赤い薔薇の咲くころに。

あの頃とはずいぶん変わってしまったわね。
私はずいぶんと皺が沢山あるし、
笑うとそれはもう、
目じりがくっきりカラスの足跡みたいになるのよ。

それはあなたがいてくれたおかげ。

子どもたちがみんな巣立って、所帯をもってからも会いに来てくれる。
そしてかわいい孫たちが、長いお休みになるとやってきて庭を駆け回る。

あなたがいてくれたから、
そんな幸せがあって。
笑うとこんな皺が出来るの。

あの頃のあなたは流行り物が好きだったわね。
結婚を申し込んでくれた時も、そう。
少し前から出始めていて、
その頃やっと定着したスクエアカットのダイヤモンドが
セットされている指輪を贈ってくれた。
あなたが5月生まれだからって、エメラルドカットだった。
今でも少しでもおめかしして出かける時には必ず着けているのよ。
あなたらしい贈り物をありがとう。

あの頃のあなたは本当に流行に乗りたがる人だったわね。
新婚旅行の時も、そう。
ジャンボジェットが出来てまだ数年の時だった。
まだまだ新婚旅行としては国内が主流だった。
私も宮崎に行くものだと思っていたもの。
だのに、あなたったら、
どうしてもハワイに行きたい、と聞かなかった。
飛行機に乗るのがこわかったけれど、
連れて行ってくれてありがとう。

そんなあなただけれど、
結婚を申し込んでくれた時に
指輪と一緒に薔薇の花を贈ってくれた。
パパ・メイアンという品種の、
とても華やかで素敵な香りのする
深く落ち着いた色味の赤い薔薇。
それを、切り花の花束でなく鉢植えで。

鉢植えのほうが、
切り花よりずっと長く楽しめるし、
育てて花を増やすことができるだろう。

植物のお世話なんてしたことがないくせに。
結構手がかかる事なんて考えないで、
そんなこと言うんだもの。

薔薇のお世話の仕方をそのあと沢山調べて、
出来るだけ長持ちさせられるように
頑張ってお世話した。
数年したらお花が増えて嬉しかった。

社宅でベランダの日当たりがよくない時があったり、
海外赴任なんかもあって、
なかなか落ち着いて育ててあげられなかった。
それでも、長持ちさせてあげられたとは思うのよ。
子育てで忙しい毎日だったけれど、
花が咲いて華やかで素敵な香りがすると頑張れた。
お花が咲いたとき、子どもたちに
お父さんがくれた薔薇なの。
と初めて教えた時とても幸せな気持ちだった。

花束が良かった、
と最初は思ってしまったけれど、
鉢植えを贈ってくれてありがとう。

私一人になって、もうすぐ10年になるわね。

今日、園芸店から連絡があったの。
パパ・メイアンが入荷したって。
前からリクエストしていたのよ。
あなたがくれた薔薇と同じ品種の薔薇。
とても華やかで素敵な香りのする、
深く落ち着いた色味の赤い薔薇。

それでね、
さっそくパパ・メイアンをお迎えに行ったわ。

さっき、
一緒に帰ってきてすぐに、
今は物置にしてしまっている子供部屋から
薔薇のお世話の仕方の本を何とか見つけた。

また、育ててみるわ。

来年の春、
きっと素敵な花を咲かせてみせるわ。

一生懸命、お世話するから、
あなたも見に来てくださいね。

深く落ち着いた色味の赤い薔薇の花が
とても華やかで素敵な香りをさせる頃に。

待っていますよ。

約束ですよ。
きっと、いらしてね。


私は今でもあなたが大好きです。