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「ハラスメント」とはなに? パワハラ、セクハラ、マタハラ…大切なのは「すこやかに働ける」か!

こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。

前回までの記事では、「コンプライアンス」をより深く、実践的に理解できるよう努めてきました。今回からは、コンプライアンスの一場面として、近年、特に注意が必要なハラスメントについて、7回にわけて説明していきます。


ハラスメントとは何?

ハラスメントは、英語のharassmentからきています。
harassmentは、迷惑をかけること、嫌がらせという意味です。

通常、弁護士は意味が不明確になるカタカナの外来語はできる限り避けますが、コンプライアンス同様、ハラスメントに関しては本来のニュアンスを優先すべくそのまま使っています。

ハラスメントについては、「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」などの事例がよく報道されるので、コンプライアンスより一般的な認知が進んでいるような肌感覚があります。

引用:Google Trends

せっかくなのでGoogle Trendsで検索傾向を見てみると、「コンプライアンス」と「ハラスメント」は同じくらい検索されていました。2018年頃までは、コンプライアンスの方が検索されていたのですね…(意外!)。

そして、この2つの言葉を圧倒的に超える検索数が「パワハラ」。ハラスメントは「〇〇ハラ」で細分化されて認識されているようですね。
私の肌感覚、当たっていました!(笑)

ちなみに、「コンプライアンス」と「ハラスメント」は何が違うの?という点ですが、ハラスメントは「コンプライアンス違反のひとつ」という位置付けになります。しかし、あなたが考えている「ハラスメント」の意味に誤解はありませんか?ぜひ最後まで読み、ご確認ください。

ハラスメントの種類

いま、「◯◯ハラ」の種類は、多いですよね。
ウィキペディアで「嫌がらせ」と調べると「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」「マタニティハラスメント」「モラルハラスメント」の順で、なんと27個もハラスメントの例が挙がっていました(2023年1月時点)。

「バルクハラスメント」(主にジムにおいて、筋肉量が多い人が少ない人を馬鹿にしたような態度)や、「ハラスメントハラスメント」(なんでも「ハラスメント」と言う風潮こそがハラスメント)など、広義の「パワハラ」や「モラハラ」に相当しそうなものも多いです。

冒頭でお話したように、ハラスメントは、英語のharassment(迷惑をかけること、嫌がらせ)からきています。
しかし、この能動的な訳し方ゆえに、ハラスメントが「嫌がらせ行為そのもの」としてスポットがあたるという誤解が、やや生じているかもしれません。

ハラスメントにおける法律上の定義や義務

ハラスメントのいくつかは、法律上、事業者に対し対応を義務付けています。よって、「ハラスメント」の定義も明確にされています。
ハラスメントを正しく理解するために、まず、こちらを見てみましょう。

パワーハラスメント(パワハラ)

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2第1項

つまり、パワハラとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」、但し「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により「その雇用する労働者の就業環境が害されること」ですね。

ざっくり言うと、「職場で、立場が上の人たちが、そのことを利用して、部下等に対して通常業務以上の要求をすることで、部下等がすこやかに働けなくなる」ということです。

パワハラの定義や要件の詳細は、こちら(あかるい職場応援団)を参考にして下さい。

セクシャルハラスメント(セクハラ)

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

男女雇用機会均等法第11条第1項

つまり、セクハラとは、「職場において行われる性的な言動」により「当該労働者がその労働条件につき不利益を受け」ること、
または、「職場において行われる性的な言動」により「当該労働者の就業環境が害されること」ですね。

「上司からの性的な誘いを断ったら降格された」「職場において性的な言動を取られることで、すこやかに働けない」といった事例がセクハラにあたります。

セクハラの定義や要件の詳細は、こちら(あかるい職場応援団)を参考にして下さい。

マタニティハラスメント、パタニティハラスメント(マタハラ、パタハラ)

事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第25条第1項

つまり、マタハラ(母性)、パタハラ(父性)とは、「職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動」により「当該労働者の就業環境が害されること」ですね。

「妊娠したら、辞めるように圧力をかけられた」「育休を取ったら仕事を干された」などの事例がありますね。

マタハラ、パタハラの定義や要件の詳細は、こちら(あかるい職場応援団)を参考にして下さい。

ハラスメントは、被害者基準?行為ではなく、状態かもしれない

このように、パワハラ、セクハラ、マタハラ、パタハラについては、法律上定義がされています。
「労働者の就業環境が害される」結果が生じるような、「職場において行われる◯◯な言動」という形で、一応、行為として定義されているわけです。

しかし、ここで気をつけて欲しいのは、実は法律は、以下のような形では『定められていない』ということです。

何人も、職場において、他の労働者の就業環境を害する、◯◯な言動をしてはならない。

つまり、職場において、他の労働者の就業環境を害する、◯◯な言動は、全て、直ちに違法…とはいえません(!)

一方で、上記で紹介したどの法律も、ハラスメントについて「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定め、(行為者ではなく、)事業者に対して、措置(対応)を義務付けています

つまり、その行為が違法かどうかはさておき、その行為によって、「当該労働者の就業環境が害される状態」について、事前または事後に、必要な対応を義務付けているわけです。ですから、何をされた(言われたか)の前に、「労働者が、すこやかに働けない」状態について問題視していることになります。

そこで、私、思うのです(以下、私、独自の見解です。)。

◯◯ハラは本質的には、『行為そのもの』よりも、「職場において行われる◯◯な言動」によって、「労働者の就業環境が害される」結果が生じるような『状態』を指すのではないか。
ハラスメントとは、「迷惑をかけること」「嫌がらせ」ではなく、『迷惑をかけられること(状態)』『嫌がらせを受けていること(状態)』という意味ではないか、と。

ハラスメントが、加害行為があったかどうか議論する言葉ではなく、「労働者の就業環境が害される」出来事があったかどうかについて議論する言葉だから、まず被害者への対応が優先され、結果として加害者側の行為は後回しなのだと思うのです。

主語が被害者なので、それを指して「被害者基準」といわれているということなのですね。

それに、もしハラスメントが行為だとしたら、「ハラスメント行為」って重言(二重表現、重複表現)になってしまうじゃないですか!

ちなみに、この時点では、法的な意味での「被害者基準」ではないと思います(この点については、「不法行為×ハラスメント」で別に説明します。)。

ハラスメントは難しい

いずれにせよ、ハラスメントは、今ある法律上では「労働者の就業環境が害される」結果が生じるような、「職場において行われる◯◯な言動」と受けとめられています。
ですから、ハラスメントにあたるかどうか検討する上で、「労働者の就業環境が害される」結果が生じる可能性があるかどうか、という評価をする必要があります。

ただしその際、この行為について、「労働者の就業環境が害される可能性がある」という立場の人と「そんな可能性はない」という立場の人との間で、それぞれの価値観に基づく終わらない論争が起こりがちです。

『その行為がハラスメントにあたるかどうか』についての議論ばかりを続けるうちに、実際にどういう言動(行為)があり、労働者の就業環境をどう改善するか、という本来の話がそっちのけになってしまいやすいのです…。
そっちの方がずっと大事なのに…。

だから、ハラスメントは難しい、のです。

実は先日も、顧問先から、「ハラスメントってなんだっけ?」という相談が来ました。
内部論争をした挙げ句、困って相談に来たそうです。
私はここで書いたように「ハラスメントにあたるかどうかを議論するのはあまり意味がないですよ」という話をしました(この話、事前に、顧問先での研修でも話をしているので、二度目ですよ!と苦笑しながらです…。)。

それでは一体、何を議論すればいいのでしょうか。そこで次回からは、ハラスメント事案に対応する際のポイントを順に紹介していきます。

お楽しみに。

【目次はこちら】


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