講師

イベント企画者が、登壇者に考えておいてほしいこと

社会人講座を企画する人のために、年間200件を形にしてきた独立プロデューサーが、実践から得た知見をシェアします。

今回は、予め整理しておくと条件・内容が詰めやすくなるポイントについて、登壇者が「何を考えておくといいか」という形でお話しします。

なおこの記事は、ベテラン講師より、コンテンツ開発途上の方や、これから登壇する人を想定して書いております。

この記事が「一般ビジネスパーソンが個人で学びの場をつくり続けるための、最も解像度の高いガイド」となり、企画づくりする人の後押しになれば幸いです。

はじめに:企画者のスタンスを知っておく

依頼側のスタンスが分かると、登壇者の考えることが明確になります。

私の場合の、関連するポイントだけ触れておきます。

互いを利する、長く続く関係にする

私は常に「登壇者の成功に寄与すること」を目指しております。

それは綺麗事ではなく、シンプルに実利的な理由で、ボランティアや片側が得をする構造では、持続可能ではないしその先の展開も見込めないからです。

もちろん、力不足などの理由で、常に登壇者を十全に満足させられている訳ではないとは思います。
しかし少なくとも、常にそう意識しております。

ゆえに「登壇の目的は何か」「登壇を通じて何を実現し、最終的なゴールにどう繋げていきたいか」が整理されていると、話を具体化しやすいです。

参加者にとって価値が明確か

参加者は、企画者や講師の事情などは当然全く忖度せず、投資対効果をシビアに評価します。

刺さらなければ申し込まないし、来て不満なら黙って二度と来ないだけです。

企画者は、参加者価値を明確にするために、参加者としての醒めた目で、建設的なフィードバックをしなければならないのです。

以上、企画者のスタンスについて述べましたが、以下より「登壇者」を主語に「何を考えておくか」について記します。

1)目的とROIを具体化する

登壇の目的や得たい成果が曖昧だと、成否の判断や改善ができません。

何の成果を得るために登壇するのか、何をもって成功とするのか、それは苦労に見合うのか、などの判断基準を明確にしておくことが望ましいです。

シンプルに、目的とROI=目指す成果/投入可能リソースで整理します。

目的や成果が互いにすり合っていないと、同床異夢で、互いががぼんやりとした不満を抱える結果になる危険性もあります。

登壇で何を得るのか

コンサルティングや研修などのビジネスのリード獲得か、知名度やブランドを上げるのか、ターゲットやニーズを絞り込むのかなど、登壇によって得たいものを定義してみましょう。

長期的に達成したいゴールは何か、登壇の後どんなことが起き、最終目標の達成にどう繋がるのかまで明らかにするとなお良いです。

定量/定性、金銭/非金銭、直接/間接などの軸で整理してみましょう。

登壇以外の選択肢も洗い出し、メリット/デメリット、住み分け、補完関係も勘案し、相対的に評価すれば、冷静に判断できます。

なお、そうはいっても現実は、厳密かつ短期的に効果は測れるものではないので、こういう風に頭の中を整理しておく、というくらいです。

自分が投入できるリソースは何か

確実にかかるのは「時間」です。
登壇含むの拘束時間、資料の要否と作成時間は基本。
事前打ち合わせや集客支援などもあるかもしれません。

精神力、信用、場合によってはお金なども投入リソースです。

これも、投入可能リソース、期待リターンを見積もり、他の機会と比較しておくと、曖昧な判断になりにくくなります。

どういう役割や責任の切り分けだと嬉しいか

登壇者にも「大人の事情」があります。

例えば、XX円以下では受けない、他者の営利活動に一方的に寄与するものには登壇しない、などのポリシーに関するもの。

あるいは、個人事業なので、登壇や資料作成以外に手数がかかるもの、自分以外の人手が必要なもの、収支責任や一時的でも先払い負担があるものは厳しいといった事情。

また、大企業の社員なので社名入り記事化は避けたい、などです。

企画者などにも当然「大人の事情」があり、お互いに、できる/できない、やりたい/避けたいが明確なら、役割分担を決めやすくなります。

2)参加者目線でコンテンツ価値を再定義する

ターゲットにコンテンツが刺さるかが講座の成否を決めるので、ターゲットとコンテンツの価値が具体的に整合していなければなりません。

ところが、登壇者が自分のコンテンツの「本来の価値」に気づいていないことや、ターゲットの絞り込みが曖昧なために、価値を明確にできていないことがよくあります。

価値を抽象化して、対象を広げてみる

例えば、自身のコンテンツを「子供向け通信教育の教材制作」と言っていまえば、興味を持つのは教育業界の人に絞られるでしょう。

しかしそれを「直感的に興味を持ち引き込まれるコンテンツの作り方を教えられる」と抽象化すれば、より幅広い人にとって価値になります。

当人にとって「当たり前」過ぎるが故に、他業界・異業種にとって「すごい価値」であることに気づいていない、ということがよくあります。

自分の中にもそういうバイアスがあると思っておく方が、何かの拍子に発見があるかもしれません。

主語を置き換えて具体化してみる

「(主語)のXXという課題を(コンテンツ)が、XXというように解決する」の主語を色々変えてみれば、具体的な価値も言語化できます。

例えば、ビジネスデザインの講座でも、事業開発担当なら仕事の進め方、人材開発なら新たなメニュー探し、など微妙に変わるはずです。

アドバイスをもらう

そうは言っても、自分の見えていないことに気づくのは難しいもの。

客観的なアドバイスをもらうことが有用なのはそのためで、プロデューサーの付加価値もそこにあります。

3)ターゲットを絞り込む

ターゲットが具体化するほど、必要とされる価値も具体化し、企画も明快になります。

しかし、コンテンツは良かったのに、ターゲットの定義が甘かったため、本来参加を想定していなかった層が来てしまう「ミスマッチ」が時々あります。

曖昧を回避するヒントとして、似て非なるものと比較して輪郭を際立たせる、見たい世界と現実との混同を避けるなどがあります。

「似て非なるもの」から境界を探る

ターゲット絞り込みが曖昧なことで起きる問題は、無関係の人が来ることではなく、近しいがフォーカスから微妙に外れている人が混じることです。

例えば「レベルやフェーズ」。
入門レベルの講座に上級者が混じる、大企業向けに中小企業が混じるなどです。

あるいは「フォーカス」。
「インバウンド」も観光、小売、医療など、その下に様々な事業がひも付きます。
範囲を明確に把握せずに募集かけると、観光の講座に医療ツーリズムにある人が来るか。

他にも「デザイン」のようなコンセプトからプロダクトやUIまで幅広いものをカバーする、人によって理解が異なる言葉や、相容れない「流派」があるものなどは注意が必要です。

混同してはならないものを挙げてみて、その似て非なるポイントはどこかを考えてみると、境目が際立ってきます。

自ずと刺さる層と狙う層を区別しておく

「望ましいターゲット」と「現実に刺さる層」は異なります。

例えば、ビジネスデザイン系のものなら、事業開発の当事者には自ずと興味を持たれるでしょう。

しかし、狙いが「大手企業からの事業創造人材育成研修の獲得」とすると、ターゲットは事業責任者や人材開発の責任者クラスになります。

両者を混同すると「来てほしい人」を「来るはずの人」と勘違いすることになります。

4)仕上がりイメージを持つ

未来の話をすると夢が膨らみ拡散しがちですが、現実的な開催概要に落とし込むことも重要です。

登壇側もイメージを持っておくと、具体化が早いです。

曜日・時間と人数

まずは業務時間外(平日夜 or 土日)か、業務時間内(平日日中)かで大きく分かれます。

業務時間外なら私費参加で、集客は易しいが単価は低くなる傾向、業務時間内なら社費参加で、単価は高いが集客が難しい傾向にあります。

人数は、目的、コンテンツの形式(レクチャー or ワークショップ)による最適人数や、ターゲットの広さと集客力の兼ね合い、会場手配といった要素のバランスで最終的に収斂していきます。

まずは、100人規模、30~40名くらい、20名以下か、などのざっくりとした規模感で大丈夫です。

具体的な講座をベンチマークとして挙げる

「こんな感じのやつ」や「この講座のXX版」と具体的なものを挙げるのも伝わりやすくなります。

どういう点が自分のイメージに近いのかなどの根拠もあると、企画側とのイメージのすり合わせもしやすくなります。

「今は難しいけど、将来的にこういうのをやりたい」というのでも結構です。

再び企画者の視点「最初の質問リスト」

私が最初に掘り下げるのは以下の項目です。
当然ながら「登壇者が考えておくこと」と裏表になっています。

目的とゴール
・この登壇で得たい成果は
・その次のステップは
・最終目標の達成にどうつながるのか
・登壇成果を定性的・定量的に表現すると

リソース
・導入可能なリソースはなにか
・どれくらい導入可能で、どれくらいに収めたいか
・やりたいこと、できないこと、やりたくないことは何か

ターゲット
・ターゲットは誰か
・峻別すべき「似て非なる層」は何か
・その境界線・本質的違いをどう定義するか
・ターゲットはどんな課題を持っているか

コンテンツ
・コンテンツを一言でいうと
・誰のどんな課題をどう解決するのか
・それがどんな価値を提供するのか
・その価値を抽象化すると何と定義されるか
・抽象化によりターゲットがどう拡張されるか
・ターゲットにとって意味のある他との違いや価値の根拠は何か

仕上がり
・曜日、時間、人数と形式、構成のイメージは
・講座を将来的にどのように展開したいか
・ベンチマークとなる講座はどれか

こんなことを聞きながら、登壇者が気持ちよく登壇し、満足する結果を得てもらえるよう、どう参加者価値と成果が出る確率を高め、負荷を減らし、双方に心地いい分担ができるかを、登壇者に提案しながら細かく詰めて決定していくのが、実際に講座を企画するプロセスです。

まあ、早ければ講座案内一発OKの1往復で済んでしまいますが、裏側ではこんなことを推測しながら提案に落とし込んでいます。

さいごに

誰もが自分の場をつくれる世界の実現に向けて「一般ビジネスパーソンが個人で学びの場をつくり続けるための、最も解像度の高いガイド」を世に出すために、2年間で300講座+13年のコミュニティ運営での200イベントで得た知見を、順次記事にしてまいります。

主催イベントは主にこちらで公開しています。

今後の記事をより良くする参考に、質問、コメントなど、気軽に頂ければ助かります。

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引き続き宜しくお願いします。

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