マガジンのカバー画像

532
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

少し仰いで

すっかり吹き飛んだ晴れた空には
物語を失った孤独が隠されている

取り残されて
あとは眠るだけ

甘い夢の虚ろさの中で
ぼんやり待ってみるけれど
そこにはやってこない

さっさと目覚めて
あとを追うだけ

冷たくなっていく空に
ぶらさがってかわっていく
若々しい果実

少し仰いで
さきに行くだけ

みかんの皮剥き

他人の悪口ばかりを聞かされて
みかんの皮剥きに救われる
繊細な白い筋も
時を捨てながらはずしていく
透き通りつるんと化けた房が
とてもさみしい

線香

線香の灯りが日差しに溶ける
煙ばかりが立つこの師走

同調

語り合ったことが遠い日のことのようだ
同調するのか、しないのか
ラジオみたいな問い、だ

あれもしなけりゃこれもしなけりゃ

コーヒーを飲んでいるだけ焦るだけ
あれもしなけりゃこれもしなけりゃ

こっそりぬけて電話した

こっそりぬけて電話した
仕事をひとつ断った
大きな模型を見た

無理難題が並んでいた
荷物を全部捨てたいと思った

先を越された
パスワードを変えた


地下道の湿り気の中を泳いだ

真冬の花火の音がした

キャンセルの知らせが届いた
電球が切れた
電池が切れた
真っ暗だった
眠ろう

眠ろう

もう眠ろう
たこ焼き屋々台の発電機が
いつまでもうるさい

睫毛

ジェリー ジェリー ジェリー
出てきておくれ
ぼくはもう
待ちくたびれてしまったよ

まばらな睫毛がやさしくゆっくり
トムの老いた瞼を縫い合わせました

梱包

くるんだものがなんだったのか
文字を書き込んだら忘れてしまった
それは何かの比喩だった
記憶が言葉に梱包されて
どこかへ連れ去られてしまった

二列縦隊

渡って来るヒトヒト
女らしいらしい
男らしいらしい
渡って来るふりふりの
プラナリア
ちぎってもちぎっても
二列縦隊の兵列

ビル風

塔の群れが揺れ動く
みずから起こしたビル風に
吹かれて青ざめ震えている
聳える自分に脅えている

燻んでいる

揺れる徳利の影に竹串を照らす裸電球のわらい声がへばりつく。たなびく煙から逃れるように囲炉裡の猫は出ていった。ここにあるのは軋んだ床でそちらにあるのは煤けた柱だ。わたしの足もこの腕も何かのために燻んでいる。

隣り駅で見かけた猫

隣り駅で見かけた猫が床下で鼠を追いかけていた。見かけたからといって猫がどうなることもない。決定されたのではなく可能になったのだ。世界はどっちつかずのままほどけたりはしない。

シバシバ

センタクしてなかったから
フダンギがなくて
シゴトもないのに
スーツスガタであそびました
シバシバあります

つやりつやり

黒い丸を描きぐにゃりぐにゃりと伸ばしたその先に白い丸を描き加える。果実のようにつやりつやりとひかる、成果品を取り付ける。