者・出演者を公園に集め「デトロイトのイメージの価値は何か?」を論じる公開フォーラムを開催し、皆で議論しました。彼らは、映画祭のイベントをきっかけに街との交流を深めていきます。その後、複数プロジェクトをデトロイトで行い、最近は都市農園を文化拠点に変える大規模開発を計画しています。
彼らのプロジェクトで一環していることは、いち市民として街に関わり合いながら新たな都市のイメージを皆と共に模索していること。また、自身がDIY風の仕上げが大嫌いとのことで、自分たちが自らの手でつくっているのにも関わらず、どのプロジェクトの作品も凝ったデザインとなっています。
(石村)

New Office Works(HongKong, CH)

かつて英国の植民地だった香港。1997年に英国から中国への返還以降、欧米で学んでいた多くの香港人が地元に戻り、自国のカルチャーに他国のカルチャーが入り混じり、香港独自の新しいテイストになったと言われています。都市空間も同様で、多くの文化が入り混じった空間となっていきました。このように複雑な社会的要因から影響を受け、変化した香港の都市のナラティブを見つけるためには、様々な視点から物事を捉えなければなりません。
香港生まれの建築家ユニットニュー・オフィス・ワークスは12本のビデオエッセイ中間人香港(2017)をyoutubeに公開。古今東西の建築・美術・思想・社会情勢などを基に都市について考察し、東洋と西洋、生産と消費の真ん中に位置する香港の姿を映し出していきます。
(石村)

ASSEMBLE(London, UK)

ロンドンを拠点に活動するアセンブル。彼らはリーマンショックが起因とする経済不況化に発足した、建築・アート・デザインの領域で活動する建築コレクティブです。2015年にはターナー賞も受賞したことで美術業界の評価も高く、日本でも資生堂ギャラリー100周年記念展で展示するなど世界で注目されています。
彼らの初めてのプロジェクトである《シネロリウム》(2010)は使われなくなったガソリンスタンドを自分たちの手で映画館に改造し、4週間に渡って映画を上映するという自主発生的なものでした。クライアントは自分達なのでお金もメンバーたちで出し合い限られた予算の中で進んでいきます。建築をつくる過程・映画館上映の運営など、市民を巻き込み最終的には100人以上のボランティアが集まりました。アセンブルのプロジェクトで特徴的な点は、プロジェクトを行う都市で、彼ら自身がいかに埋め込まれた存在になることができるのかを考え行動に移しているところです。
その後のリバプール・グラスゴーのプロジェクトでは、メンバーがそれぞれの都市に移住し地元コミュニティに入り込み、信頼関係を築きながら場所について深く知っていく、というプロセスを踏んでいます。「時々やってきて意見を言って帰っていく部外者としての専門家では、都市の問題点を発見できない」と彼らは言いますが、このスタンスは全てのプロジェクトで一環しています。今現在もスターアーキテクトが様々な都市で建築をつくっていますが、アセンブルの建築の進め方はスターアーキテクトとは全く異なった進めかたのようにみえます。
(石村)

Feilden Fowles(London, UK)

アセンブルと同じくロンドンを拠点に活動する建築家ユニットフィールデン・ファウルズ(ちなみに彼らはアセンブルと同時期にケンブリッジ大学で建築を学んでいます!)。彼らの事務所はとてもユニークな方法で建設されました。再開発の計画はあるのの長年空き地だった場所に、開発が始まるまで期間で土地を有効活用できないかと、マスタープランの依頼がやってきました。計画していく中で、少しスペースに余裕があるので自分たちの事務所を建てることができないか交渉した結果、設計料を取らないかわりに地代免除で建設できることになりました。数年で開発が始まる可能性があるので、建物を解体し移築することを前提に計画を立てています。空調はエアコンもなくパッシブ換気のみと、かなり徹底されています。
通常このようなプロジェクトでは、仮設”らしい”デザインになってしまうことが多いのですが、彼らの事務所は仮設らしさはあまり感じられず、建築としてデザインがきちんと昇華されています。この場所がきっかけとなり新たな仕事が依頼されるなど、東京よりも新築の難易度が高いロンドンで、建築の設計料をお金ではないもの(この場合は場所)に還元することで、次の仕事につなげていく物々交換のような姿は新鮮であり、勇気づけられます。
(石村)

The Living(NY, US)


ニューヨークで活動するザ・リビング。彼らは気候変動を常に意識し未来の建築を創造することを目標として建築を行っています。多くのプロジェクトは最先端の技術を使い、専門家・企業・大学と共同で実施されています。彼らは、気候変動への意識の高さから、都市の状態を可視化させるプロジェクトを多く行っています。
《リバー・グロウ》では、水質を測定するだけでなく、水のきれいさに応じて照明の色が変わるセンサーをつくり気候変動にまつわる情報を可視化し市民に関心をもたせ環境保護活動への参加を呼びかけます。
《リビングライトパビリオン》では大気汚染センサーを照明と連動させ大気の状態を可視化し、建築に応用可能な未来の技術を提案します。
今回紹介した建築家の多くは蟻の目視点から建築・都市を考えている人が多いですが、ザ・リビングは鷹の目視点で建築を考え未来の建築を模索しています。
(石村)

アセンブルがターナー賞を受賞していることからわかるように、若手建築家たちのこうした試みは、建築という領域をこえたひろがりをもつ活動です。そして石村さんの《元町倉庫》での活動、それから第二回の勉強会で発表してくれた大村さんのGROUPの活動のように、日本の同世代の建築家たちの活動にも、こうした海外若手建築家の活動と通底するコンテクストがあるように思います。
わたしがこうした動きに補助線を引くことができるとすれば、メニカンメンバーの谷繁が提起する<グラデュアリズム>、あるいは同じくメンバーの橋本がレポートした「社会的実践としての作品」が、それにあたるのではないかと思っています。

「竣工至上主義」が終わり、竣工前後のヒエラルキーが存在しないこと、クライアントと建築家という関係が曖昧になっていくこと、貨幣価値以外の交換としての経済活動、建築そのもの以外のデザイン、それから敷地そのものを発見するような、リサーチよりのデザイン…こうした「職能としての建築家」、それから「建築作品という枠組み」の自問を促す「終わりがなく、始まりもない」プロジェクトとでも言えそうな、これまでの慣習とは異なる状況を乗りこなすアイデアは、いままさにここ日本でも、模索されているところなんだろうと思います。

「海外若手建築家勉強会(仮)」の活動も続きます。引き続き、レポートを楽しみにしていただければと思います。

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