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記事一覧

じゃん

じゃんは私の大切な故郷の言葉です
幼い頃、やさしくかわしていた記憶
取り戻したいです
守りたいです

孤独形

孤独形に刳り抜かれたレモンに挟まったまま
酸性液でずぶ濡れな私が息絶えた
真にひとりだったので
だからどうとかいうことはないのである

背の長い人たち

背の長い人たちが帰ってしまった
夢の様だと言いながら
情けないと言いながら
腹の短い人たちが帰ってしまった

丸める

空のゼンマイがほどけて
自転車が降ってくる
空回りのペダル
車輪が雲の糸を紡ぐ

縮れ毛の僧侶が皺だらけ
風が流れる
衣が揺れる
口あけて
息ついて
疲れた足を丸める

私は赤く爛れた口あけて
歯抜けの闇を吐き出して
風が流れて傍の
蓄音機のラッパも
口あけて

空回りの口あけて
縮れ毛の息ついて
疲れた足を丸めて

耳を澄ます

言葉は朽ちて
リノリウムの床に降り積もる
後悔はそこにおいて往こう
ただ耳を澄ます
この世界の
かすかな擦れ音が聴こえる

土鳩

新橋の土鳩来る来る
補助輪付きの自家用車
五人をぎゅうぎゅう詰め込んで
パタパタパタパタ走ってくる
高速で再生される風景
生乾きアスファルト
雪雲が高層ビルに垂れ掛かる
早春冷たく
雪解け水溜まり飛び越える
人はこれほどまでに泣くものなのかと
拝めば佛佛
鎖がたてる音
腐る音

ひとひとり

ひとひとり
たくさんのひとにあって
たくさんのひとりになる
うすめてひとり
いろづくひとり
いいじゃないかひとり
ひとひとり

誰かの飴

誰かからもらった誰かの飴を
いただきます
噛み砕いたら歯に挟まった
甘くはなくて塩辛かった
誰かの味だった
誰かの道だったと思う

森の子

ナイロン製の帽子の上に
小さな屍が載っている
捻れながら根があらわれて
その子の冒険の日々を地層に記録した
木の葉のかすれた歌声が捧げられて
森の子らが静かに泣き始めた
そこには祈る人がいない
もう誰もいない

沈む

わたしたちはみんな沈む
沈んで泥底に楔文字を刻む
文字は僅かな光を蓄えて
やがて小さな気泡を放つ
わたしたちはみんな沈む
そして煌めく水面を見上げる

風はらみ

傷口は盛り上がり
繋がり目もそう、そんな感じで
頑丈になったと思う
やまびこが声枯らし、それでだんだん
飽きてきたり
諦めかけたり、そんな感じで
頑丈になったと思う
鈍感になったと思う
軒先から赤サビ色の血球が
風はらみ少しの扁平、ぽたりぽたり
落ちていくのを見てる

フロッタージュ

それは只生えてきてしまうものだった
必要なかったな、破壊も暗殺も
突きつけ衝突させるのではなく
丹念になぞり拾い集め復元する
目を凝らす
耳を澄ます
かすかな差異がわずかに響き合う
それでもこんなふうに
心はざわめき始めるのだから

関節

紹介者を調べる
模型の様な紹介者
関節があとから付け足されていた
そこで曲がるのか
そんなところで人形として曲がる
罪と呼ばれるそんなところで
可愛い蕾が見つかったりする
青いインクが染みてきた
慌てて謎解きの頁を捲る

擂り鉢

まもなく雪が降り始めます
すっかり冷えた擂り鉢の底で
私は待っています
見上げれば白い闇
しばらく雪が続きます