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集まってつくられるイメージ

執筆:福留愛

 今回、メニカンの新しいVI(Visual Identity)を3D・グラフィックデザイナーのKAKUさんにデザインしていただきました。KAKUさんは普段、3Dを使ったグラフィックデザインやモーショングラフィックを制作しています。

VIとは・・・
ブランドシンボルやロゴデザインなどを中心にブランドカラーやサブカラーシステム、サブグラフイック、指定書体など、ブランドを象徴するデザイン要素一式を総称してVIと呼びます。VIシステムといった場合には、これらの展開方法や使用規定などのこと細かなルールを規定することを示し、VIマニュアルやVIガイドラインと呼ばれるルールを纏め上げたブック形式のものを指します。最近では、印刷するケースは少なくPDFファイルによって管理し共有させるケースがほとんどです。(株式会社チビコBLOGより)

 改めて、メニカン(メニー・カンファレンス)は、建築・デザインに関わる研究者・実践者の共同体で、中心的な活動は、ポスト・インターネット時代の研究者・実践者を集め、議論の場を作る「カンファレンス」の開催です。実空間でのカンファレンスが困難になった2020年からは、キッチンをテーマとしてzineを刊行したり、書評や紀行文の発表や、オンラインレクチャーを定期的に開催するなど活動しています。最近はメニカンメンバーが各々のテーマで短いテキストを書いて公開するなど、活動の幅を広げています。

 これまで、カンファレンスや書評等を含め30以上のテーマについて議論が行われてきました。走り続けてきた今、改めて振り返ってみると、これらの議論や言説をどのようにアーカイブしていくかという問題に直面しました。Webを立ち上げるのか、書籍を出版するのかメニカンメンバー内で議論していると、大前提としてメニカンのVisual Identityが存在しないことに気づきました。Visual Identityをきっかけに、これまでのメニーなカンファレンスがまとまっていくような大枠がつくれたらいいなというのが今回の依頼のきっかけです。

  このような背景から、今回はロゴをデザインするだけではなく、”Key Visual(以下、KVという)”というビジュアルをシリーズ的につくることで、ロゴのイメージが固定されないような試みを行っています。
 KVは、メニカンのレクチャーや書評などの発表の際、サムネイルとして使われるようなビジュアルです。本だと表紙のような位置づけでしょうか。毎回、規模も媒体も専門も違う気ままな活動に併せたKVがその都度つくられ、ロゴと組み合わって、シリーズ化する。そして本棚に本が集まっていくように、1箇所に蓄積されていきます。今回、KAKUさんの制作の記録を初回のKVとともに発表することで、これからKVが蓄積されていく第一歩を踏み出せたらと思います。

 デザインの流れとしては、最初に、KVをつくること前提でロゴのデザインを行った後、KVのデザインを行いました。

LOGO design

 まず、ロゴ編です。7月中旬に初回打ち合わせを行い、KVとの兼ね合いを考えながら、ロゴ案を提案して頂きました。

 KVの方向性としては、KAKUさんがいま興味のあるテクスチャーをもった形や、2Dと3Dを組み合わせるようなグラフィックを紹介いただき、その方向性で進めることになりました。
 提案して頂いた案の中から、文字ベースのシンプル案が3Dグラフィックと絡めやすく、シリーズ化に向いているのではという結論に至りました。
 シンプル案は、KVとの関係性を前提として、シンプルなグラフィックでありながらもロゴ自体にテクスチャがつくことで、KVとロゴが溶けあうような関係性が期待できる案です。

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 そして、7月下旬にロゴが完成しました。日本古来から建築や絵画で用いられてきた「白銀比」をベースに作成され、1文字ずつ白銀比のガイド上でシステマティックに決まっていながらも、ガイドから少しはみ出すことを許し、ゆるさも感じます。

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1文字1文字が白銀比のガイドのなかでつくられていますが、背景となるKVもこのガイドに沿ってつくられます。

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 KVの画面構成を白銀比に合わせるとこのようなイメージになります。地面と背景があることは、KVをシリーズ化するうえでの一つのルールとなりそうです。

KV design

 次にKV編です。地面と背景というルールに加えて、『骨組み・構造』というコンセプトが与えられ、シリーズ化する内容が明確になってきました。

  こちらが『骨組み・構造』というコンセプトのもとつくられたversion0.KVのタタキです。version0のKVは必然的に印象深いものになってしまうので、今後シリーズ化していきやすいように、色味は透明でピュアなものになりました。

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最終調整し、完成したversion0のKVです。
 地面と背景のなかに、建物の集合体のようにみえるかたちが浮かび上がって、光が反射して、また消えていきます。都市のようにも見えるし、机の上に置かれたオブジェの集合体にも見えます。

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制約という出発点に立つこと


 KAKUさんの普段の制作活動のひとつに『1day1graphic』というものがあります。1日という限られた時間で1つのグラフィックをつくるという試みで、グラフィックには建築の素材も含めさまざまなマテリアルが設定され、力の流れに従って、揺れ動いたり、ぶつかったり、流れていったりします。『1day1graphic』の制作は、瞬発的に多くのグラフィックを制作していくことで自分のボキャブラリーを増やすこと、そして、人が見てどう感じるかではなく自分が作りたいものをつくることの、2つの意味があると言います。クライアントワークとは別に習作の場を持つことで、作品と自分だけの空間に没入する時間を大切にしているように思いました。

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KAKUさんinstagramより

 KAKUさんがグラフィックを学ぶきっかけになったのは、美術の仕事をしていた母の影響だと言います。幼少期から絵を描くのが好きで、高校で日本画を専攻し、高校での制作を通して真っ白なキャンバスに自分の世界を0から表現するよりも、ある制約のなかでどれだけ想像力を広げられるかということに興味が湧き、大学からグラフィックの世界に飛び込み、アメリカやドイツでの留学を経て、現在に至ります。

 『1day1graphic』では時間という制約をおき、今回のVIデザインでは白銀比という制約をおき、KVのシリーズ化のために背景・重力の制約をおいて制作している。制約という出発点に立つことで、そこからどれだけ遠くにボールを飛ばせるかという制作の態度は、夢中でつくっていると自分で決めた制約さえも超えていく勢いも秘めています。
 これからメニカンで行われていく議論と共に様々なイメージが作られ、それらイメージがたくさん集まることでつくられる全体を楽しみに、活動をつづけていけたらなと思います。


KAKUさんの作品はこちらから→(https://kaku.works/ARCHIVE)

メニカンの活動を続けるため、サークルの方でもサポートいただける方を募っています。良ければよろしくおねがいします..! → https://note.com/confmany/circle